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百目鬼の秋

作者: 伊東椋

初めましての方は初めまして、伊東椋と申します。

本作品は、最近ネット上で話題になっている日本鬼子萌えキャラ化。その波に乗っての、日本鬼子萌えキャラ化関連の作品となります。今更?かもしれませんが、日本鬼子萌えキャラ化の動きに触発されて、思わず筆を取ってしまった次第であります。

つい最近、小日本のデザインが決定されたばかりなので、まだ出遅れではない……ですよね?

それと、何せこういったオカルトというか、ファンタジックというか何と言うか、兎に角このようなタイプの作品は初めて書きましたので、見苦しい点は多々あるかと思いますが、どうか楽しくお読み下されば幸いでございます。


ちなみにタイトルの『百目鬼の秋』は『どうめきのとき』と読みます。絶対読めないような厨二病臭い題名でごめんなさい。『百目鬼』とは百目鬼伝説から取ってみました。百目鬼伝説の解説は後書きにて記させていただきます。


 赤に染まる世界。


 全身に流れる鬼の血が、私の魂を奮い立たせる。


 私に映る世界が、血のような赤色に染まる。


 それは、私の中に流れる鬼の血のせい―――


 


 鬼。それはこの極東の片隅に古くから伝わる妖怪や神の類である。鬼とは一概には言えず、万別様々な鬼がいるのだが、それは国や地域によって異なる違いを持っている。そして鬼や妖怪といったものは、現代においては空想以外の何物でも無くなっていた。

 只、それは文明の発展に邁進する人間が忘れ去っただけであり、“空想”は空想であって、鬼や妖怪といった存在は“実在”するのだ。人間の知らない世界の裏で、ひっそりと生きているに過ぎない。

 そしてそれが時に人間の世界に紛れこんでしまうことも珍しくない。

 ここも、その一つだった―――


 人間が邁進した文明の発達の象徴として最も代表的であり、人間世界を構築する要素が、インターネット社会である。広大な世界を一体化する高度なインターネット社会は様々な情報を発信していった。嘘か本当かわからない情報とはいえ、一体化した故に実現した世界の表と裏の両方の情報を、人間が知れるようになったのだ。


 真っ黒な背景に青白く浮かぶビル群が描かれたウェブサイト。インターネット社会に混在する電脳世界の家の一つである。薄気味悪い雰囲気を纏ったサイトの上部には「都市伝説伝染サイト」という悪趣味なサイト名が書かれていた。

 このインターネットを含め、あらゆる文明が発展した世界の住人には到底信じられないような飛ぶ抜けた内容ばかりが占めるのだが、その中には現代の価値観では信じられないものであっても、事実として存在する裏の世界の情報が稀に書かれていることもある。

 だが、人がそれに遭遇する事もまた、極めて稀であった。

 もし、万が一の場合不運にも遭遇してしまったとしたら―――


 それは、運命なのだろう。



 夜空に輝く星よりも一層大きく、そして広く地上の星として輝いている街並みは結構な都会であることを思わせる。日が落ちて随分と時が経ったと言うのに、地上の街は決して眠ろうとはしなかった。

 深夜とは思えない騒がしい地上の光景を見渡すように、一人の少女が闇夜にその身を紛れさせていた。

 風に靡く長い黒髪は、闇に溶け込むような滑らかな流れを浮かべ、頭に付けた般若が、二つの赤い点を闇の中から不気味に灯している。

 和服の袖が、ぱたぱたと揺れていた。

 「何時見てもこの昼のような明るさと騒がしさはちと心が休めないのう。 人間どもも、休まるという概念を少しでも尊重しては良いものを」

 鈴を転がしたような声色が、少女の小さな口から洩れる。そして音もなく少女の隣から、ぬらりと闇の中からもう一人の少女、それも少女の背丈より半分ほど小さい幼子が現れた。

 「……………」

 幼子はくすくすと笑うと、少女の袖をくいくい、と引っ張った。そして眩しさと騒音の彼方へと指を指す。

 指さす方角の先を見据えた少女は悪そうな笑みを浮かべると、その先へと向かうために足場を蹴り、跳躍するのだった。



 闇が深い公園の中を、一人の少女が歩いていた。彼女が頼れる光と言えば、公園にある外灯と、手に持つ懐中電灯しかない。限られた灯りを頼りに、彼女はおそるおそる夜の公園を探索していた。

 どこをどう見ても普通の女子高生にしか見えない彼女は、実際に全国にいるどこの普通の女子高生とどこも変わらない、深夜の公園に徘徊するという行為以外は、普通の真面目な女子高生だった。

 学校の休み時間で何気なく都市伝説を話題にした話が複数の友達の間で盛り上がり、その話を聞くだけという形で参加していた一番興味がなかったはずの彼女が一人で、その話題に上った噂を確かめる役を買われる羽目になっていた。

 「(うう、みんな私がジャンケン弱いの知ってるくせに……)」

 何が公平にジャンケンで決めよう、だ。ジャンケンが弱い人間にはとても公平とは言えない。公平とは万人が等しい程度である事を言うのだ。だが、万人に等しさは絶対に無いから、真の公平とはあり得ない。

 既に日付が変わって暫く経っている。頼りない光で先を歩きながら、彼女、まゆずみ朱音あかねは急かす足取りで深夜の公園を歩く。

 昼と夜とでは、全く違う印象を植え付ける公園だった。街の中でも比較的大きい公園で、昼はよく犬の散歩をする老人や子供たちの遊ぶ姿が見られるのだが、夜の公園は不気味な静寂を保ち、嫌な空気を与えた。

 「さっさと終わらせて帰ろう…!」

 朱音はぐっと拳を握って決意を固めると、足早に歩を刻むのだった。

 

 自分以外に誰もいない広い公園ほど不気味なものはない。普段は人が沢山訪れる場所だからこそ、人がいない時のギャップも重なって恐ろしく感じるほどだ。更に闇は人に理由無く恐怖を植え付けるのだから格段と恐怖心を増している。

 公園の中心にある大きな川に差しかかる。誰かがペットとして飼っていた亀を逃がしたことから、野生の亀が多く生息していることで有名なその川は、まるで湖のように大きい。だが、その湖もまた闇と同化しており、その水から放出される冷たい空気が人の肌を敏感に撫で上げる。

 「…ッ」

 ぞぞ、と冷たい空気が朱音の肌を舐めるように撫で上げた。深夜ということもあって、嫌な冷風が吹いている。

 夏とはいえ、半袖の露出した肌には少し堪える冷たさだ。ここまで寒いとは思わなかったので、この時だけは恐怖というより驚きが勝っていた。

 「……?」

 大きな川の前に辿り着いた時、自身に纏わりつく空気が一変した。

 いつの間にか灯りは消え、頼れる光はなくなっていた。電池を入れ替えたばかりのはずの懐中電灯は光を失い、どうやっても二度と明かりを灯すことはなかった。外灯の光も突然のように全て消え失せ、闇だけが朱音の周りを囲んでいた。

 まるで絵具を塗りたくったかのような真っ暗闇だった。ただ一人、全く別の世界に放り出されたような気がして、朱音はそこで初めて今まで以上の恐怖に身を震わせた。

 闇一色が支配する中、背後からはっきりと気配を感じた。そして遠くから足音が聞こえてくる。その足音が明らかに自分に向かって近付いていることに気付くと、まるで両足が接着剤でくっ付いたかのようにその場から動かなくなった。

 朱音は、近づいてくる足音に背を向けながら、友達が話していた都市伝説を思い出した。

 

 この公園の辺りでは、若い女性が狙われた不可解な事件が続発していた。

 襲われるのは必ず若い女性で、被害は尽きることがなかった。

 しかし不審者等の目撃情報は一切現れず、警察の捜査も全く進んでいないため、こう言った不可解な事件はすぐに都市伝説のネタにされた。

 それが闇の公園に住む怪異な存在の仕業であると、噂されるようになる。

 そのネタの中身が、次のようにネットの掲示板に書き込まれている。

 闇が深くなった深夜に、この街で最も大きな公園にある川のそばに行くと、全ての光が消えた闇の世界に知らずに迷い込んでしまう。

 そして背後から足音が聞こえるようになる。それは自分をその世界に呼び込んだモノであると言われている。

 足はまるでくっ付いたように離れなくなり、逃げることができない。そして動けなくなった自分に、足音は少しずつ近付いてくる。

 足は動けないが、身体や首は動かせる。だから、自分の意思で、振り返ることはできる。

 恐怖のあまりに、足音が到達するまで振り返らなかった者は、そのままソレに背中から八つ裂きにされると言う。

 だから、勇気を振り絞って振り返ってみると―――


 「―――――!!」


 震える足を抑え、大きくなる足音に向かってゆっくりと振り返ってみた朱音の視界に飛び込んできたものは、朱音の全身に流れる血を震わせるのに十分なものだった。

 まるで半月のように口端を大いに吊り上げて笑みを浮かべる男が、そこにいた。帽子をかぶり、普通の格好をした一人の人間。だが、その浮かべている笑みは異常だった。ありえないほどにニィ、と浮かべる笑みは正に半月だった。瞬きしない目は、大きくカッと開いて、朱音を捉えて離さない。

 「ひ……ッ!?」

 小さな悲鳴を洩らし、朱音の足がぱっと離れた。

 足が動くと知ると、朱音は急いで男から距離を取る。

 距離を離した所で一度だけ男の方に振り返ると、男はその場に立ち止まり、その笑みを崩さない。首をぎょろりと傾げると、一層その笑みを歪めさせた。

 朱音は悪寒と共に愕然とした。そして、必死に駆け出した。だが、上手く走れない。運動はそれ程苦手というわけではないはずなのに、まるで足が言うことを聞かない。

 何度も転びそうになりながらも、とにかく朱音は奔って逃げる。走っていると言っても朱音の足もふらふらで、まともに走ってなんかいなかった。

 道を外れ、大きな川の前まで朱音は走るが、そこには石と草しかない。何度も躓きそうになりながらも、朱音はとにかく走り続けた。

 「はぁ……はぁ……ッ!」

 自分以外の足音は聞こえない。このまま無我夢中に走り続ければ、逃げられる気がした。

 だが、世界は非情だった。

 突然、朱音の背中にずし、と岩のような重みが襲いかかった。それに押し潰されるように、朱音は倒される。

 草の中へと転んだ朱音の口に、土の味が広がった。

 「けほ…ッ!」

 転んでしまった。その事実だけが、恐怖の中ではっきりと浮かび上がった。

 そして早く立って逃げなければ、という思考に繋がる。

 だが、身体が動かない。まるで何か重い物が倒れた自分の背中に乗っているような感覚だった。

 ぼとり、と頭に生温いものが落ちてきて、朱音は硬直した。

 生温い透明な液体が、朱音の頬をずるりと伝った。

 地面に押し付けられた胸の心臓が痛いほどに高鳴る。まるで耳元に心臓があるかのように、鼓動の音が大きく聞こえる。呼吸は吐くばかりで、新鮮な空気は肺の中にあまり入ることはなく、胸がきつく締め上げられる。

 倒れた。いや、倒された。そして何かが倒れた自分の上に乗っている。朱音は何とか首を動かし、顔半分を地面に擦り付けながら、振り返ろうとした。そして飛び込んできたものが信じられなかった。

 真っ黒な毛を耕した大きな狼が、倒れた自分の上にいた。

 狼は前足の一本だけで、朱音を起こさないように抑えていた。信じられないほどの力だった。

 

 朱音と狼の視線が合った。


 不気味に赤く光る狼の瞳は、恐怖に染まる朱音を映す。狼は笑うように口端を歪め、鋭い牙を覗かせると、その牙をゆっくりと朱音の顔へと近付けた。

 声にならない悲鳴を一瞬洩らしかける朱音の目の前で、狼は大きな舌をぬるりと出すと、ぼたぼたと白い唾液を朱音の上に落とした。

 その直後、狼は一声遠吠えをすると、突然のように朱音の服を引き裂いた。朱音は公園中に響き渡らんばかりの悲鳴をあげるが、為す術もなく狼に服を引き裂かれていく。

 「嫌あああああああッッ!!!」

 だが、不思議と朱音の肌を傷つけることはなかった。ただ服だけを引き裂いている。覗いた朱音の白い肌に辿り着くと、狼は口端を大きく歪めさせ、べろりと大きな舌で朱音の白い肌を舐めた。

 全身に突き刺さるような悪寒が駆け巡った。朱音は必死に抵抗を試みるが、狼に動きを封じられ、されるがままになるしかなかった。狼は朱音の肌という肌を舐めるように堪能していく。

 

 その時―――


 「……下衆が」


 闇の中から聞こえてきたその声に、朱音も、そして狼も動きを止めた。朱音を舐め回していた狼は顔を上げると、ある方向へと唸り声をあげる。

 「離れよ、汚らわしい狗め」

 また声が聞こえたと思うと、次の瞬間、朱音を捕縛していた狼が、横から殴り抉られるように吹っ飛んだ。「ギャン…ッ!」と小さな悲鳴を残すと、狼は遠くへと消えた。

 ようやく自由の身となった朱音のそばに、一人の少女がふわりと降り立った。

 「無事か? 人の娘」

 「え……」

 鈴を転がしたような音が降り、朱音は顔を上げる。

 外見の年齢は朱音と差ほど変わらないと言うものの、纏う雰囲気は異様だった。決して朱音のような普通の女の子とは到底言えない衣を纏っている。

 すらりとした細い手足に袖を通す和服は紅葉を咲かせている。

 川のように流れる長い黒髪。

 陶器のような白い肌。

 芸術品のように整った顔立ちに、切れ長の目。

 燃えるような赤い瞳。頭の横に付けている般若の面。そしてその頭から生やした二本の角。

 鬼。

 そんな文字が、朱音の中に浮かんだ。

 朱音が思っている通り、彼女は鬼の娘であった。

 憎しみや怒りを斬る薙刀を振るい、人の心に住まう悪しき妖怪を討ち滅ぼす鬼の娘。

 それは、同族を殺す行いとも言える。

 しかし彼女はそれが使命と言わんばかりに、戸惑わない。

 そして今も、彼女は同族狩りを行う。

 「あなたは……」

 呆然とする朱音の言葉を無視するように、少女は口を開く。

 「こにぽん」

 「?」

 少女の発した言葉に、首を傾げる朱音だったが―――

 「はーいっ」

 「ひゃッ!?」

 と、突然。小さな女の子がどこからともなく朱音のそばに現れた。小学生以下に見えるほど小さなおかっぱの女の子だった。

 背に自分の身体と同じくらいの大きさの日本刀を抱え、その小さな頭にはこれまた小さな二本の角がひょっこりと生えている。

 「娘を安全な所まで離せ。 邪魔になっては敵わんからのう」

 「りょーかいですっ」

 少女の言葉を聞いた小さい幼子は笑顔で手を上げると、状況に理解が及ばず混乱している朱音の腕をその小さな手で引っ張って、朱音を遠くへと連れていく。

 朱音はまるで引き寄せられるように、こにぽんと呼ばれた幼子に連れられる。

 「ね、ねえ……あなたたちは一体……」

 「私の名前は小日本こひのもと。 きいねーさまからはこにぽんって呼ばれてるから、こにぽんでイイよー」

 「こ、こにぽん……? きいねーさま……?」

 「鬼子の『鬼』を取って、きいねーさまだよ!」

 「鬼、子……」

 小さな幼子、こにぽんに手を引かれながら少女の方に振り返る。凛と立つ少女を見据え、鬼子という名前を呟いてみる。呟いてみると、その少女の姿と共に朱音の中へとすんなりと入り込んできた。

 「……行ったか」

 鬼の娘、鬼子。朱音たちが十分に離れた所を見定めると、「さて…」と、吹っ飛んだ狼の方へとその切れ長の目に爛々と燃えるように赤く輝く瞳を向けた。霧の向こうから、憎しみの炎を宿した狼が鬼子の方を睨み、牙を覗かせていた。

 「さぁ、宴の始まりよ。 欲望のままに獣と化したその邪な想い、叩き斬ってくれよう」

 一人の少女と一匹の狼が向き合う。互いの視線が交叉する中、先に動いたのは欲望のままに動き出した狼の方だった。

 突進するかの如く速さと軌道に対して、鬼子は冷静に笑みを浮かべるだけだった。

 「我が名は日本鬼子。 日と闇に紛れし刃で厄を討つが務めは、我が誇り…ッ! その欲望に駈られた獣の心を討ち滅ぼすが今の務めッ!」

 日出づる名字と闇生きる名前を共に有した名を盾に、日本鬼子は手に持つ薙刀を構える。その時、炎鬼子の周囲から巻き上がった。炎を纏い、火の粉を散らしながら、鬼子は薙刀を一振りする。すると、一振りした薙刀から吹き荒れるように一陣の火の粉を纏った風が狼の正面から襲いかかった。

 「グガァ…ッ!」

 焼けるような熱い風を受け、狼の動きが止まる。その懐に飛び込むように、鬼子は飛び出した。狼も驚愕する程の一瞬の時だった。そしてその大きな横腹に、一閃。

 「ギャア……ッ」

 ぱっくりと開いた横腹から真っ黒な血が噴水のように噴き出す。既にそこに鬼子の姿はない。

 「薄汚い欲望に呑まれた下せた闇よ、鬼の血を宿した我が刃のもとに滅せよ…ッ!」

 頭上から降りかかる鬼子の声。顔を上げる狼の視界に映ったのは、散開する紅葉の中にいた鬼子の姿だった。

 「はぁぁ―――!」

 狼の頭上から降下すると同時に、鬼子の薙刀が振り下ろされる。

 「萌え散れ――――!」

 その瞬間、狼が見ていた世界が真っ赤に染まった。

 振り下ろされた薙刀が狼の頭を切り裂いた。狼の頭から血の噴水が噴き上がる。最期の断末魔も残さぬまま、狼は霧のように消え失せた。

 それと同時に、周りを囲んでいた闇が瞬時に消え去った。世界は灯りと音を取り戻し、元の公園へと戻る。

 それはまるで今までの事象がまるで無かったかのようだった。自分が今まで見ていたものは夢だったのではないかと思ってしまう。呆然と立ち尽くしていた朱音は、おもむろに自分の頬を抓ってみた。

 「何してるの?」

 「きゃッ!?」

 声がした方に慌てて振り返る。しかしそこに人はいない。いや、小さすぎて見えていないだけだった。

 視線を下げると、ちょこんとした佇まいの幼子が見上げている。

 幼子を呆然と見詰めたまま、朱音は頬からじわりと伝わる痛みを感じる。

 「……痛い」

 「?」

 「夢じゃない……」

 朱音は頬を抓った痛みから現実であることを思い知らされた。今までの出来事も、今目の前にいる少女も、全てが空想ではなく現実のものであることを。

 「昔はそれほど不思議ではなかったものを、現代いまの人間どもはすぐに夢であるかと疑ってしまう。 本当に我らは空想と化しているのだのう」

 「―――!」

 振り返ると、そこには薙刀を抱えた着物の少女―――日本鬼子がいた。あの恐ろしい、巨大な狼をその華奢な身体とその手に持つ薙刀で薙ぎ払ってしまった少女。あの狼と戦った時の赤い妖気は、既にその身には無い。今や普通の少女のように、炎のように赤かった瞳も黒くなっている。

 見た目は自分と大して変わらない年頃なのに、纏う雰囲気は自分より大人という次元を遥かに超えたもの。頭に生える角が、特にそれを如実に物語る。

 「そして現実と知れば好奇心丸出しじゃ。 そんなに見ても良いものではないぞ?」

 「あ、ご、ごめんなさい……ッ」

 「良い。 恐がられるよりはな」

 謝る朱音に、鬼子は気にしていない風に素振りを見せる。

 「そーだよ。 きいねーさまは全然恐くないよ? むしろとても優し……」

 「こにぽん。 余計な口を挟むでない」

 そう言ってじたばたともがく幼子―――小日本の口を塞ぐ鬼子と言う光景は、仲の良い姉妹の姿だった。妹の口を塞ぐ鬼子の頬は、恥ずかしそうに朱色に染まっている。

 そんな光景が微笑ましくて、朱音は初めて笑った。

 「……何が可笑しい? 人の娘」

 「…あ、ごめんなさい。 つい……」

 「……ふん」

 鬼子はふい、とそっぽを向いた。

 「ん~~~~……ぷはっ! ねーさま! 苦しいですよぉぉぉ~~~っ」

 「ん、すまぬ。 しかし、こにぽんがいらぬ事を申すから……」

 「きいねーさまが優しい事は事実でしょ? だからこの娘も助けてくれたんでしょ?」

 「……………」

 小日本が朱音の方を指さし、対する鬼子は更に顔を赤くさせる。

 そして朱音は、はっと気付いたような表情を浮かべていた。

 「(そうだ……私、この人に助けられたんだ……)」

 言われて、朱音は気付いた。

 自分が恐ろしいものに襲われている時、助けてくれたのは目の前にいる不思議な角を生やした少女。

 彼女が助けてくれなければ、自分も噂にされている都市伝説の犠牲者になっていたのかもしれない。

 そう思うと、目の前にいる鬼子への感謝の気持ちが一気に胸の中で膨らんだ。

 「あ、あの…! 助けてくれて、どうもありがとう……!」

 一生懸命声を振り絞って、朱音は背中を曲げるように、お礼と共に頭を深く下げる。

 突然お礼の言葉と頭を下げられた鬼子たちはまるで呆気に取られているみたいだった。

 頭を下げる朱音に、鬼子の声が降りかかる。

 「……儂の名前」

 「え…?」

 顔を上げた天音の視線の先には、綺麗な黒髪を流した美しい少女がいた。

 まるで紅葉が舞い散っているかのような光景をバックに、少女、鬼子は優しげな微笑と共に、鈴を転がしたような声で言う。

 「儂の名前は日本鬼子ひのもとおにこ。 貴女の名前は何と申す?」

 日本鬼子。

 その名前を目の前にいる少女から聞いた時、まるで水のようにすんなりと朱音の中へと入ってきた。

 とても雄々しくて、同時に秋の秀麗を兼ね揃えているかのような、素敵な名前。

 そんな日本鬼子に対し、朱音はすっと息を吸い込んだ。

 「朱音。 黛朱音って言うの」

 「朱音か。 うむ、しかと覚えたぞ」

 「また紹介することになるけど、私は小日本こひのもと! でも私のことはこにぽんって呼んでいいよーっ」

 こちらの幼子、自らの背丈ほどもある日本刀を携えた小日本の方は無垢な笑顔を振りまいた。鬼子が秋の秀麗と言うのなら、小日本は桜の蕾と表せるだろう。

 「じゃあ、私のことも朱音でいいわ」

 「うん! 朱音ッ!」

 太陽のような眩しい笑顔を振りまく小日本。それを見て、朱音も二人に対しては随分と心を開いていた。

 そしてそんな朱音に対するように、二人もまた十分に朱音を好意的に接していたと言えよう。

 「ねえ、あなたたちは姉妹なの?」

 そんな緩やかな会話が出来るほど、三人の間に障壁はなかった。

 「そーだよ。 私はきいねーさまの妹なのっ!」

 小日本が答え、鬼子もまた同意するように頷く。

 朱音が予想した通り、二人は姉妹のようだった。

 「きいねーさまは悪い奴らをやっつけてくれるから、私もきいねーさまのお手伝いをしてるんだ!」

 「…!」

 悪い奴ら―――とは、先程朱音自身も襲われたモノの事だろう。

 「そういえば……さっきのは一体、何だったの……?」

 今までの華やかな空気が一変、朱音は再びつい最近体験した恐怖を思い出し、顔色を青くさせた。

 身体の奥から自然と溢れる恐怖が、身体を震わせる。

 そんな朱音の様子をジッと真摯に見詰めた鬼子が、冷静に口を開いた。

 「あれは人の心に棲みついた物の怪じゃ」

 「物の怪……って、妖怪……?」

 朱音の問いに、鬼子は肯定するように頷く。

 妖怪なんて都市伝説以上に空想の産物だと思っていた。だが、自分自身が直に恐ろしい経験として身体に覚えてしまっているため、それを否定することはできなかった。

 「奴らは人の心に棲みつくでな。 我らの目的は、その人の心に棲みついた妖怪……又の名である“鬼”を退治する事」

 「鬼って……」

 朱音はその単語を聞いて、思わず目の前にいる二人の少女を見詰めてしまう。

 明確に見える、頭に生えた二つの角。

 そして、あの時見た赤い光景―――

 「そうじゃ」

 鬼子はククッと笑ってから、前髪をくしゃと触り、生えた角を強調するように前髪を掻き上げた。

 「我らも鬼じゃ」

 「―――!!」

 さも当然のように、軽く自らを『鬼』と明言した鬼子の言葉は、朱音には衝撃として強くぶつかってきた。

 「我らは鬼であるが、同族である鬼を狩っている。 だが、それが“鬼”を受け継ぎし我らに与えられた務めなのじゃ」

 「鬼が鬼を狩る……」

 「無論、同族狩りとして奴らから妬まれることもあるのじゃが……おっと、少し喋り過ぎたかの」

 鬼子は笑みを浮かべ、ククッと喉を鳴らして話をする。

 普通の人間である朱音には、到底理解できないような領域だろう。鬼子はそこまで理解していても、あえて話し、朱音に教えていた。その過程、朱音の反応を楽しむかのように、鬼子は笑うのだった。

 「先の奴は欲望にまみれ、欲望の塊として変化へんげを遂げた鬼じゃ。 この辺りで女子おなごばかり襲われていたのも、そいつの仕業じゃな」

 「あ、あの……」

 「なんじゃ? 人の娘……いや、朱音」

 「その……鬼に憑かれた人は、どうなるの……?」

 鬼子から聞いた話から推察する限り、妖怪―――鬼は、人の心に棲み憑くとされる。という事は、鬼が棲み憑いたとしても、その殻は人間だ。その鬼に憑かれた人間は一体どうなってしまうのだろうか。

 恐いが、この疑問はどうしても問いかけたかった。とある思い浮かべた不安を拭いたかったのかもしれない。兎に角、このもやもやとした気持ちを一刻も早く拭い取るために、答えが欲しかった。

 「鬼に棲まわれた人間は―――」

 「……………」

 朱音の緊張と共に過ぎる時間の末に、鬼子はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 「鬼と同化する」

 「え……ッ」

 「鬼に棲まれた者は心の内側から浸食され、やがて肉体と共に同化する。 一度同化してしまえば、最終的には魂を喰われてお終いじゃ」

 容赦のない解答。

 朱音の全身に、雷が落ちたような衝撃が走る。つい、足元がふらつく。

 だが、次に鬼子の口から洩れた吐息は、朱音を支えるものとなった。

 「……だが、安心せい。 儂によって斬られた鬼はそのまま消滅し、棲まれた人間は鬼から解放される」

 「え……」

 二度目の似たような反応を繰り返し、鬼子の笑いを誘う。

 「くっ。 間抜けな顔だのう」

 「こ、こっちは真面目なんですけど……ッ」

 「すまぬ、失言じゃ。 まぁしかし、儂の言っていることに嘘偽りはないぞ。 その証拠に、ほれ……」

 鬼子の指した方向を見てみると、先程鬼子によって滅せられた狼がいた場所に、見知らぬ男が倒れていた。それは、朱音が狼に襲われる前に見た男だった。地べたに倒れているが、気を失っているだけのように見える。

 「儂の薙刀は云わば神器。 悪しき妖怪しか斬れん」

 「そ、そっか……」

 どこか安堵する朱音だった。

 そしてふと、沸いた疑問が口から洩れる。

 「神器……鬼子、さんは……神様なの?」

 それを言った瞬間、朱音は思わず口を塞いだ。我ながら何て変なことを聞いているのだろうと思った。

 何故そんな疑問が漏れたのかわからない。だが、それは彼女にとってはタブーな気がした。

 だって彼女は……一瞬、悲しそうな表情を見せたから。

 「……先も申したが、儂は鬼じゃ。 神などでは無いよ」

 フッと笑うように、少し無理をするように、鬼子は返した。

 そして、隣にいた小日本が密かにきゅっと力を込めて鬼子の裾を掴んでいたのを、朱音は知らない。

 何だか聞いてはいけない事を聞いてしまったような気がして、朱音は悪い気を持った。

 「……………」

 「……………」

 気まずい空気が周りに流れる。この状況をどうしたら良いか、その場にいる三人には思いも付かず―――

 「そんな沈鬱な空気は放っておいて、胸の話をしないか?」

 「ッ!?」

 聞いたことのない男の声を聞いて、朱音は振り返った。だが、そこには誰もいない。

 朱音の耳のそばで、鬼子の上ずった声が聞こえた。

 「ヒワイドリッ! 貴様、どこから沸いて出たッ!?」

 「え?」

 朱音は鬼子が怒号を飛ばしている方へと視線を向ける。そこには人の姿はない。代わりに、鬼子の足のそばでばたばたと羽ばたいているおかしな鳥がいた。

 「六つの胸が集まっている所に俺が現れないと思ってか? 鬼子」

 「黙れ…ッ! 貴様はまた……というか、まさかこにぽんのも含めているわけではあるまいなこの変態ッ!?」

 「うむ、確かにこの場にいる乙女の胸の数を言えば、六つであろう。 しかし、俺が最も興味を持っている胸は……鬼子、君のCカップだけだ」

 「さりげなく儂の胸の大きさをバラすでないッ!」

 「(な、なんなの? この鳥さん……)」

 気が付けば、鬼子が突然現れた鳥との間で言い合いになってしまっている。

 朱音たちのそばに突然現れた鳥は、人の言葉を話すおかしな鳥だった。しかもよく聞いてみると美声で、吐きだす内容は女性の胸の事ばかりである。

 人語を話す鳥というだけでも驚くばかりなのに、もうわけがわからない。

 「あ、あの……鬼子さん? この鳥さんは一体……」

 「ほれ見ろ! 貴様が突然沸いたものだから、朱音が驚いているではないかッ!」

 「ふむ? これは珍しい、人間の娘ではないか」

 更に言えば鶏に似てるその鳥は、朱音を見ると観察するようにジッと見据え始めた。見据えられる朱音の方は戸惑う事しかできないが、やがて鳥の視線が朱音のある部分へと行き着く。

 「ふむ……鬼子より一つ劣ると見た……これは五年後に期待だな」

 「何をですかッ!?」

 あまりにも直視されている胸の部分を、朱音は思わず両腕で庇った。

 「人間の娘と語らうのは何百年ぶりだろうか。 人間の娘、良ければ俺と胸の話を……」

 「させるか、愚か者」

 「むぐ」

 じりじりと朱音に迫っていた鳥を、鬼子が後ろからむんずとその後ろ首を掴まえていた。

 「鬼子さん……」

 「朱音、すまぬな。 こいつはヒワイドリと言って、女子の胸の事しか考えていない名の通り卑猥な奴でな。 儂も手を焼いて仕方が無い」

 「胸とは浪漫だ。 その胸を考え、追求する事のどこが悪い」

 「少しは自重せんか、愚か者が」

 角を生やし鬼と自称する少女と、人語を解する鶏に似た鳥という摩訶不思議な光景であるはずなのに、既に順応性を高めている自分がいる。そんな適応が早すぎる自分自身も含め、今目の前で行われている光景を見詰め、朱音はどこか可笑しそうに笑った。

 「あは…っ」

 クスクスと笑いだした朱音に気付いた三人の鬼と鳥が、怪訝に朱音の方を見詰める。

 「何がそんなに可笑しい?」

 「だって……ううん、何でもない」

 「……おかしな奴じゃのう」

 「でも笑ってる朱音お姉ちゃん、素敵だよっ」

 「あは、ありがとう」

 「……すっかり仲良しだな、お前たちは」

 三人の笑う少女たちの顔を見渡して、ヒワイドリは言う。

 だが、鬼子たちはこの時間がいつまでも続くとは、最初から思っていなかった。

 所詮これは一時に過ぎない馴れ合いだ。少なくとも、朱音はそうとは思わずとも、鬼子は一人そう思っていた。一息を付いて、鬼子は肩に垂れかかった黒髪を払いながら朱音に向かって口を開く。

 「さて、そろそろお開きとしよう」

 鬼子の言葉に、驚いたのは朱音だけだった。朱音が鬼子たちの顔を見渡すと、小日本さえも、それが当たり前の事だと言わんばかりに簡単に受け止めている様子だった。

 「人間とこうして話したのは数百年ぶりだったから、実に楽しかったぞ」

 鬼子の口から紡がれる言葉を、ただ聞いていた朱音は、次第に自分を納得させていった。

 そうだ、そろそろお別れだ。

 彼女たちの姿を見て、朱音は確信した。

 「お別れ……だね」

 「うむ、長いように感じられる夜も永遠ではない。 必ず日は昇り、夜は終わる。 儂らも、そろそろお暇しなくてはならない」

 大きな薙刀を振るい、肩に乗せる鬼子。その鬼子の周囲にいる小日本とヒワイドリも、自分たちの帰るべき場所へ帰ろうとする。

 鬼子がトン、と薙刀の先端を地に着けると、そこから波紋が浮かぶように、鈴を鳴らしたような音が響き渡る。それがまるで合図だったかのように、鬼子の周囲から紅葉に似た炎が舞い上がった。

 「きゃ…!」

 朱音が驚いて舞い上がる炎から離れる。それは同時に鬼子たちから離れた距離となる。

 紅葉に似た火の粉が鬼子の周囲で舞い散る。鬼子の裾を掴む小日本が、無邪気な笑顔で朱音に手を振っていた。そして鬼子の足元にいるヒワイドリも、そのガラス玉のような瞳を朱音に向け、無言の別れを告げていた。

 そしてその中心には、鬼子が立っている。

 朱音は思わず、炎と紅葉に囲まれる鬼子たちに向かって声をあげた。

 「また……会えますか…ッ?」

 朱音の声は、舞い上がる炎の轟音によって遮られたのか、しっかりと鬼子たちに届いたのかわからない。

 だが、鬼子は凛として、微笑んでいた―――

 「さらばだ、人の娘。 主の緑が幸に恵まれん事を」

 朱音の言葉は、鬼子たちに届いたのだろうか。

 鬼子のはっきりとした声だけは、確実に朱音へと届いていた。

 そして、炎が、紅葉が、彼女たちを包む込むと―――

 「……………」

 そこにあった全てのものが、消え失せていた。

 炎も紅葉も、一欠けらも残さず、彼女たちの存在はそれらと共に消えた。

 朱音の肺に入り込んだ空気が、夜の冷たい空気となって入りこむ。

 世界は、完全に元の世界へと戻っていた。鬼子たちがいなくなった事で、世界は人間に返された。

 静寂な夜の公園で、一人立ち尽くす朱音。

 今までの事象が幻覚だったのかと思えるほど、それは平穏を取り戻していた。

 不思議な気持ちを秘めた自分の胸にそっと触れながら、朱音は闇に染まる空の中で青白く光る月を見上げる。

 彼女たちが帰っていった闇を、見上げる。

 「(日本鬼子……小日本……)」

 彼女たちの名前が、しかと自分の心に刻まれていることを確認すると、朱音はその抱く思いを持ち帰ることにした。

 「……さよなら」

 一人、闇に向かって彼女はお別れの言葉を紡ぐ。そして彼女たちに背を向けるように、朱音は歩を刻み始めた。夜の公園で、朱音は明日の友達へと言い訳を考えながら、自分もまた帰るべき場所へと帰るのだった。


 情報化社会が発達したこの世で、今や怪異は噂とされ、空想となった。

 

 もし、稀にでも彼らと、不運にも遭遇してしまった場合は―――


 それは、運命なのだろう。

【百目鬼伝説】

平安時代中期、常陸国(現在の茨城県)、下総国(現在の千葉県)に領地を持つ平将門という地方領主がいた。彼は地方政治が乱れているのを嘆き、これを正して自ら新天皇を名乗るが、朝廷からは地方役所に逆らった者とみなされ全国に追討命令が出された(平将門の乱)。当時下野国の押領使であった藤原秀郷(田原藤太)はこの命令を受けて将門軍と幾度にも亘って剣を交え苦戦を強いられる秀郷だったが、下野国に戻った折、宇都宮大明神に戦勝祈願を行い一振りの聖剣を授かり、これを持って引き返し将門軍と再び戦闘を繰り広げ、ようやくこれを討ち取ることが出来た。この功績をもって朝廷から恩賞として下野国司に任ぜられ、さらに武蔵国司・鎮守府将軍を兼務することとなった秀郷は下野国・宇都宮の地に館を築く。


ある日の狩りの帰り道、田原街道・大曽の里を通りかかると、出会った老人に「この北西の兎田という馬捨場に百の目を持つ鬼が現れる」と言われ、秀郷は兎田に行って言われた鬼を待ち始める。丑三つ時の頃、俄かに雲が巻き起こり、両手に百もの目を光らせ、全身に刃のような毛を持つ身の丈十尺の鬼が現れ、死んだ馬にむしゃぶりついた。秀郷は弓を引いて最も光る目を狙って矢を放ち、矢は鬼の急所を貫き、鬼はもんどりうって苦しみながら明神山の麓まで逃げたが、ここで倒れて動けなくなった。鬼は体から炎を噴き、裂けた口から毒気を吐いて苦しんだため、秀郷にも手が付けられない状態となった。仕方なく秀郷はその日は一旦館に引き上げることとし、翌朝、秀郷は鬼が倒れていた場所に行ったが、黒こげた地面が残るばかりで鬼の姿は消えていた。


それから400年の時が経って、室町幕府を立ち上げた足利氏が将軍となった時代、明神山の北側にある塙田村・本願寺の住職が怪我をするとか寺が燃えるといった事件が続いた。その中、智徳上人という徳深い僧が住職となると、その説教に必ず姿を見せる歳若い娘がいた。実はこの娘こそ400年前にこの辺りで瀕死の重傷を負った鬼の仮の姿で、長岡の百穴に身を潜め傷付いた体が癒えるのを待ち、娘の姿に身を変えてはこの付近を訪れて、邪気を取り戻すため自分が流した大量の血を吸っていたのであった。本願寺の住職は邪魔であったため襲って怪我を負わせたり、寺に火をつけては追い出していたという。智徳上人はそれを見破り、鬼は終に正体を現した。鬼は智徳上人の度重なる説教に心を改め、二度と悪さをしないと上人に誓ったのであった。


これ以降、この周辺を百目鬼と呼ぶようになったという。今も宇都宮の明神山の西側には「百目鬼通り」という名称で残る。


別説では秀郷が鬼を討った直後、火を吹きつつ苦しむ鬼に秀郷が近づけないでいるところへ智徳上人がやって来て、数珠を振るいつつ「汝、我が法力をもって得脱せよ」と唱えると、火がやむと共に鬼の百目が消えて人間の姿となったので、秀郷はその死体をその地に葬ったともいう。



糞長い解説で申し訳ありませんでした。

最後に、ここまで読んでくださった方がいるのならば本当に感謝するばかりです。

本来は蔑称であるはずの日本鬼子を萌えキャラ化するというのは、日本人ならではの発想として個人としては結構好印象だったりします。故にこうして作品を書いてしまったわけですが。

日本は今日も平和ですね^^


ここまでお読み頂き、まことにありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言]  伊東先生こんばんは。石田零です。  「日本鬼子」萌えキャラ化の話は自分もネットで見ましたが、正直驚かされました。相手を罵倒する言葉を萌えキャラにして返すなんて、日本にしかできない芸当だと…
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