各章あらすじ
各章のあらすじです。
~紅の章~
ある秋の日、入内を4日前に控えた姫君が、突然屋敷から姿を消した。残されたのは有名な在原業平の和歌と恋人の存在を告げる手紙。わずかな手がかりをもとに、失踪した姫君を探す橘少将が助けを求めたのは、「物から残像を読み取る」という不思議な能力を持った美しい姫君だった。
*『宇治で解かれる事件手帳』の一作目。
~天女と魔物の章~
「亡き御息所さまの物の怪が、私に復讐しようとしているんです」――京で『光源氏』とよばれていた美男子、藤原中将の周りで、二人の女人が突然立て続けに亡くなった。それぞれの遺体とともに発見された和歌は、かの有名な『源氏物語』の登場人物、六条の御息所の詠んだ歌。果たして物の怪の所業か、それとも人間による連続殺人事件か。中将に助けを求められた橘康之少将と落ち葉の君が、一連の出来事の真実に迫る。
*『宇治で解かれる事件手帳』の二作目。
~幻想の章~
宮中の期待を背負っていた若い参議が自身の屋敷で刺殺された。逮捕された犯人は参議の北の方に仕える女房。罪を認めた彼女は、しかし、誰にも動機を話そうとはせず、また北の方も事件に関して沈黙を守った。「わたしは、全てを、知りたいです」事件に衝撃を受けた女房の妹・葉月と橘康之は落ち葉の君のもとを訪れる。「真実と向き合う勇気が、葉月さまにはありますか?」――仲の良い夫婦に隠されていた悲劇とは。
*『宇治で解かれる事件手帳』の三作目。
~緑衣の女の章~
ある夜、陰陽師の名門一族、加茂家の当主候補だった男が六条大路で命を落とした。男が言い残した言葉は「緑衣の女」――二週間ほど前から京で噂されている、発光する物の怪の名であった。誰もが男は物の怪に殺されたと考えるなか、男の友人、滋川清行だけは男の兄を疑っていた。はたして怪しく発光する緑衣の女の正体とは。清行、橘少将、落ち葉の君が、不気味な怪談の裏を暴く。
*『宇治で解かれる事件手帳』の四作目。
~夜空に捧ぐ想いの章~
京で有名な絵師の妻が亡くなった。嵐の晩に出かけたために健康を損ねて亡くなったその女人は、毎晩決まった時刻に素足でどこかへ出かけていたという。行き先を調べてほしいと頼まれた少将と落ち葉の君は女人の着ていた唐衣を手がかりに、謎を解き明かしていくが――。
*『宇治で解かれる事件手帳』の五作目。
~忘れ形見の章~
しずしずと雨が連日降り注ぐなか、「次期内大臣に」と目されていた男が宇治で全裸の遺体となって発見された。『我罪人也』と刻みこまれた検非違使たちも見たことのない残虐な遺体に、落ち葉の君は鋭いまなざしを向ける。「今回の事件の犯人は、気のおかしい者ではありません。むしろ、正常な判断力と、ある確固とした目的をもった者による事件です」凛とした涼しげな声で、そう落ち葉の君は断言するが、果たして遺体に残された言葉の意味とは一体――?
*『宇治で解かれる事件手帳』の六作目。
~禁忌の章~
歴代陰陽師のなかでも天才と謳われた加茂忠広の日記を手に入れた滋川清行。日記に描かれていたのは、落ち葉の君と瓜二つの女人であった。陰陽師としての立場と、一人の青年としての立場との板ばさみになった清行は、落ち葉の君のもとを訪れる。「話していただけませんか。加茂忠広さんのことを。そして、加茂家と滋川家に、何があったのかを。」落ち葉の君が過ごしてきた日々が、ついに明らかになる。
*『宇治で解かれる事件手帳』の七作目。
~囚われ人の章~
京の権力者、鏡右大臣の姫君がさらわれた。姫君の無事と引き換えに犯人が右大臣に求めたものは、十一年前の罪の告白と謝罪。姫君の奪還を命ぜられた橘少将は、右大臣が隠そうとする十一年前の罪に迫る。「あなたが幸せになっても、誰もあなたのことを責めたりはしませんよ」――落ち葉の君と橘少将がシリーズ最後にして最も悲劇的な事件に挑む。
*『宇治で解かれる事件手帳』の八作目。