その騎手は鞭を使わない
バチコーンッ!!
鞭の音。
最後の直線、蹄の音が地響きを上げる。
馬群が我先にとゴールを目指す。
そんな馬に騎手が鞭を入れる音だ。
血が出るほどの強烈な鞭を連打していた時代ならいざ知らず、動物愛護が根付いた令和の世。
現代の競馬では、鞭はソフトな素材で出来ていて、痛みで馬を使役するのではなく、『ここが勝負ところだぞ。』という合図を馬に送るコミュニケーションツール、という認識である。
とはいえ全く痛くないわけもなかろう? そんな声があるのも事実。
そんな中、鞭を全く使わない騎手が現れた。
しかもその男、牝馬を駆れば連戦連勝。
鞭を使わず馬を巧みに操り、勝ち星を重ね続けるその男。
一体どんな魔法を使っているんだ?
謎の天才騎手に、周囲は一様に首を傾げた。
**********
「やあ、久しぶりだね。君とずっと会えなくて寂しかったよ。」
「やっぱり君の上は落ち着くね。僕は君といるととても安らぐんだ。本当なら君を誰にも渡したくない。ずっと君を独り占めしたいな。」
「僕の為に頑張らないで。君は君自身が輝くために走るんだ。大丈夫。僕が一番近くで見ているよ。」
「おっと、乱暴な馬たちだね。僕たちの仲を嫉妬しているのかな? 僕たちは誰から見てもうらやまれる仲なんだね。」
「しなやかな走り。佇んでいる姿も最高に素敵だけど、こうやって駆け抜けている君は神々しささえ感じるよ。ずっと君とこうして駆けていたいなあ。」
「あぁ、もう最後の直線か。寂しいなぁ。
今日の君も最高に輝いていたよ。レースの後は僕が君をたっぷり甘えさせてあげるからね。」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
〜 10馬身差で一着 〜
**********
彼の前職はホスト。彼の言葉は鞭より強い。
おしまい




