お金の稼ぎ方3
金が足りないときはどうするか。
収入を増やすか、支出を減らすかの二通りの方法がある。
世の中の一般常識ではとりあえず支出を減らすことを最初にやる。
家のかみさんがまず手をつけるのが、亭主の小遣い減額だ。
異論反論はまず受け入れられない。
「まず不要不急の支出の削減を行いたい。」
マティルダが経費の削減を提案してきた。
ふーむ、こいつ何時の間にか先制攻撃の言動を覚えたようだな。
見回すと皆が殺気をまとい身構え始めている。
ん? 頭の上から煙が漂ってくるな?
ふと上を見ると、猫が七輪で魚を焼いている。
俺は上を睨みつけて怒鳴ってやった。
「こら! 会議中に魚を焼くなんて緊張感が足りないぞ!」
「フニャー...」
「おい...おわっ..」
上から口の中に焼き魚を投げ込まれた!
もぐもぐ.......美味いじゃないか。
猫がぱたぱたと団扇を使いながら、こちらを見て首を傾げている。
「まぁ、猫は放っておこうか、モグモグ...」
「で、マティルダ、何を減らすんだ?」
皆の目が集中する。
「今回は給料を1割カットするぞ。」
ユリアンがほっとした様子で周りを見渡して言う。
「うむ、妥当だな。」
「しかし、それでは埋め合わせがつかないだろう?」
「それと交際費は全額カットだ!」
へっ????うちの団に交際費なんてあったっけ????
「おい、団に交際費なんてあったっけ?」
ぽいっと、マティルダが紙片を俺に放ってきた。
「お、領収書だな、なになに...」
えーと、ずいぶんな金額だな、居酒屋ゴットハンドか...あ、思い出した。
「ああ、これは業界関係懇親会の代金ではないか。」
「業界関係者とは誰と誰だ、名前を挙げてみよ。」
「隣の婆さん、巫女、薬剤師、海賊、重機屋にドラゴンだな。」
「ガストン、それは単なる懇親会であり団の経費ではない、よって貴様の全額負担だ、異論反論は認めない。」
「そ、そんな....」
目の前が暗くなってきた。
「それとフエリクス、」
いきなりマティルダが鍛冶師のフエリクスに声をかける。
それまで余裕をかましていたフエリクスが一瞬びくっと反応する。
「な、な、なんだ、俺は交際費など使っていないぞ!」
「なぁフエリクス、最近、鍛冶道具を随分買ったようだな。」
「お、おう、仕事を遂行するためには工具をある程度は買い換えるさ。」
「ほう、仕事をすると工具は消耗するのか。」
「おう、当たり前だろう。」
「最近な、道具屋の主人と茶飲み話をしたんだがな。」
フエリクスがビックと体を震わせやがった。
「き、聞いたのか!」
「ふっふっふ、随分な道具を購入したじゃないか。」
「あ、あれは決して趣味や道楽で買ったわけじゃないぞ!」
「良い道具は使いでがさぞ良いだろう、給料から差っ引いておくぞ。」
フエリクスががっくりと首を垂れやがった。
何を買ったんだよ?
「ガストン、フエリクスは某有名な工匠の一点物の刃物セットを手に入れた様だぞ。」
横にいた土木屋のエドモンが小声でささやく。
「おう、いつの間にいい目を見やがって...」
俺とエドモンは顔を見合わせて悪辣に笑ってしまう。
ん、マティルダがこちらを見ている、思わず目を逸らしてしまった。
「エドモン、面白いか?」
「いいや、決してその様なことはないぞ!」
「なぁ、エドモンよ、お前にも話があるぞ。」
「げ、俺もかよ!」
こうして会議は続く、しだいに皆が真っ白に顔色を変えていく。