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電脳世界の理想郷【設定資料】

作者: 原案・キャラクター原案:遠坂遥 シナリオ原案:フィーカス

【あらすじ】

 電脳世界「アルカディア」の荒廃事件から三年。各地で荒れ果てた世界は復興が進み、以前と変わらない生活水準まで戻った。

 事件の当事者であったユーリやイズミたちは、現実世界の生活をしながら、アルカディアの復興に精を出していた。

 ようやく復興作業が落ち着き、ユーリとイズミはかねてより計画していた結婚式の日取りを考えていた。しかし、セオグラード市民の中では、不気味な噂が流れていた。

 アルカディア荒廃事件の元凶とされる人物、コウダイは、ユーリたちの計らいと、これまでの功績により、処分を免れていた。しかし、市民の中で「ウイルスに感染していたのはデマ」「本当はアルカディアを破壊する目的で入り込んだスパイ」という話がどこからともなく出てきている。

 以前より、「アルカディアは人類を閉じ込めるための檻」「セキュリティが脆弱なのは人類を抹殺するため」などという話がとびかっており、真相は定かではない。コウダイは本当に操られた存在だったのか。アルカディアは誰が作ったのか。ユーリはアルカディアの復興と同時に、様々な真相を解き明かすために調査に乗り出した。


【登場人物】

・ユーリ(桜野悠吏)

武器:テオドゥルフ(「王の狼」という意味の長剣)

   アルフレート(魔力で作られた弓)

固有技:リグルティー・ヴォルフ(アルフレートによるピンポイント攻撃)

    王狼斬撃(シュベルツェの魔力を込めたテオドゥルフにより、黒い三日月形の斬撃を放つ)

    フォルクスヘルム(青い光で味方を包み、攻撃から守る)

    ヴォルフ・ハーゲル(オリジナル。「狼のあられ」の意味。アルフレートの矢を複数連射し、広範囲の敵に攻撃)

    クリミナー・エクシリオ(オリジナル。「罪人の追放」の意味。カズホに魔力操作術を教えてもらって編み出した技。アルフレートの矢数本による、自動追尾攻撃)

 主人公。身長は180cm程度とかなり背が高い。17歳の時に勇者としてアルカディアの住人となる。現在21歳。

 アルカディア荒廃事件の功績と復興の功績により、コウダイ亡き後アルカディア騎士団第二師団ヒルデブラントの師団長に昇格。第一魔術シュベルツェ(闇魔術)の使い手。

 相変わらず牛乳が嫌い。


・アスカ(塩見明日香)

武器:フェロニカ

固有技:ダブル・ブレイブ・ブレイカー(ユーリとの協力技。テオドゥルフとフェロニカを交差させ、お互い魔力を高めたうえで結界をも破る一撃を放つ)

    ファスターフュート(オリジナル。光の力により自らの機動力を上げ、高速移動により複数の敵に攻撃、もしくは複数回攻撃)

 悠吏の幼馴染。クラスはブレードマスター。21歳。

 以前は現実逃避のためにアルカディアに引きこもろうとしていたが、悠吏の思いを聞き入れ、荒廃したアルカディアの復興に尽力する。その功績が認められ、アルカディアの騎士団に入団。現在は第二師団ヒルデブラントに所属し、ユーリの補助を務める。

 第二魔術リヒト(光魔術)の使い手。俊敏性の向上を主体として利用する。

 もともと人との付き合いは良くなかったのだが、アルカディア復興作業をするにつれ、徐々に市民たちとの接触にも慣れてきた。ユーリやそのほかの騎士団員に兵法などを学び、団員たちに指示を送る役割も果たしている。

 現実世界ではのんびりとした性格だが、アルカディアでは攻撃力は劣るものの、俊敏性に優れているためにめったな攻撃は当たらない。攻撃の精度が高い点も、騎士団員から一目を浴びている。


・イズミ(藤野泉)

武器:ローゼンロート(ヒーラー用のロッド)

固有技:エレメンティアライズ(オリジナル。さまざまな属性の力を借り、瞬時に味方の傷をいやす。一気に回復させるため、通常の回復魔術よりも消費魔力が大きい)

    メシエスライズ(オリジナル。ノンプレイヤーキャラクターに限り、戦闘不能となった者の傷をいやし、復活させる)

    クーア・クヴェーレ(オリジナル。「癒しの泉」の意味。大気中の水分を集め、湧き水を作りだす。飲むと体力を回復することができる)

 金色の紙の毛をツーサイドアップにした、白いローブを着た少女。身長は3年前とあまり変わらず、150cm程度と小柄。クラスはヒーラーで、19歳。

 アルカディアを発見した本人であり、ユーリの婚約者。

 もともとヒーラーとしての能力は高かったのだが、アルカディア荒廃事件で実力のなさを感じ、さらに魔力を高めるべく修行を行った。結果、水の加護を得、第四魔術ヴァッサー(水魔術)の使い手となる。また、ノンプレイヤーキャラクターの命を復活させる魔術や、戦闘中でも瞬時に治癒を施す魔術など、高度な魔術を獲得する。引き続き、第二師団ヒルデブラントのヒーラーとしてユーリを支える。

 現実世界では足が不自由なため、アルカディアでは魔術によって動かせるようにしている。


・アイカ

武器:ディートリント(三日月状のロッド)→ヒルフェ・ナーゲル(「救済の爪」という意味の、シスター専用ロッド)

固有技:シュトライテン・トリーブ(オリジナル。「戦いの本能」の意味。団員の士気を高め、攻撃力を増強させる)

    フォーアライター(オリジナル。「先駆者」の意味。団員全員を身軽にし、素早さを上げる)

    シュタールシルト(オリジナル。「鋼鉄の盾」の意味。団員全員を見えない防御膜で覆い、敵からの物理攻撃ダメージを軽減する)

 長い金髪に、つり気味の大きな目をした少女。イズミの姉。26歳。

 アルカディア荒廃事件の根源とされ、謹慎処分を受けていたが、二年前に処分が解ける。以降は荒廃させた罪滅ぼしとして、シスターの道を歩み、困っている人たちを助け続けている。

 何かあればユーリに胸のことを言われるほどの巨乳。

 コウダイが人生の全てだというほどコウダイを溺愛していたが、現在はそれをよい思い出に変えようとしている。

 しかし、コウダイの命を直接断ったユーリのことはどこかで許せない気持ちが残っており、カズホとともに行動することとなる。

 もともと第三魔術フィラメント(炎魔術)の使い手だったが、シスターを目指すに当たり第五魔術シュタール(鋼魔術)も習得。もともと魔術のセンスは高いため、アルカディアの住人には珍しく、2つの魔術を使いこなすことができる。そのため、いざとなったら攻撃魔術により攻撃を行うことも可能(ただしアルカディア崩壊の時に大きく魔力を失ってしまったため、消費魔力が大きい攻撃魔術は多用できない)。

 基本的にはヒーラー兼サポート役。補助呪文は強力なものが多く、回復魔術も使用可能と、魔術を使わせれば万能に何でもこなす。


・コウダイ

 身長が180cmを越える、金髪の大柄な男。第二師団ヒルデブラントの元師団長。アルカディア荒廃事件の時点で22歳。

 アルカディア荒廃事件の元凶であり、ウイルスによりアルカディアを滅ぼす殺人マシーンとなり、ユーリたちに命を絶たれた。

 ユーリたちの計らいにより反逆による処分は免れたが、市民の中では「荒廃の根源」と言われている。


・カズホ

武器:ハインリッヒ(魔術で作られたマジックガン

固有技:グレイズ・クーゲル(魔力の塊である光弾を空中に撃ち出し、そこから雨のように散弾の雨を降らせる。複数の敵を攻撃できるが威力は小さい)

    アイゼン・ビーネ(オリジナル。「鉄の蜂」の意味。片腕を失ったカズホが編み出した技。集中力を上げて狙いを定め、魔力を一点に集中することで、破壊力とスピード、命中力の高い魔力の弾を撃ち出す)

    ヴィント・シュートス(オリジナル。「突風」の意味。ヴィントの魔力を込めた銃弾を放ち、触れた相手を強力な風で吹き飛ばす)

 一見すると女性かと見間違えるほどの中性的な顔立ちで華奢な体をした男性。現在19歳。

 マジックガンの弾丸の操作はもちろん、グレイズ・クーゲルによって放たれた散弾も操ることができる器用さを持つ。また、遠距離の敵を確実にしとめるため視力がよい。

 スコピエル北東のモンスター襲撃の際、腕を食いちぎられ、義手を施される。その後はより騎士団の役に立てようと、銃撃の腕を磨く。第七魔術ヴィント(風魔術)の使い手。

 その一方で、自慢の視力と、ミナトほどではないがすぐれた魔力探索能力を駆使し、セオグラードに近づくモンスター討伐に(自身の訓練成果の実験の意味もかねて)参加している。

 その優れた危険察知能力と魔銃の扱い、およびモンスター討伐の功績が認められ、第二師団の新しい精鋭部隊、イデアール(「理想」という意味)の師団長に任命される。


・ミナト

武器:シャリオヴァルト(魔力で作られた巨大な槌)

固有技:ギガント・シュラーゲン・ハンマー(ユーリとミナトの力を合わせた、シャリオヴァルトによる一撃必殺技)

    レーベ・ゲシュライ(オリジナル。「獅子の悲鳴」という意味。魔力を帯びたシャリオヴァルトで大地を砕き、その破片に魔力を帯びさせて拡散し攻撃する)

    クラーゲン・シュトローム(オリジナル。「嘆きの渦」の意味。大地に衝撃を与え、遠距離に岩石の渦を発生させて攻撃する)

 黒髪長髪の眼鏡っこ。現在19歳。

 小柄ながらも、巨大な槌シャリオヴァルトを振りまわすほどのパワーを持つ。

 また、魔力探索の能力を持ち、これによりモンスターの所在を感知できる。

 ユーリに好意を持っているのだが、ユーリの思いに気づいてからはユーリの妹的な存在としてユーリをサポートする。ユーリの要望で、ユーリのことを「お兄ちゃん」と呼んでいる。また、ユーリの教育の成果か、ユーリに対しては「妹としては~」が口癖となってしまった。

 非常に高い物理攻撃力が評価され、一時期は新しい精鋭部隊の師団長を推す声も上がったが、団員への指導力や統率力のなさなどが挙げられ、結局ユーリとともにヒルデブラントで活躍することとなる。

 親しい人物や好意を寄せた人物にはスキンシップを積極的に行うほど激しくなつくが、一方敵対する相手や裏切り者に対しては(たとえ以前味方や上司だったとしても)容赦がない。いろんな意味で分かりやすい人物。

 


・セオグラード市長

 セオグラードの市長であり、イズミとアイカの父。

 アイカの許嫁であったコウダイが亡くなったことに対しては、実はかなりがっかりしている。

 突拍子もないことを幾度も口にするが、市長としては市民からの支持が高く、市長としての役割をしっかりと果たしている。

 自身はまだ40代後半なのだが、早くも孫を望んでいる。最近ではユーリやイズミに会うたびに「孫はまだか」とせかしている。

 実は、本名は娘であるイズミとアイカしか知らない。市民やユーリからは「市長」と呼ばれているのでそれほど問題ないのだが、市長の職を辞めた後どう呼ばれるのかを気にしている。


・フジノ

 インターネット上の「アルカディア」を発見した人物。「開拓者ピオニアーフジノ」と呼ばれている。

 ユーリたちにはフジノ=イズミ(藤野泉)であることは知られているが、いまだに多くの人は実態を知らない。

 さらに、彼女の名前を騙り、アルカディアに干渉しようとする動きもあるらしいが……


・セツナ

武器:テオドゥルフ(かつての勇者が使っていたといわれている伝説の剣)

固有技:シュタルク・ヴォルフ(魔力を込めたテオドゥルフで攻撃し、触れた敵を爆弾化する。爆弾化した敵が損傷したとき爆発し、周囲に攻撃する)

 アスカが作りだした、ユーリの分身。

 その意識や記憶は、現実世界に戻ることで元となったユーリと共有することができ、アルカディアで再び個別の意識として分離される。

 アルカディアでは、現実世界の人間一人につき、住民となれるキャラクターは一人まで。では何故彼は存在したのだろうか……?


・ドウゲン市長

 スコピエルの市長。スコピエルにいた多数の騎士団員を失い、市長としての能力のなさを嘆き、自殺を図ろうとしたこともあった。

 アルカディア荒廃事件後は、私財をなげうってスコピエルの復興に尽力するも、大量の死者を出してしまった責任を感じ、辞任をしようとする。

 しかし、事件がウイルスによるものであることを市民は理解しており、むしろ私財を掛けてまで復興に取り組んだ市長の評価は高く、辞任反対運動が広まった。

 そのため、苦しみながらも市長としてスコピエルの平和を守っている。


【地名など】

・セオグラード市

 イズミたちが暮らす都市で、アルカディアの中心都市。

 少し海からは離れているが、常に新鮮な魚や野菜がこの地に集まってくる。

 アルカディア屈指の強固な城壁を有しており、「アルカディア一安全な都市」とも言われている。

 アルカディア荒廃事件で大きな被害を受けたものの、復興後は再び中心都市としての機能を復活させている。


・スコピエル

 高い城壁に囲まれた都市。セオグラード市よりも立派な城壁ではないが、入口にある守護像・怪鳥スコピエにより強固に護られている。

 アルカディア荒廃事件の時に、所属していた騎士団員が全滅し、街を守る手段は現在城壁と守護像のみ。

 荒廃後の混乱もあり、正式な騎士団は存在しないが、街の復興と市民の人口増加とともに、自治団体が形成される。その中のモンスター討伐部隊が、アルカディア騎士団の役割に近い。

 都市内での犯罪が多いなど、セオグラード市ほど治安は良くないものの、モンスターからの襲撃にはセオグラード市以上に強い。そのため、有事の際にはこの都市に避難する住人も多い。


・セントラルシティ

 アルカディアにある都市。

 住居地帯としてはセオグラード市が最大だが、工業地域としてはセントラルシティが最大。

 セオグラード市やスコピエルのような城壁はないが、その代わりに固有結界が張られており、モンスターや外敵の侵入を防ぐ。

 中にはプログラム制御施設があり、アルカディア全体のプログラムを制御している。

 住居施設や商業施設も少なからずあり、近隣の住民は有事の時にこの場所に避難することがある。ただし収容人数は少ない。


【アルカディア】

 5年前にフジノによって発見された世界。

 パソコン内にあるバーチャル世界ではあるが、中に入ると現実世界と区別が付かないほどのリアリティがある世界である。「地球の裏側にあるもう一つの地球」ともいえる。

 現実世界の住人の他に、この世界の住人としてふるまうノンプレイヤーキャラクター(「命をもたないのに、まるで本当に生きているかのようにふるまっているもの」と表現される)が存在している。

 働き口が広く、最初は働くことに難色を示した住民も、実際働くことにより生きがいを感じている。

 人々にとっては、単なる現実世界と違うバーチャル世界だったが、ウイルスによる魔物が増殖した(ただしアルカディアの市民はウイルスによるものという認識はない)。

 フジノの開拓のせいでセキュリティが甘くなったらしく、ウイルスによる攻撃に弱い。

 アルカディア賛成の人が次々と住民になる一方、否定派も多い。

 現時点で誰が作ったのかは不明。


【魔術】

 アルカディアで使用できる術。

 一般人であっても、アルカディアでは何らかの力を持っている場合が多く、能力の差はあるものの多少なりとも魔力がある場合が多い。

 使える魔術には7つの系統がある。


・第一魔術:シュベルツェ

 闇魔術。武具に魔力を宿らせ、攻撃力を大幅に増強するものが多い。作中ではユーリが使用。


・第二魔術:リヒト

 光魔術。光の力により動きを活発化させたり、逆に相手の目をくらませることにより動きを鈍らせるものが多い。作中ではアスカが使用。


・第三魔術:フィラメント

 炎魔術。炎や爆発により、魔力攻撃をするものが多い。作中ではアイカが使用。


・第四魔術:ヴァッサー

 水魔術。水の力で体力を回復させたり、水の加護で魔力からの攻撃を防いだりするものが多い。作中ではイズミが使用。


・第五魔術:シュタール

 鋼魔術。人体や物を強化して防御力を高めたり、物質を魔力で強化することにより、相対的に物理的攻撃力を上げたりするものが多い。作中ではアイカとミナトが使用。


・第六魔術:ダスアイス

 氷魔術。水分を凍らせた氷柱や氷塊で攻撃したり、相手を氷漬けにして閉じ込めたりするものが多い。作中では第二師団の兵が使っている。


・第七魔術:ヴィント

 風魔術。他の魔術と異なり、魔力がない状態でも空気さえあれば使用可能。圧縮空気による攻撃や、風の力により俊敏性を上げるものがある。作中ではカズホが使用。


【ウイルス】

 電脳世界の天敵。これにより、アルカディアではモンスターが生まれたとされている。

 主に以下のタイプが挙げられる。


・自己伝染タイプ

 自らの機能によってほかのプログラムに自らをコピーし、またはシステム機能を利用して、自らをほかのシステムにコピーすることにより、ほかのシステムに伝染するタイプ。主に感染拡大を目的としている。


・潜伏タイプ

 発病するための特定時刻、一定時間、処理回数などの条件を記憶させて、発病するまで症状を出さないタイプ。感染経路や感染時期が特定しにくく、発見されにくい特徴がある。


・発病タイプ

 プログラム、データなどのファイルの破壊を行ったり、設計者の意図しない動作をするタイプ。特定のデータやプログラム、あるいは特定企業への攻撃などに使われる。


 アルカディアでは、反対派が世界を混乱させたり、破壊したりする目的で発病タイプのウイルスを送り込んでくる。まれに、潜伏タイプとの複合もある。


【適当プロット】


<セオグラードの噂>

 アルカディア荒廃事件と呼ばれる大きな災害から三年。中心都市セオグラードをはじめ、アルカディアの都市は復興のめどが立ち始めていた。

 かつて繁栄した中心都市の姿が元通りになり、ユーリとイズミはかねてより予定していた、二人の結婚式の計画を立てていた。

 しかしそんな中、セオグラードではアルカディア荒廃事件に関する妙な噂が広まっていた。ウイルスによって操られたコウダイによって起こされた事件、しかし「ウイルスで操られたのはデマ」という噂が流れ始めたのだ。中には「コウダイは荒廃の根源」というものもいた。

 コウダイの侮辱を許せないユーリは、コウダイの汚名を晴らすため、「調査師団ヒルデブラント」を立ち上げ、噂の出所を探ることにした。

 イズミの話でも、「アルカディアにはウイルスの侵入が絶えず、セキュリティが働かない」「そのようなウイルスが存在するとしか考えられない」「優しかったコウダイさんがこんなことをするなんて、他に原因があるとは考えられない」ということだった。

 一方では、復興が進むにつれ、モンスターの侵攻がたびたび起こるようになった。感染型ウイルスにより、モンスターの増殖が確認されているとも言われている。

 そこで市長は、「調査師団ヒルデブラント」とは別に、カズホを師団長とする「護衛師団イデアール」を立ち上げ、セオグラードの防衛とウイルスの調査を同時進行で行うことにした。


<セントラルシティの実態>

 噂の出所の調査につまり、ユーリたちヒルデブラントは、ウイルスの侵入源を調べるべく、プログラム制御装置のあるセントラルシティを目指した。

 途中幾度となくモンスターとの戦闘を余儀なくされたが、戦力的に負けるはずのない戦いだった。

 しかし、まもなくセントラルシティに到着しようとしていた時、スコピエルで出会った「見えない敵」に襲撃される。戦う余裕なく、ユーリたちはセントラルシティへ向かうことを優先させた。

 セントラルシティは電気や上下水道といった、ライフラインを担っている工場が多く立ち並んでいる都市である(ここだけではアルカディア全体の電力や水道を賄い切れるわけがないので、アルカディア全体に似たような都市は点在する。村によっては自給自足しているところも)。それだけでなく、セントラルシティには、アルカディア全体のプログラムを制御する研究所が設置されている。ここは一般のアルカディア住人からは、単なる研究所としか見られておらず、存在を知っているのはアルカディアを発見したイズミだけ。

 一通り街の中を見回った後、すぐに研究室のプログラム制御室に向かう。膨大な機械の中、イズミはプログラム制御室のコンピュータをいじり始めた。

 ウイルスに対するセキュリティはゆるいが、ウイルスが侵入した履歴だけは残っている。それを見ると、ウイルスの侵入はイズミがアルカディアを発見した当時から始まっており、これまでに何万回とウイルスの侵攻を許している。特に最近は一日百回以上入る日もあり、想像以上に増え続けるモンスターの原因となっているようだ。

 セキュリティ強化はできないものかと尋ねるが、イズミは「技術的な問題でできない」の一点張り。ユーリは疑問を抱きながらも、プログラム制御ルームから出た。

 ふと、ユーリは一枚の紙が目に入る。それは誰かが書いた落書きらしく、ウイルスのことについて細かく書いてある。もしかしたら手がかりになるかもしれないと思い、ユーリはこっそりと持ち帰った。

 外に出ると、なんと待機させていた師団団員が、街に侵入したモンスターと交戦していた。どういうわけか、街に張り巡らされていた結界が解除されていたのだ。

 イズミによると、「名前は結界だが、アルカディアのプログラムにより張り巡らされた防御システムであり、何者かがシステムに侵入して解除したのでは」とのこと。ユーリはイズミにシステム再起動を任せ、アスカやミナトとともに侵入してきたモンスターの討伐に当たることになった。


<モンスター侵攻の激化>

 無事に防御システムを再起動し、侵入してきたモンスターたちの討伐を完了させたユーリたち。そのあと、アルカディア荒廃事件を受けて開発された通信システム「オルドナンツァー(「伝令」という意味)」により、カズホたちからセオグラードでのモンスター侵攻が激しくなってきているという連絡が来た。

 急いで護衛師団イデアールの応援に向かうため、ユーリたちヒルデブラントはセオグラードに向かった。セオグラードからセントラルシティまでは歩いて数時間。途中、イズミの体力回復を受けながら、できるだけ兵を急がせる。

 セオグラードに到着すると、周囲にモンスターの気配がない。街の中は、いつも通りだった。

 カズホに話を聞くと、「ものすごい数のモンスターが襲ってきて、イデアールだけでは対処できないと思った時、市長が出てきていきなり全滅させた」という。市長は一体何者なのだろうか。

 しかしながら、モンスター侵攻が日に日に増えている事実は看過できず、騎士団で対策を練ることにした。

 ウイルスの侵入も増えていることから、なんとかウイルス侵入を止めることができないか、感染源を絶つことができないか。話し合いは長く続いたが、結局兵力を増強するしかないという結論に至った。

 商人たちも戦闘する能力はあるとはいえ、あまりにモンスターが多いと物資の供給も困難になる。セオグラード自体の護衛とともに、遠方のモンスター討伐にも人員を割くことにした。


<ユーリとセツナ>

 ユーリがセオグラードで休んでいると、奇妙な夢を見た。

 目の前には自分自身、ふわふわとした空間で向き合っている。

「君は、誰?」「君は、誰?」「君は、俺?」「君は、俺?」

 質問をしても、同じ答えしか返ってこない。

「俺は、ユーリ」「僕は、セツナ」

 驚いたことに、目の前の自分は自らを、アスカが作りだしたユーリの分身、セツナと名乗った。

「一体、何故この世界に俺の分身が?」「一体、何故だろう。記憶を持たない僕にはわからない」

 そういって、どこかに行ってしまう。最後にセツナと名乗る少年は、ユーリに一言告げた。

「夢は醒めるから夢である価値がある。醒めない夢は、現実と同じ」

 そして、セツナはどこかに行ってしまった。

 目を覚ましたユーリは、そのことをアスカに話したが、まるで信じてくれない。そもそも、アルカディアでは現実世界の人間一人につき、一つのキャラクターしか存在できないはずである。これはバグなのか、それとも何か理由があるのか。

 まだまだ解けない謎を多く抱えて、ユーリはモンスター討伐に向かった。


<インビジブル・モンスター>

 モンスター討伐を続けて数日間、いまだに侵攻が衰える様子はない。

 その中で、再び「見えない敵」との戦闘になり、再び撤退を余儀なくされる。

 しかし、今回はカズホが編み出した一点集中攻撃に加え、敵の魔力を察知して自動追尾することが可能になったグレイズ・クーゲル、さらにはユーリの新しい技、クリミナー・エクシリオにより「見えない敵」の撃退に成功する。

 それにしても、何故「見えない敵」まで出てくるようになったのか。イズミの話では、どうやらウイルスの中でも、「グラフィックを消すことができるウイルス」というものが存在するらしい。高度なプログラムのため、侵入には時間を要し、数はそこまで多くないのだという。

 だが、日に日に増えていく「見えない敵」との戦闘。こちらの対抗策もいくつかそろえたが、やはり苦戦する。おそらく、感染型のウイルスを一度侵入させることで、自動的にモンスターを増やす方法を、「見えない敵」を作りだすウイルス、通称「インビジブル・ウイルス」に応用したものだと思われる。

 やはり、ウイルスの侵入を止めることが最優先となりそうだ。しかし、イズミはかたくなに「できない」と言う。ウイルスにこれほどまで詳しいのに、どうしてセキュリティを作ろうとしないのか。徐々にイズミに不信感を抱くユーリをよそに、この日のモンスター討伐は終わりを迎えた。


<イズミの日記>

 久々にイズミの部屋に顔を出したが、イズミは留守中だった。

 市長には「ゆっくりしていってくれ」と言われたので、ひとまず近くの椅子に座る。気になって机の上のノートを見ると、どうやら日記のようだった。

 適当にパラパラめくっていくと、「現実世界には戻りたくない。必ずアルカディアを守ってみせる」というような言葉が目についた。

 アルカディアを守るのはわかるが、現実世界に戻りたくないとはどういうことなのだろうか。そう思っていると、急にイズミが戻ってきた。がっつり怒られるのかと思ったが、見られて困るものではなかったのか、怒っている様子はない。

 ユーリはイズミに「現実世界に戻りたくない?」と聞くと、イズミは「この世界が一番好き。この世界にずっといたい」と答える。さらに、「この世界で死ぬと、現実世界ではどうなると思う?」と聞いてきた。

 そういえば、この世界で死んだ後のことなんて考えていなかった。普通のゲームなら、ゲームオーバーになって、セーブしたところなりステージの始まりなり、どこかから再開するだけだ。現実世界に影響があるとは思えない。

 しかし、この世界は別で、現実世界の姿がこの世界で反映され、痛みも感じるし、空腹にも満腹にもなる。イズミが足を動かせないのを魔術で補っているように、現実世界の状態がこの世界にも反映されている。となると、この世界での死は、現実世界での死でもあるのか。そう考えると怖くなる。

「この世界で死ぬと、現実ではアルカディアで起こった出来事を全て忘れてしまいます。例えば私がこの世界で死ぬと、市長の娘であったことも、ユーリの婚約者であることも、恐らく、アルカディアを発見したことも」

 アルカディアでの死、その事実と、イズミのアルカディアに掛ける思い。複雑な感情の中、ユーリはイズミの部屋を後にした。


<スコピエルの亡霊>

 モンスター討伐の日々の中、復興を目指すスコピエルから、モンスターの討伐が追いつかないという連絡を貰った。

 こちらの戦力は、日々の討伐の中で徐々に上がってきているし、「見えない敵」も既にそれほど脅威ではなくなっていた。

 実力のある団員が増えてきたため、セオグラードのモンスター討伐は彼らに任せ、ユーリたちヒルデブラントと、カズホたちイデアールは、スコピエルに向かうことにした。

 スコピエルまでは長い距離があるが、アイカとアスカの補助魔法を使い、少数精鋭に絞ることにより、素早く移動する。以前は何十日もかかっていた移動時間が、数日で移動することができた。

 街の外でスコピエルのモンスター討伐部隊が闘っていた。苦戦をしているところに、ユーリたちの助けが入り、その日のモンスター討伐は終わった。

 ドウゲン市長によると、やはりこちらでもモンスターの侵攻が日に日に増えているらしい。さらに、街の住人達が、毎日亡霊を見るという。

 この場所は、コウダイと戦った場所であり、もしかすると彼の亡霊がさまよっているのだろうか。そう思いながら、ユーリたちは調査を始めた。

 スコピエルから少し離れた霊園、つまり墓場には、数々の戦いや病魔などにより亡くなった人々が眠っている。コウダイの墓も、この場所に作られた。最近では、「荒廃の根源」とする市民たちにより、墓にいたずらをするケースが後を絶たないらしい。

 そんな霊園からは、ものすごく強い魔力が感じられる。魔力を感知できる能力が小さくても、霊が乗り移ったような寒気を感じる。

 ユーリたちがコウダイの墓までむかうと、突然枯れた声が聞こえてきた。「アルカディアは……牢獄……はやく……立ち去れ……」

 なつかしさと恐怖を感じながら、一体どういうことか尋ねようとするユーリ。しかし、ミナトやイズミによって、現実世界では霊力とも言える魔力が払われ、声は聞こえなくなった。

「ユーリ、コウダイはもう死んでいるの。死んでいる人の声は聞こえるはずがない。だから目を覚まして」

 イズミに諭されながら、ユーリは霊園を後にする。結局亡霊の正体は、霊園に溜まった魔力が発する音であると結論づけられた。

 それにしても、「アルカディアは牢獄」とはどういう意味だろうか。ユーリはスコピエルの宿屋で考えつづけた。


<アルカディアの正体>

 セオグラードに戻ったユーリは、イズミやアスカには内緒で、セントラルシティに向かうことにした。しかし、道中一人では不安なため、誰かお供を連れていこうと考えた。

 しかし、アイカでは調査の都合上ダメだし、ミナトもこういうことに連れていくには不向きだ。一番無難なカズホとともに向かうことにした。

 たった二人の旅のため、カズホは様々な準備してくれた。また、「空路は比較的安全」とのことで、第七魔術ヴィントの力を借りた飛翔術で一気にセントラルシティに向かうこととなった。

 目的はもちろん、プログラム制御室。普段は誰も入らない研究室は、難なく入ることができた。

 アルカディア、理想郷と名付けられたこの世界に、どうしてこんなにもウイルス攻撃が頻繁に起こるのか。ウイルスに関するメモを見ながら、アルカディア反対派の仕業だろうということは漠然と考えていた。

 制御室にあるパソコン、そのロック解除方法は、イズミがやっていたのを見ていたので覚えている。ふと、「アルカディアって誰が作ったんだろうな」とつぶやくと、カズホから意外な返事が返ってくる。

「あれ、知らないんですか? 今から十年くらい前から、電脳世界にある理想郷の話は出ていたのですよ。もっとも、僕はその時小学生だったので、興味はなかったのですが」

 イズミが発見する前から、既にアルカディアの存在は話題になっていたという。そして、さらに「作ったのはフジノという人らしいですね」とも言っていた。

 たしかにアルカディアを発見したイズミも「フジノ」であるが、それ以前にも「フジノ」は存在した。いくらアルカディアを開拓した天才とはいえ、小学生で「作る」ことまでできるとは考えにくい。となると、イズミの両親か、あるいは親族だろうか。

 ウイルス侵入の履歴を見ると、今は以前より極端に減っていることがわかった。一度送り込めば感染により増殖するタイプが主流になったのもあるだろうが、それにしても減り方が半端ない。どうしてだろう、とカズホと考えると、後ろから声が聞こえてきた。

「アルカディアの人口が、モンスターの襲撃によって一気に減ったから、ですよ」


<ウイルスの意義>

 声の正体はイズミだった。ユーリがセントラルシティを調べるであろうということは、既に読まれており、セオグラードからこちらに向かっていたのだ。

 イズミの話によると、ウイルスによる攻撃は(もちろん単なる愉快犯もいるが)ほとんどがアルカディアの住人の知り合い、親族によって行われているということだ。

 現実世界では、電脳世界から戻ってこない人が多数出ており、大問題となっている。それで、アルカディアの脆弱性を知った人々が、ウイルスによる攻撃方法を取得し、アルカディアへウイルス攻撃をしているのだという。

 アルカディアで死んだ人間は、現実世界に引き戻され、アルカディアで起こった出来事を全て忘れる。モンスターに殺させることで、電脳世界に入り浸ってしまった友人や家族を、現実世界に引き戻そうとしているのだという。

 イズミには、これらのウイルスを防ぐ手段を知っている。しかし、あえて防ごうとはしなかった。

 アルカディアを開拓した当初は、とりわけ特にやることもなく、仕事にありつこうとする人もいずに、だらだらとしたつまらない世界だったという。それが、ウイルスによってモンスターが増殖し、その討伐と言う目的を持ったことで、この世界に入り浸る目的ができたのだ。

 イズミが死者に冷たかったのは、アルカディアでの死であっても現実世界では死んではいないこと、そしてそんな思いのために楽しいこの世界を悲しみに染めたくないという思いからだった。

 ウイルスを止めてしまえば、戦いはなくなってしまう。平和な世界にはなるだろうが、この世界である必要がなくなってしまう。だから、ウイルスは必要なのだと。

 そして、最後にこう告げた。

「お願い、私からアルカディアを奪わないで。私だけの理想の世界に、これ以上干渉しないで!」


<セツナの記憶>

 ユーリの分身、セツナは真っ白な空間にいた。

 名前以外、記憶が抜けた、空っぽな自分は、どうしてこの場所にいるのか。ユーリが自分と同じなら、何故セツナという人物はここにいるのか。

 ふと見ると、何やら黒いものが上から下に流れている。一体あれは何なのか。

「あれはウイルスだよ。アルカディアにモンスターをもたらすためのね」

 後ろから、か細い男性の声がした。振り返ると、身長170センチ程度の白衣の男性が立っていた。

「私はアルカディアを開発した、フジノという者だ。友達ができない娘のために、友達ができる世界を開発したのだが、自分がやっていることがどれほど残酷なことであるか気が付き、その存在を封印したのだ」

 しかし、フジノの娘は頭がよすぎた。体が不自由になってからと言うものの、人生の大半をパソコンの勉強に費やし、ついに封印したアルカディアを発見した。そして、アルカディアの人口減少が顕著になると、「アルカディアの危機」と称して、アルカディアへの住人募集をかけるのだ。「勇者の募集」と称して。

 勇者の抽選に外れた者に対しても、「勇者になれる素質がある」などといい、アルカディア騎士団の団員になることを勧められ、この世界に永久移住させようとする。

 ウイルスは、その目的のために利用されているという。

 記憶のないセツナには、イマイチその話がピンと来ない。でも、これはきっと重要なことなのだろう。彼ならきっとこの情報が有益であるとわかってくれるはず。

「私が君という、勇者の分身を作ったのは、アルカディアという世界の本当の目的を知って欲しかったから。本当は私が直接教えるべきだったのだが、今は残留思念でしかなく、伝える手段がなかった。君なら、私を見つけてくれると信じていた。私の娘に、私の思いを伝えてほしい」

 そう言って、フジノは消えていった。


<イズミの暴走>

 プログラム制御室に響くイズミの声。ユーリは、イズミの願いに答えを出さなければならなかった。

「もちろん、俺もアルカディアは好きだ。でも、戦いだらけで傷ついて行く人を放ってはおけない。戦いのない平和な世界で、一緒に暮らせばいいじゃないか」

「それじゃこの世界がこの世界じゃなくなっちゃう。戦いがない退屈な世界では、誰もこの世界を好きになってくれない。もう、あんな寂しい思いはしたくないの!」

 イズミは友達ができずに寂しかったのだろう。アルカディアという世界が、彼女に友達を作り、生きる意味を与えてくれた。そしてモンスターの存在が、それらを支えていた。

 しかし、戦いで仲間が傷つく姿、死んでいく姿は、たとえ電脳世界であっても見ていてつらいばかりだ。もしアルカディアという世界で暮らすのであれば、平和な世界のほうがいいに決まっている。

 そのせいで、勇者という肩書は必要なくなるだろう。ならばそれでもいい。平和な世界で、イズミたちと暮らす。きっと、それが一番幸せになれる道だ。カズホも、その考えに至っている。

 ユーリがイズミを説得していると、こちらに向かってくる足音が聞こえた。そして、アスカやミナト、アイカまでもが入ってきた。

 ユーリとイズミの話を聞き、アスカたちもイズミの説得にあたる。しかし、イズミは聞き入れようとしない。ならば、とイズミはユーリたちを押しのけ、パソコンをいじり始めた。

「モンスター発生を永続化させたの。今まで散々送られてきたウイルスを利用してね。そして、これまで通り、ウイルスも次々と送られてくる。あなたたちのいう平和な世界には二度とならない」

 ついにイズミが暴走してしまった。モンスター発生の永続化、つまりここの住人は、延々とモンスターを倒し続ける生活を余儀なくされることになる。失敗すれば、簡単に殺される。さらに送られるウイルスによりモンスターはどんどん凶悪狂暴化し、いずれは手が付けられなくなってしまう。もはや、この世界が崩壊するのは時間の問題だ。

「止めろ! そんなことをすれば、アルカディアが崩壊する! それに、どんどん住人が死んでいくんだぞ!」

「ここで死んだって、現実世界では生き残るの。それに、私にとっては、この世界で死んだ人には興味はない。私の大切な人だけ、生き残ってくれればいいの」

 普段の彼女からは想像できない、イズミの黒い笑い声が、制御室に響き渡る。


<ユーリの決断>

 イズミが暴走し、ユーリたちにはこの状況を打破する手段が思い浮かばなかった。

 その時、突如ユーリが光に包まれた。何が起こったかわからず、まぶしい光に誰もが顔を覆う。しばらくして、ユーリを包んだ光が収まった。

 そして、ユーリはイズミに告げる。

「イズミ、アルカディアを作ったのは、君の父さんだね」

「え、どうしてそれを……?」

「セツナの記憶が、それを教えてくれた。本来は、病気だった君に、どんな状態でも友達ができるように作られた世界だって。でも、その世界に入り浸ることは、娘を鳥籠に閉じ込めるような物だと気づき、アルカディアを封印した。それを、君が発見したんだ」

 イズミの父は、アルカディア開発の後、娘を残して病気で亡くなった。その思念だけが、アルカディアの誰も知らないところで残っていた。セツナという存在は、イズミの父が、自分の存在を見つけ、イズミに現状の過ちを伝えるために作られたものだという。

 十年越しに伝えられる、父から娘への思い。しかし、イズミの決断は変わらない。

 セツナの記憶は、父の思いの他に、この状況を打破する手段、そして父親の願いが刻まれている。

 それは、この世界のイズミを殺すこと。この世界は、もはやイズミの創造で作られた世界と言っても過言ではない。イズミのプログラムは、アルカディアのプログラムとリンクしており、制御室に寄らなくとも制御が可能だという。

 イズミを殺せば、アルカディアの機能は完全に停止し、住人達は元の世界に戻ることができる。

 当然ながら、イズミがこの世界で死ぬと言うことは、現実世界ではアルカディアの記憶を失うことになる。アルカディアの生活も、いろんな人たちに出会ったことも、この世界を見つけたことも、ユーリが好きだったことも。

 一方のユーリたちも、アルカディアの記憶がどうなるかはわからない。強制的に現実世界に戻されるのだから、記憶を失っていない保証はないのだ。

 イズミの記憶が消えること、ユーリ自身の記憶が消える恐れ、なにより、愛する人に電脳世界とはいえ手を掛けなければならないということ。その苦しみが、ユーリに重くのしかかる。

 思えば、これはコウダイが抱いていた思いと同じだったのかもしれない。元々、アルカディアという世界は存在すべきではなかった。ウイルスに操られていたとはいえ、アルカディアを破壊し、住人を抹殺しようとしたのは、住人たちを元の世界で平和に過ごしてもらいたかったからなのだ。

 それを考えれば、「アイカを手に掛けることができなかったのが心残りだった」という言葉も理解ができる。この世界で最も愛した人、アイカには、たとえ自分のことを忘れたとしても、現実の世界で幸せに暮らしてほしい。そんな思いがこもっていたのだろう。

 それを考えれば、イズミに手を掛けることにすら戸惑いを見せている自分は、情けないと感じる。しかし、アスカやミナト、カズホ、そして一番苦しい思いをしたであろうアイカからの言葉により、決断をすることになる。

「夢は醒めるから夢としての価値があるんだ。イズミ、もうこんな夢からは醒めよう」

「そんな、ユーリ、私を殺したりしませんよね? ユーリはこの世界で私と一緒に暮らして、結婚式を挙げて、幸せに暮らすんです。私はユーリを愛しています。ユーリは、私のことを愛していないのですか?」

「イズミ、俺は君のことを愛しているよ。アルカディアで一番、この世界で一番、誰よりも。だから……」

 ユーリはテオドゥルフをイズミの心臓に突き刺した。

「せめて、元の世界では幸せになってくれ」


<藤野泉の夢>

 気が付くと、悠吏は自分の家のパソコンの前にいた。随分と長い間アルカディアにいたような気がするのに、部屋の様子はあまり変わってない気がする。

 悠吏が起き上ったことに、母親は驚き、慌てて父親に連絡を入れる。その日は気合の入った手料理により、元の世界に戻ったことをお祝いされた。

 ニュースを見ると、アルカディアに入り浸っていた人たちが、次々と意識を取り戻しているという。アルカディアでの記憶を失った人が大半のようだが、中には記憶が残っている人もいるようで、モンスター狩りの体験談を語っている人もいた。

 翌日、ユーリは病院へ向かった。病院内でも、パソコンの前で意識不明になる人が何人もいたため、最終的にはパソコン使用禁止になったらしい。

 その意識不明になった人の一人、藤野泉の元に面会に訪れた。泉はアルカディアの記憶を失っていたため、悠吏はとりあえず「知り合い」ということでお見舞いの品を持ってきた。

 突然の来訪者と、実質「初めて」の顔合わせに、お互い何を話せばいいかわからない。悠吏がさりげなく「具合はどう?」と話しかけると、泉は意識不明であった時の夢を語り始めた。

 自分はヒーラーとなって活躍していたこと、たくさんの冒険をしたこと、婚約者がいたこと、この世界にずっといたいと思ったこと、そして婚約者に殺されたこと。そのすべては、アルカディアでの出来事とまったく同じだった。記憶を失っているはずなのだが、それは夢という形で再現されているようだ。

 近くにいた看護婦の話によると、泉が意識が回復した時、突然大声で泣き出したそうだ。なだめるのは大変だったらしい。

「私、いつか好きな人と結婚式を挙げるのが夢なんです。もっとも、こんな私をもらってくれる人がいるとは思えませんけれど」

 それを聞いて、悠吏は胸を締め付けられる思いがした。今にも、俺が結婚してやると言い出しそうだった。しかし、泉は悠吏の記憶を失っており、今声を掛けても怖がられるだけだろう。

 悠吏は涙を飲んで、泉の元を去った。


<エピローグ――本当のアルカディア>

 悠吏が明日香の家に顔を出すと、明日香は元気そうに出てきた。アルカディアでの記憶を失っているとはいえ、それ以前の記憶は残っている。悠吏は久しぶりに、明日香と遊びに行くことにした。

 思えば、当初の目的は達成できた。しかし、アルカディアでの記憶が残っている悠吏にとっては、達成感よりも喪失感の方が大きかった。

 元気のない悠吏を、明日香は励まそうとする。その思いに応えるように、悠吏は徐々に元気を取り戻していた。

 明日香を見ていると、やはり元気が出る。イズミとともに暮らそうと決めたあの日からずっと、アスカに対する思いは、どこかに残っていた。

 休憩をしている時、明日香は突然とんでもないことを言ってきた。

「ねえ悠吏、今は意識が回復して混乱しているだろうけど、落ち着いたら籍でもいれない?」

 その言葉に、悠吏はなんともいえない安心感を持った。

「俺、バツイチだけどいいか?」

 冗談で言ったつもりだったが、明日香は「知ってる」と返した。明日香は、アルカディアでの記憶が残っていたのだ。

「忘れてもらっちゃ困るわね。私は今の世界の記憶もアルカディアの記憶も、両方共有する力があるんだから」

 そして、いつかこの世界にいる泉やミナト、カズホ、そしてコウダイにも会いに行きたい、そう言ってデートを続けた。


 理想の世界なんて、人それぞれだ。誰かの理想の世界があったとして、それは他の人の理想の世界であるとは限らない。

 理想の世界は、きっと人に与えられるものではなく、自分で作りだすものなのだ。だから作ろう。俺たちのアルカディアを……

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