出会い
小説を書き始めた頃の作品を、今ようにリメイクしながら進めています。複数の物語による作品ですが、古くさく感じる個所があればツッコミお願いします。
ケータイの目覚ましモードに起こされ、大きなアクビをしながらベッドから起き上がると、俺の目の前に小さな人間が浮かんでいた。
なんだ、俺まだ寝ぼけてるのか。
さっさと消そうと手で払いのけると「きゃあ! あぶないですぅ」と、悲鳴があがった。
「な、なんだ!?」夢じゃねぇのか?
目をこすってよく見ると、そこには目を大きく開け、めちゃくちゃ驚いた顔をして空中に浮かんでいる女の子の姿があった。
「び、びっくりしましたぁ」
肩まであるオレンジの髪、着物みたいなうす黄色の上着に4個の菱形のボタンみたいな飾り。
膝までの同じ色のスカートに、少し大きめのズボンのすそは、民族っぽい飾り物で靴が留めてある、歳は10歳くらいか?
しかし問題は、身長が20センチくらいしかなく、背中から真っ白な羽が生えていやがる……ってことは。
「て、天使なのか?」
自分でもバカまるだしの声だ。
「ちがいますよぉ。あたしは、『ひとつて』さんの心の中から出てきたんですよぉ」
驚いた顔から打って変わって、ほんとに天使のような明るい顔で、そいつはニッコリ笑う。
そうか。俺の心から出てきたのか。だったらやっぱり俺の気のせいって訳だなって、いやちょっと待て!
こいつが言った『ひとつて』ってのは俺の名前だ。
漢字で書くと『仁狼』。そもそも名前に『狼』が入っているのは珍しいが、何よりこの『つて』って読み方が分からねぇ。
なんでも親父がつけたそうだが、母さんにさえ意味を教えないまま、去年、俺が中学2年の時に交通事故で死んでしまった。そのうち教えてやると笑っていた笑顔が、この誰にもまともに読まれずに嫌だった名前を微妙なものへと変えた。
「俺の心って、どういうことだ?」
「それは……」
「仁狼! いつまで寝てるの、起きなさい」
そいつが何か言いかけた時、キッチンから母さんの大声が響く。
時計を見るとヤバッ! もうこんな時間だ。
「と、とにかく。続きは学校から帰ってからにしてくれ」
あせって服を着替えてカバンをつかんでキッチンに飛び込む。あいつのことは気になるが、今は言ってられねぇ。
「おはよっ母さん」
「おはよう。ほら、早くしなさい。また遅くまでパソコン触ってたんじゃないでしょうね」
うおっ! バレてやがる。
「ゴホゴホ。調べものだよ調べもの!」
ちゃんと宿題の分からないところをググって済ませ、2chの無料まとめサイトを経由した上で、ほんのちょっとエロサイトをのぞいただけだなんてことをごまかせるとは思ってないが、洗面台に逃げこんでテキトーに髪形を整えて、歯もテキトーに磨く。まあ、時間があてもいつもこんなもんだ。
「じゃ、行ってきまーす」
「気をつけて行ってくるのよ」
「おーっす」
返事もそこそこに玄関から飛び出して、しばらく走ると駅が見えてきた。腕時計を見るといつもの時間を取り戻せている。ともかくこれで一安心だな。
しかしさっきのやつは何だったんだ。思い切り話もしたんだ。幻覚じゃないだろう?
あいつのことを考えているうちに、ふと左肩にわずかな重みを感じ、た?
「うおおっ!」
さっきのやつが俺の左肩に座っているじゃねぇか!
周りを歩いていたやつらが驚いて俺を見たが、大声をあげたことより、どう見ても人形を肩に乗せて歩いている俺の姿のほうが恥ずかしい。変態にしか見えねぇ!
知っているやつに見られると、学校で何を言われるか分からねぇ。両手でひっ捕まえてひと気のない裏道へダッシュだ!
「何やってんだ! おまえ家にいたんじゃねぇのか?」
「はい。ですが、あたしはいつでもひとつてさんと一緒にいますよぉ。あ、それに大丈夫ですよぉ。あたしの姿は、ひとつてさんにしか見えないですから」
捕まえた手の指をグッと押しのけながら上半身をだして、当たり前のように答える。
「へ? そうなのか?」
「はい! あたしの体は、ひとつてさんたちとは違う物でできてるんですぅ」
「そうは言ってもなあ。そうだ、ケータイで撮っても写らねぇんならほんとかも知れねぇ」
ポケットからケータイを取り出して、左手の上に立つこいつを撮ってみる。
「うおっ! ほんとだ。何にも写ってねぇ!」
ハッキリ見えているこいつがまったく写ってないのが変な感じがしたが、ともかく見えないってのはほんとのようだ。
「よく分かんねぇけど、とにかく他人には見えねぇで、俺だけには見えているってことだな? なんでだ?」
「ひとつてさんは、ひとつてさんだからですぅ」
ニコニコ答えるが、こいつの話はぜんぜん見えてこねぇし、だいたい答えになってない。
「あの、お時間はよろしいのですかぁ?」
こいつに聞かれて我に返った時、はるか向こうに乗るはずだった電車が出発して行くのが見えた。
「はは、よろしくねぇ。まあいい」
あきらめて人通りの少なくなった道を、こいつがほんとに見えていないかまだ用心しつつ歩きながら、誰も俺を変な目で見ないことでやっと安心した。
「なぁ。おまえ、何モンなんだ?」
駅に着き、他の乗客から少し離れたところで小声で聞いてみる。
「あたしは、ひとつてさんの心から出てきたんですよぉ」
「いや、それは分かったとして、何モンなのか聞いているんだ」
分かったとは言っても、俺は決して納得しているわけじゃねぇ!