出会い6
「大丈夫だ。本気でやるほどの相手じゃねぇよ」
「あー? コイツなにいってんだ、さっさと来いよ」
目立たない路地に連れていかれた俺たちは、サイフとケータイを出すよう言われた。
ったく、俺のサイフの中身なんてたかが知れているし、ケータイなんて鈴乃がかけてくるからしょうがねぇから持っているだけで、あってもなくてもいい。
ま、それは俺だからであって、鈴乃はそういうわけにはいかねぇだろう。俺と違ってちゃんと使っているからな。
だったらこんなヤツらに奪われるわけにはいかねぇな……。
財布を取り出すフリをして、腕を上げた。すぐ終わる。問題ねぇ。
そう思っていると、エルティが腕にしがみついてきた。
「ダメですよぉ、暴力はいけません!」
泣きそうな顔で、必死に腕をつかんでいるが、やめるわけにもいかねぇだろ。
「こうしねぇとあいつら懲りねぇし、鈴乃がヒドイ目に遭うんだ」
「ですがぁ1つ暴力を起こすと、もっと新しい暴力が増えていきますぅ」
なんだか分かったような、分からないような理由だ。
「おい? さっさと出せよ」
「モタモタすんな、ボケが」
ああ雑音が耳障りだ。
「他に方法がねぇんだから、やるぜ」
振りほどいてぶっ飛ばそうとした時、エルティが大声で叫んだ
「方法ならあります!」
思わず動きを止めた俺は、エルティを見る。
「コイツやる気か?」
「どこ向いてやがんだ!」
2人がポケットから武器を取り出した。他のヤツらも素手じゃないらしい。リーダーのヤツは後ろに下がって面白そうに見物を決め込んでやがる。
「バカヤロウが。素直に出せばいいのに」
「めんどくせえ、拉致るか?」
「この子オレが1番な」
「バカ、オレだよ」
勝手なことをほざく6人に囲まれる。俺にはどうってことねぇが、鈴乃を見ると足が震えている。
「エルティ、方法ってなんだ?」
俺の横に浮かんでいるエルティに声をひそめず尋ねると、ヤツらがキョトンとする。
「頭おかしいんじゃねーか?」
「うざって! やっちまおう」
「みんなぁ! このかたたちを止めてぇ!」
エルティが叫んだ瞬間、あの飾りが大井曽の時のように宙に舞った。
「な、なんだ? この光!」
「なんだってんだよ、コレ?」
「うわ! 助けてくれ!」
見えているのか?
ヤツらがパニックになった。1人が苦し紛れに近くに転がっていた鉄パイプで光に殴りかかったが、鈍い音がしてボロボロになる。
光から逃れようと我れ先に逃げようとしたが、狭い路地なので行く手をプレートにさえぎられ、とても逃げられない。
そして光の1つからあの時と同じ光が放たれる。
俺は鈴乃の横にまわった。
「ひ、仁狼ちゃん……こ、これって!」
鈴乃もパニックになりながら俺にしがみつく。
「大丈夫。俺がやっているんだ」
安心させるために鈴乃を抱き寄せた。俺の心の中から出たエルティがやっているなら、俺がやっているのと変わらねぇ。
「仁狼ちゃんが?」
絶句する鈴乃。
目の前で、1人、また1人と光が伸び、そのたびにそいつの体から気持ち悪いドス黒いものが抜け出して、全員が終わるまで1分とかからなかった。
光が消える。
始まった時と同じように突然光が小さくなり、エルティの飾りとして戻って行く。
「ふうぅ……」
大きく息をつきながらエルティがフラフラ飛んでくる。
「やっぱり、1度に大勢はキツイですぅ」
心なしか顔色が悪い。
「お、おい。エルティ、大丈夫か?」
「……あ、はい……ひとつてさん。ありがとうございますぅ……」
少し弱々しいが、精一杯明るく微笑んだ。
「おう? なにが」
「あたしを信じて下さったから、このかたたちに暴力を振るうのをやめて下さったんですよね!」
「お? お、おう」
こ、こいつ、へとへとになりながらも俺を信用している……俺は自分自身が恥ずかしく感じるのと同時に、エルティに少し感動した。
「仁狼ちゃん、誰と話してるの?」
心配そうに尋ねる鈴乃。
「とにかく場所を変えよう。ここじゃマズイ」
ムリやり鈴乃の手を引っ張って通りに出て、そのまま駅に向かった。
「ね、ねえ、仁狼ちゃん」
「なあ、エルティ。お前の姿、鈴乃に見せることできねぇか?」
鈴乃が不安げな声を出すが、無視してエルティに尋ねてみる。
「できますよぉ」
思ったより簡単な答えが返ってきた。
「でも今すぐにはムリですぅ。さきほど力をほとんど使ってしまいましたので、ひとつてさん以外のかたの目に見えるようになるのは、少し時間がかかりますぅ」
「そうか……どのくらいかかるんだ?」
「1度、ひとつてさんの心の中に戻って休めば、1時間もあればなんとか……」
エルティが申しわけなさそうにうつむく。
「なんだ、そのくらいでいいのか。何日もかかるのかと思ったぜ」
「仁狼ちゃん……」
エルティが見えない鈴乃はますます心配そうに話しかける。
「鈴乃、家に帰って1時間くらいたってから、俺の家に来い。おまえにも分かるように説明してやるから」
「う、うん……」
まだ不安そうな鈴乃をムリやり帰らせることにした。
母さんは働きに出ているから夜まで帰ってこないし、エルティを見せるなら絶好の時間だ。
ちょうど1時間くらいして玄関のチャイムが鳴った。
「仁狼ちゃーん」
「やっぱりか。おう、上がれ上がれ」
「おじゃましまーす」