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公募ガイド「小説虎の穴」第21回『アカサギ』

作者: あべせつ

第21回課題

ロマン・ノワール(犯罪者側の視点で書かれた小説)


『アカサギ』        あべせつ

深夜、場末の酒場。客は止まり木に一人きり。50過ぎの猪首の男が若いバーテン相手にマティーニを舐めながら世間話をしている。真上につけられたオレンジ色の照明が、男の蟹のような四角い赤ら顔を照らしだし、さながらスポットライトを浴びたように薄闇の中に彼の独演場を作り出している。


バーテンが酔いのまわった男に何かをたずねた。男は饒舌に話し出す。


俺か?俺の商売はアカサギだよ。なに?アカサギを知らねえってのか?

アカサギってのはな、結婚詐欺師のことだ。詐欺師にゃな、シロサギ、クロサギなんてのが色々あるんだが、俺らアカサギは一番簡単だっちゅうて同じ詐欺師連中からも下目に見られてる。

世の中には詐欺師でなくとも女から金を引き出す輩はごまんといるからな。顔が良けりゃ大して苦労は要らねえ。


しかし俺は見ての通りのご面相よ。黙っていても女が寄ってきて金を貢ぐなんてこたあ、ありゃしねえ。どうしても結婚をエサにしなきゃ引っ掛からないから、しかたなくアカサギやってるわけだ。     

なんでえ、お前。女にもてねえのにアカサギできるのか?って言いたそうな顔してやがるな。

そこは俺様だってプロだよ。やり方は心得てる。

ただ、男前と違う分、余計に経費や労力がかかるってもんだ。そこは否めねえ。  

それになんと言っても肝心なのが別れ際。後腐れなくドロンするってのがなかなか難しい。

女に未練や恨みを残されて警察に訴えられたりしちゃあ、元も子もないからな。


そこで俺は考えた。そしてこれだというイイ方法を考え付いたんだ。元手もかけなきゃ、大した労力も要らねえ。なんてったって相手にゃ会わずに金をたんまりいただいて、どこの誰ともわからぬ間に消えるんだからな。うまい方法だろ?

どうやって大金をせしめるのかだって?おいおい、そうあわてちゃいけない。夜明けまでにはまだ時間がたっぷりある。今からじっくり、この俺様がレクチャーしてやるから、マティーニの一杯でもおごりやがれってんだ。


男の前に冷えた新しいグラスが置かれる。男は尻ポケットから型遅れの携帯電話を取り出す。

これが俺の相棒。こいつがカモを呼んでくるのよ。

世間にはなあ、寂しい女が、うんといるのをお前知ってるか?女もチヤホヤしてもらえるのは若いうちだけだ。最近は美魔女だなんだと四十を超えてもキレイな女もいるけど、まあそりゃ希少価値だし、そんな女は自分に大金をかけるから、いいカモとは言わねえ。


いいカモってのは美魔女じゃなくて、ほんちゃんの魔女みたいな老けて不美人な容姿で、仕事一筋うん十年、地味な始末屋で小金貯めてるようなオールドミスが一番だ。

彼女らも本心は恋人も欲しいし、結婚もしたがってる。


しかし周りから『結婚を焦ってあんな男しか捕まえられなかったのね』と嘲笑されるような安い男じゃプライドが許さない。

彼女らが望むのは会社を幾つも経営するような実業家。そのエグゼクティブな男に見初められたという設定がたまらないらしい。


だから俺は地方都市に店を数件かまえているイタリアンレストランのオーナーという役回りを演じるんだ。いやいや実際は店なんか持っちゃいない。ここでこの携帯電話の出番になる。


今、世間様で流行ってるブログを立ち上げるんだよ。そうして繁盛してそうな高級っぽい店やメニューの写真なんかを、その辺のサイトから適当に拾って貼り付けとくのさ。

そして寄ってきた女たちに、まめに愛想よく品よく接していく。肝心なのは店の話ばかりでなく、プライベートの話なんかも織り込んで資産はあるが孤独な紳士って立場をアピールするんだ。

女たちは競って俺に媚を振りまくようになる。俺はその中から、これぞという女を選んでサイトを通じてメールを始める。


君のような女性に出会えるのを待ち望んていた。是非新しく出す3つ目の店を手伝ってほしいとかなんとかいうわけさ。もちろん僕のワイフとしてという言葉を暗に匂わせてな。女はもう有頂天だ。


ところがそこから店の状況が暗転する。経営が行き詰って新店どころじゃない方向へ話を持っていく。すると会社で結婚退職を吹聴していた女は焦る。そこで金で解決するならばと、こちらに大金を寄越して来るわけだ。金をせしめたらブログは閉鎖で、はいおさらばよと。俺はこの方法で途中まではうまくやってたんだよ。


ところがな、最後の一稼ぎとばかり手を出した女に惚れちまってな。

貯めた金、全額やられちまったのさ。後で知ったらなんのこたあない。その女はクロサギだったんだよ。それで俺はこんな場末の酒場でなけなしの金はたいて、その女が好きだったマティーニを飲んでるってわけだ。 


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