お金の稼ぎ方1
俺はガストン・テーダ。傭兵をしている。
傭兵団を経営している、実態は中小企業であり経営は楽ではない。
最近は世の中不景気なのだ、不況の風はことのほか厳しい。
まあ、仕方ないよね。
「おい、ガストン、団長として考えるところはないのか?」
今、俺は傭兵団の事務所で経営会議を開いているところだ。
会計責任者のマティルダがこちらを睨みつけている。
「団員に払う年末の手当が足りないのだぞ! 何とかしろ!」
頭の上から視線を感じる?
見上げると、猫が棚の上からこちらを見ている。
「おい! 猫、見ていないで何とかしろ。家主として店子の面倒を見ろよ!」
こういう場合は広く責任を分散し、俺に集中している非難の視線を分散させるのだ。
なに、他に責任を転嫁させるのは、世の常識的な手段ではないか。
こういう手は使わんより使ったほうが良い。
そもそも現在金がないのは世の中が悪い、俺が悪いのではないのだ。
「ウニャー........」
猫が頭の上で不服そうに鳴いている。
「おい。鳴いても無駄だぞ! 猫も会議のメンバーだぞ!」
「ウニャウニャウニャ!」
猫の抗議を無視する。
む、あと一人参加していない奴がいるな?
台所に向かって机の上の文鎮を投げつける。
「こらぁ、会議に参加せんかい!」
ドシャーン 派手な音が台所から響き渡った。
「おお、やめろ、そんなことをしたら神罰が下るぞ!」
ユリアンが慌てて止めるのを鼻で笑い、
「神罰が怖くて傭兵がやってられるか!」
と言い捨てる。
「旦那、さすがだね、尊敬するよ。」
机の上で水浴びをしていた花人が台所の様子を窺いながら呟いている。
台所の方から低い音が響き渡り始め、事務所にいる者は皆が注視している。
「ウニャ....」猫が棚の上の家に入りパタッと扉を閉める。
あ...逃げた、
俺は上を見て、少しやりすぎたかと内心思う。
周りを見ると皆、机の下へ潜り込みはじめてやがる。
花人もマティルダに飛びつき一緒に潜り込みやがった。
突然、台所から勢いよく何かが飛び出してくる。
あ、きやがった、事務所の台所を神域にしている、おたまだ!
頭上を勢いよく旋回しながら何事か呟いている。
「現在、偵察中....」
「目標と思われる対象を発見....」
俺はおもむろに机の脇にある楯を持ち身構える。
伊達に何年も傭兵で飯を食ってはいないぞ!
準備万端だよ、さあきやがれ!
頭上でおたまが思案しているようだ、む?
あれ?
台所に引き返しやがった。
む....鍋が浮いてきた....湯気が....
あや.... あれはまずいんじゃないだろうか。
周りを見渡し判断する、いかん!逃げよう!
事務所の出口に向かってダッシュする。
ドアを開けて外に........
バシャーーーー
うむ、これはシチューだな、うまい。
おたまが呟いている、「しまった! 材料を無駄にしてしまった....」
「さぁ、会議を続けるぞ」
俺は頭に鍋をかぶり冷静に皆にいう。
「ガストン、会議を続ける前に風呂に入ってきたらどうだ?」
マティルダが顔を顰めて提案してくる。
ユリアンが言う。
「そうだぞ、事務所の片づけをその間にしておくから、お前風呂に入れ。」
仕方がない...、「うむ...」
世の中は思いがけないアクシデントが付き物だ、そういう際は冷静な行動が必要となる。
湯船に入ろうとしたら、猫に拒否されたので湯船には入らず湯をかぶり、
シチューを洗い流したよ。
なぜか、顔がピッカピッカに若返ったような気がする。
さすが神が創ったシチューだな、美容に良いらしい。