集会場(後編)
前編と後編の文字数のバランスが悪くなってしまいました(泣)
沙由梨は息を整えながら2人に近づいていくが、潤は縛られて床に土下座して突っ伏しているため気づかない。真那も机に突っ伏して寝息をたてているため気づく余地もない。
「ちょっと真那、起きてよ、あんたがいないと話進まないんだけど」
沙由梨が真那の肩を揺さぶってを起こしにかかるが、
「う、う~ん」
起きる気配がない。
「まったく、みんなしてなんでこんなに寝起きが悪いのよ・・」
沙由梨は怒り気味につぶやきながら、真那が座っている椅子の背もたれをつかんで、思いっきり後ろにひいた。そんなことをすれば突っ伏して寝ていた真那は、
ドサッ
真那は尻もちをついたと同時に目を覚ました。
「いたた~、ちょっと潤さん酷いじゃないですか~。寝ている女の子にこんなことするなんて~」
「待ってくれ真那、縛られている俺がおまえに手をだすことなんてできないぞ」
「足があるじゃないですか~」
「足も縛られてるぞ」
「・・・潤さんはついに超能力まで使えるようになったんですか~?」
「落ち着いてくれ、超能力なんて使えるわけないだろう」
「じゃあ、どうやって私に尻もちをつかせたんですか~?」
「いや、俺が聞きたいよ、なんで尻もちついたの?」
そんなやりとりをずっと見ていた沙由梨がやっと口を開いた。
「ちょ、ちょっと真那・・」
「あ、沙由梨さんいたんですか~、・・・なんでエプロンなんてつけているんですか~?」
「・・・慌てていてこのままここに来ちゃったのよ」
「とらないんですか~?」
・・・。
一瞬の静寂が奔った。
そして、沙由梨は無言でエプロンをはずして、きれいに畳んで、
「そろそろ本題に入らない?」
「そうですね~、ですがその前に、あそこにある段ボールの中身を持ってきてください~」
集会場の隅っこに段ボールが逆さまの状態でおいてあった。
沙由梨は蓋を外す感覚で段ボールを持ち上げると、そこには潤と同じく手足縛られ、口にはガムテープが貼られている青年がいた。
さすがの沙由梨もこれにはギョッとした。
「ま、真那、誰この人?」
「新人さんですよ~、お2人が来るまで逃げないように縛っておきました~」
沙由梨は青年のガムテープをとりあえずと言ってゆっくりとはずしてあげた途端、
「もうやだあー!なんでここに来た瞬間縛られなければならないんだよ!」
「落ち着いてください~」
「はい、落ち着きました」
「それで~この新人さんを今回だけパーティにいれて・・・いえ、放り込んでもいいですか~?」
「言い方はあれだけど、いいわよ、どうせそんなことだろうと思ってたし」
「あ、ありがとうございます」
青年はとりあえずお礼をして、潤の横でおとなしく床に転がった。
「ところで~、さっきから潤さんが一言もしゃべらないんですが~、寝てるんですかねえ~?」
沙由梨は潤の耳元で、
「プリン食べちゃうぞ~」
「ダメだ、プリンはダメだ、それに寝てない」
「私もプリン食べたいです~」
「真那だろうとプリンはダメだ、そういえばさっさと本題にはいらないか?」
「しょうがないですね~、では本題に入りましょう~。先週騒がれていた漆黒の怪鳥ですが~、昨日、ヴェルタムの森で観測されたそうです~」
引き出しから取り出された報告書らしきものをひろげて読み上げた。あと、あの赤いフレームのメガネをかけて。
「ヴェルタムの森かー、野宿の準備は必須だな」
「そうよね、あの森何かと広いから、漆黒の怪鳥を見つけるには大分時間がかかるもんね」
「あとバーベキューセットも必要だな」
「そうよね・・・いやそれは必要ないでしょ!?」
「あ~、それと~、どうも漆黒の怪鳥は夜行性みたいで~、昼には姿を現さないかと~、あと私もバーベキューしたいです~」
「昼間だと潜んでいる状態だし、夜だとこの時期アレがわんさかいるし、あとバーベキューはしません」
「あの、アレってなんですか?」
青年が沙由梨に問うが、
「・・・そういえばあなた名前は?自己紹介ぐらいしてもらえない?」
青年がはっと思い出したようなしぐさをする。
「宮種涼介、21歳です。」
「私は神楽沙由梨よ、こっちの縛られているのが榮倉潤よ、パジャマ姿なのを気にしたらこの先ツッコミが絶えないわよ、あと呼び方は自由にしてもらって構わないわ」
「では私も~、麻井真那です~。見てのとおり集会場の受付をしてます~。3人とも19歳なのであなたの方が年上なんですよ~」
(3人とも年下なのかー、榮倉さん・・・だっけ、なんか、すごく親近感がわく、一緒にしばられているせいかな?それに神楽さんは、すごく寛大というか度量が大きいというか・・・もしかしたらこの人も変な人なのかな?いや、さすがにそれは失礼だよな。でも1番驚いたのはこの受付娘だよ、年下に罵られたり縛られたりされるとは・・・もう、この人やだ・・・)
涼介の心の声はさておき、それぞれの自己紹介が終わり再び涼介が、
「それで先ほどのアレってなんですか?」
「あーそうだったわね」
コホンと咳払いをして説明する。
「ヴェルタム森の夜には3種の狼がものすごい数で、いくつかの群れをつくって餌求めてうろついているわ。これを相手するのはさすがに骨が折れるわ」
「なるほど、3種の狼ってどんなやつなんですか?」
「えーっと、まず1匹目はフォレストウルフ、こいつは基本的木の茂みに隠れていて獲物をみつけたら隙を窺って襲ってくるわ。2匹目はローウルフ、こいつはまず他の2匹に比べて足が速いわ、そして何より相手の足を重点的に狙ってくるわ。そして3匹目はウルファング、こいつは狼のくせに特徴的な鋭牙生えていることよ、噛まれれば致命傷ね」
涼介は顔を真っ青にして、
「そんなのが何匹もいて、襲われても倒すことができるんですか?」
「んー、さあ?その時次第ね、さてそろそろ行きましょ、真那、私たちのポーチとバッグを引き出してちょうだい」
「は~い、ちょっと待ってくださいね~」
ここにきて潤がどさくさまぎれに、
「よし、そろそろ俺の・・・いや、俺たちの縄をほどいてくれないか?」
「いやよ、めんどくさい、芋虫みたいに移動すればいいじゃない?」
縛られた2人は愕然とした。
(こんなに頼んでいるのに!・・・泣)
(やっぱりこの人も変だ!)
そんな2人の心の声を遮るように、
「お待たせしました~、一応必要なものはすべてそろっているはずですので~」
「うん、ありがと、それじゃいってきまーす」
「はい、いってらしゃい~・・・す~」
真那は見送りの挨拶をした瞬間寝息をたてはじめた。
そして3人は、集会場をあとにする。
当然、集会場にも他にも人はいたので、潤たちに向けられた冷たい視線は絶えなかった。
次回からはバトルというジャンルがはいってきます。