黒い部屋
書き出しやタイトル以上に結末が爽やかですが、それでもよろしければ。
黒い部屋に入ると、一人の男性が私を出迎えてくれた。
紳士的な物腰の男だった。全身黒ずくめだった。黒いパンツが細くて長い大胡の足を強調していた。明るいひのもとで見ればひかひかと光るのだろう革靴は、黒い部屋ではただ黒いばかりだった。
ここはどこか?私は尋ねた。
ここは「あの世」だ。男は答えた。
ばかばかしい回答ではあったが、思い当たる節があったので、私は「そうか」と頷いた。私は死んだのか?そうでなければここにこれるはずがないのだろう。
察しのとおり、あなたは死んだのだ。だから私といまここにいるのだ。男はやはり紳士的に、薄い笑顔で口を開いた。
心に穴が開いているだろう?あなたは「この世」にあなたの悪いものを落として、「あの世」で健康な代わりを手に入れ、また「この世」に戻るのだよ。
言われてから私は私の胸元を見た。なるほど、胸の辺りにぽっかりと、大きく黒い穴が開いている。
男の言い方は丁寧だったが、説明の内容はずいぶんと維持が悪かった。私の心が悪いような、そんな言い方をされているようで私はひどく落ち着かない気分になった。
違う、違いますよ。男は自らの顔のあたりで手を左右に振って私の考えを否定する。そうか、心に大きな穴が開いているのだもの、私の考えが男にだだ漏れなのは当たり前か。
あなたの意地が悪いといっているのではありません、あなたは清らかだ。
では私の何が悪くて心に穴が開いているの?私は悲しくなって男に聞いた。
男は静かに瞬きをした後、ゆっくりと私に問うた。
「・・・覚えていらっしゃらないのですか?あなたの胸、悪いところ。」
目が、覚めた。
私は病院のベッドの上にいた。また発作で倒れたようだった。
先天性の心臓病を持って生まれて21年になる。年に数度もこういうことがあるから、今更倒れたところで両親が見舞いに来ることはない。
なじみの看護婦が毎度お馴染みの問診を行っている最中、私は今し方見た夢を思い出した。
馬鹿は死んでも直らないらしいけれど、心臓の病気は死んだら直るみたいですよ。
看護婦は私の言葉を悪い方向に受け取ったらしく、私の肩を叩いて去っていった。
私は、誰かの想像以上に、清清しい気持ちでもう一度目を閉じた。
すみません、登場人物に名前とかなくてすみません。