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変われる明日  作者: 吉川明人
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出会い2

「それはぁ、ひとつてさんの心から出たことだけは分かるんですけどぉ、あたしが何をすればいいかはぜんぜん分からないんですぅ。ですから、いつもひとつてさんと一緒にいれば分かるんじゃないかとぉ」

 赤い顔をしてだんだんうつむきながら、語尾もつぶやき声になるあたりウソじゃなさそうだ。だがしかし、このすっとぼけた口調は何なんだ?

「分からねぇんならしょうがねぇか。そういえば、まだおまえの名前聞いてなかったな。なんて名前だ?」

「え? あたしの名前ですかぁ」

「おう。いつまでもおまえって呼ぶのもなんだろ」

「す、すみません。実はぁ」

 俺の肩からフワリと飛んで、正面に浮かび、なぜかモジモジする。

「どうした? 俺なんか悪いこと聞いたか?」

「そうじゃないんですぅ。実は、あたしまだ、名前がないんですぅ。すみません」

「だからって、なんでおまえが謝るんだ?

 まあいいか、おしっ! だったら俺がつけてやるぜ」

「ほんとうですかぁ! 嬉しいですぅ!」

 こいつ、パッと花が咲いたような天使の笑顔で喜びやがる。なんかカワイイな。まあ悪いやつじゃないのは確かなようだ。

 そこへホームに電車が滑り込んできた。さすがにこのまま話していると、俺はひとりごとをブツブツいっているアブナイやつにしか見えねぇ。

「おう、電車の中で話しかけても返事しねぇぞ」

「どうしてですかぁ?」

 小首をかしげて不安げな表情で俺を見るが、説明しているとこの電車さえ乗れなくなるかもしれねぇ。

「お、おまえの名前を考えるのに集中したいんだ」

「え? はい分かりましたぁ。ありがとうございますぅ!」

 浮かんだままで深々と頭を下げる。こりゃほんとに考えねぇといけねぇな。

「ほら行くぞ。降りる駅に着くまでには考えてやるからな」

「はい! あっ、待ってくださいぃ」

 叫びながらあわててあとを追ってくる。

 電車はさすがに乗り遅れただけあってわりと空いていた。ドカッと腰を降ろすと、こいつも隣にチョコンと座って俺を見てニコッと笑う。

 車内を見渡すと同じ制服のやつもいたが、知っているやつはいない。約束どおり、こいつの名前を考えてやることにしよう。

 しかし、こいつほんとに何モンなんだ? 『あたしは、ひとつてさんの心の中から出てきたんですよぉ』とか言ってたよな。

 俺の心の中って、こんなやついたか? 親戚にこんな子どもとかいたっけ? 近所のガキにも記憶はねぇぞ。

 しかし……うーん。

 いくら考えても、何も思い出さねぇ。幼馴染みの神流原かんなばら鈴乃すずのなら何か分かるかもしれねぇが、そもそも俺以外に見えねぇこいつをどう説明していいのか分からねぇ。

 そういえば、深層心理的な理想像とかがあるとか聞いたような……チラッと見ると俺の視線に気がついたらしく、さっきの花が咲いた笑顔で微笑みかけてきた。

 おうそうだ、名前だ。こいつ俺が名前を考えてくれているものと信じて疑ってねぇんだろうな。悪りい。

 まあ、理想像といえば、この純真さは一つの理想といえるのかもしれねぇな。


 ——東弥栄口ひがしやさかぐち。東弥栄高校前。


 車内アナウンスが響いた。

 いけね、降りる駅だ! あわてて飛び降りてギリギリセーフ。アブナイところだったぜ、、こいつの名前を考えていて、思わず乗り過ごすところだったぜ。

 あれっ? いねぇ!

 ヤバッ! 電車の中に置きっぱなしにしてしまった!

 俺が急に降りたんで、ついてこれなかったんだな。どうする、駅員に説明して……信じてもらえるはずねぇだろ。そもそも見えないんだから探しようがねぇ。

 途方にくれて立ちすくんでいると。

「どうしたんですかぁ、遅刻してたんじゃないんですかぁ?」

「おう。そうは言っても、どうやっておまえを探せばいいのか……」顔を上げると、小さいやつと目が合った。

「なんで、おまえがここにいるんだ?」

「え!? す、すみません。あたしがはぐれてしまって。しかたがないので、一度ひとつてさんの心に戻って、改めて出てきたんですぅ」

 なぜか涙をポロポロ流しながらペコペコ頭を下げはじめる。

「いや悪かった。おまえが謝るんじゃねぇ。俺が急に降りたから悪いんだ」

「けれども、ひとつてさんに心配をかけたのでぇ」

「もういい。今回は俺が悪かったんだ。とにかく行こうぜ、遅刻しまくりだ」

「は、はいぃ」

 このままだとラチがあかない。とはいえ、もうかなり遅れてしまっている。今からあせっても始まらない。腹をくくった俺は、いつものペースで学校に向かうことにする 。

「あ、あのぅ……ひとつてさん」言いにくそうに、おずおずと話しかけてきた。

「なんだ?」

「あたしの……名前は」

 し、しまった! 完全に忘れていたぜ!

「おおっ……えーと、エ……」

 何か言ってやらなくては。何でもいい、何か言え俺の口!

「エ?」

 聞き返すこいつの頭文字に、俺の頭の中に一つの名前が浮かんできた。


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