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変われる明日  作者: 吉川明人
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出会い5


「……なあ、鈴乃。こいつ、見えるか?」

 帰り道。朝と同じように肩に座っているエルティを指さしてそれとなく聞いてみるが予想どおり「なに? 肩になにかあるの?」と返事された。

 エルティは見えてねぇくせにニコニコしながら鈴乃に向かって手を振っている。

「なんでもねぇ。ちょっと茶でも飲んでくか?」

 それほど金に余裕があるわけでもねぇし、めったに行くことはないが、鈴乃にエルティのことを話しておいたほうがいいだろう。

「めずらしいね。でも仁狼ちゃんコーヒー苦手でしょ」

「そりゃそうだが、コーヒーを頼まなけれりゃいいだろう」

「紅茶も苦手だし、ジュースもキライなのに?」

「うるせえ! 今日は気合いで飲むからいいんだ。黙ってついてこい」

 うおお! これは俺がおごるパターンだ。鈴乃のやつに乗せられた。だが、今日はしかたねぇか。


 店のテーブルに座ったが、エルティのことをどう説明すればいいか分からねぇ。だいたい、いつもややこしい説明をするのは俺じゃなく鈴乃の役なんだ。

「仁狼ちゃん無理してコーヒー飲まなくていいのに。このお店のミックスジュースおいしいよ」

「ジュースなんて甘ったるいもの飲めるか。今日は気合いで飲むって言っただろ」

 本当はまだエルティが幻覚なんじゃないか、もしそうならめったに飲まないコーヒーを飲めば眼が覚めるんじゃないかとの期待もあって、いっきにコップ半分飲み干す。

「ぐおっ、苦げぇ!」

「無理しないで。今晩眠れなくなるよ」

 そう言いながら嬉しそうに笑う鈴乃を横目でニラミながら、ブラウンシュガーをスプーン山盛り1杯、カップにぶちこんでやった。これで少しはマシになる。

「それはともかく、さっきおまえに何か見えるかって聞いたことだけどな……」

 思いきって話し始めたその時、

「中ボーのくせにこんなとこで楽しんでるとこ悪いんだけどさぁ、ちょっと金貸してくれない?」

 ちょっと洒落た服を着たリーダー風のヤツと、ジャラジャラ金属を付けたいかにもなヤツらがならんでやがる。

「まぁ〜ここじゃなんだから〜、ちょっと外行こうよぉ〜」

 1人が神経に触る話し方でニヤニヤしながら笑う。

「おまえら、この辺りのヤツじゃねぇな……」


 中学に入学してすぐの頃だ。順崇を含め3人で学校から帰っていた時、ちょうどこんなヤツらに遭遇した。鈴乃になにもしないなら、金出すというと、ヤツらはOKした。

 悔しかったが金で済むならいいと思った。順崇も黙って承知したが、金を受け取ったあと、鈴乃に乱暴しようとしやがった。


 その時、俺は手を出してしまった。

 数秒で全員が路地に転がり、匿名で公衆電話から救急車を呼んで最悪の事態は逃れられたが、あの時順崇が止めてくれていなければ大変なことになっていたかもしれない。

 2日してから、そいつらがこのあたりを仕切ってたヤツらだったことが分かったが、中学生に負けたんじゃ体裁も悪かったんだろう、俺のことは表面に出なかった。

 色々なウワサが流れたが、この中学の誰かがやったらしいことだけが残り、いつの間にか他の中学生はおろか、高校生までこの学校のやつには誰も手を出さなくなっている。

 ただ、どこで聞いてくるのか、違う意味でその手のヤツら…強いヤツに勝つ! という、なにを考えているのか分からないヤツが時々現われて、放課後の楽しいひと時を潰してくれることはある。


「仁狼ちゃん、怒っちゃダメだよ…」

 鈴乃が心配そうに俺の服をつかんでいるが、こいつは俺が相手にケガをさせることのほうを心配している。

 俺と鈴乃、それぞれの親と順崇と数人の医療関係者しか知らない秘密を知っているからだ……それは俺が4歳の時、高熱を出した時のこと。

 2週間にわたって40度以上の原因不明の高熱が続いた俺は、鈴乃の親父が眼科部長として勤めている総合病院の集中治療室で精密検査を受けることになったそうだ。

 そのいきさつについてはよく覚えていない。

 40度を超える高熱にも関わらず自覚症状がなかった俺は、治療そのものより高熱が脳に影響を与えないか……後遺症が残らないかどうかを調べられることになった。


 その結果は予想に反したもので、発熱は脳自身が体の活躍機能(?)を高めるために発していて、熱がひいたあとに俺は普通の人間の約3倍の力が出せるようになったばかりか、数種類の脳内物質……アドレナリンやβエンドル……なんとかを、自分の意思でコントロールできるようになっていた。

 念のためと、退院を引き伸ばされて、予後観察を受けさせられたことは、今でもハッキリと覚えている。

 あとから聞いた話では面会謝絶にされて、親も会えないようになっていて……できれば思い出したくねぇ思い出だ。

 悪気がなかったのは、なん度も説明されて分かっている。

 ただ医者として、研究者として興味が尽きず、ついでに俺が人間だということをうっかり忘れてしまっただけにすぎねぇ……。

 鈴乃の親父が、たまたま予後観察をのぞきにきてくれていなければどうなっていたか……しかしそれによって3倍だった力が7倍にまで引き出され、痛みに対してとんでもなく強くなった引き換えに、いつでも力をセーブしないといけなくなった。


 だから俺は手を出すわけにはいかねぇ。

 いかねぇんだが、手を出させようとする相手がやたらと現れるのに困っている。

 武術をやっている順崇がいうには、俺は意識してねぇのに相手を倒す最も効果的な攻撃をするらしい。どんな時でもほんとに本気でやるのは、一歩間違うと取り返しのつかないことになる。

 鈴乃はそれを心配している。


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