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『卒業パーティーで断罪ですか? 結構ですが、私達の婚約は1年前に破棄されておりますわ』

作者: key
掲載日:2026/06/21

「エレノア・ヴァレンタイン侯爵令嬢! 本日、私は貴様との婚約を破棄し、我が『真実の愛』であるリリアとの婚約を発表する!」

きらびやかな王立学園の卒業パーティー。

その主役に躍り出るはずだった第一王子・カイルの怒号が、大公ホールの天井に響き渡った。

カイルの傍らには、いかにも庇護欲をそそる風貌の男爵令嬢リリアが、勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っている。

周囲の貴族たちがざわめき、哀れみの視線が――いや、どこか奇妙な視線が一斉に私、エレノアへと注がれた。

私は持っていた扇でそっと口元を隠し、深くため息をつく。

「……カイル殿下。一つお伺いしても?」

「ふん、命乞いか? 貴様がリリアに行った数々の嫌がらせ、言い逃れはできんぞ!」

「いえ、そうではなく。……カイル殿下は、ご自身の『記憶力』に問題がある自覚はおありですか?」

「何だと……っ!?」

顔を真っ赤にするカイル殿下に、私は極上の微笑みを向けて告げた。

「カイル殿下、そしてリリア様。お二人が育まれてきたそれは『真実の愛』などではなく、ただの不貞――要するに『浮気』ですわ。それも、1年以上前から続く、実に見苦しいものです」

「なっ、浮気だと!? 私とリリアの愛は神聖な――」

「神聖も何もございません」

私は一歩前に出ると、あらかじめ用意していた『ある書状』を掲げた。

「皆様、ご注目ください。カイル殿下が今、高らかに『婚約破棄』を宣言されましたが……私とカイル殿下の婚約は、ちょうど1年前に正式に解消されております」


そうなのだ。私は1年前、カイル殿下がリリア様と手を繋いで夜会を抜け出す姿をバッチリ目撃し、その瞬間に「あ、この婚約ダメだわ」と察知していた。

我がヴァレンタイン侯爵家の優秀な情報網を舐めてもらっては困る。私はすぐさま動き、カイル殿下の「浮気の証拠(密会写真代わりの魔導具の映像、生々しい手紙の数々)」をすべて押さえた。

そして、それらを持って国王陛下の元へ直談判に赴いたのだ。


条件1:カイルの有責による婚約解消(ヴァレンタイン家への巨額の慰謝料)。

条件2:学園の風紀と王室の面子のため、卒業までは「表面上」婚約関係を維持しているように見せること(カイル本人には、ショックで公務に支障が出ないようあえて事後報告にする手筈だったが、国王が書類を机に隠したままカイルに伝達し忘れていたことが判明)。

条件3:エレノアは残りの1年間、隣国へ「短期留学」し、次の未来へ進むこと。


そう、私はこの1年間、ほとんどこの国にいなかったのだ。

カイル殿下がリリア様とイチャイチャしている間、私は隣国の最先端魔法を学び、そして――新たなる最上の伴侶を見つけていた。


「婚約が……1年前に解消されて、いる……?」

カイル殿下が、まるで理解できないという風にパチパチと目を瞬かせる。

「左様です。カイル殿下、あなたがここ1年、私の元に一度も通わず、夜会のエスコートすら拒否していたのは、私が『留学』で不在だったからですよ? 拒否されていたのは、あなたの方です」

「そ、そんなはずは……! 父上! 父上、これはどういうことです!? リリアは、エレノアに教科書を破られたり、階段から突き落とされそうになったと――」

青ざめるカイル殿下の背後から、怒髪天を突いた国王陛下が歩み出てきた。

「黙れ、愚か者がッ!!!」

「ひっ!?」

「エレノア嬢はこの1年、我が国の代表として隣国へ留学していたのだ! 階段から突き落とすどころか、この国にさえいなかったわ! 男爵令嬢リリア、貴様の狂言はすべて調査済みだ。カイル、貴様は本日をもって王位継承権を剥奪、辺境の鉱山へ生涯謹慎処分とする!」

「そんな……っ! 私の王妃への道がぁっ!」

リリア様がその場にへたり込み、衛兵に引きずられていく。

カイル殿下もまた、魂が抜けたような顔で連行されていった。


静まり返った会場で、私は一つ、優雅にカーテシーをした。

「それでは皆様、私はこれにて失礼いたします」

「待って、エレノア」

ホールの入り口から、低く、どこか楽しげな鈴の鳴るような声が響いた。

現れたのは、夜の闇を溶かしたような黒髪に、神秘的な紫の瞳を持つ美青年。

彼こそが、私が留学先で出会った――隣国の第三王子、シリウス殿下。

シリウス殿下は迷いのない足取りで私に近づくと、私の手を取って甲に優しくキスをした。

「迎えに来たよ、私の愛しい婚約者フィアンセ。ずいぶんと退屈な茶番に付き合わされていたようだね?」

「ふふ、シリウス様。お待たせいたしました。これでようやく、お傍に逝けますわ」

私たちが腕を組んで歩き出すと、今度こそ会場からは割れんばかりの拍手と、羨望の眼差しが向けられた。

浮気しか能のない元婚約者を綺麗さっぱり捨て去り、私は今度こそ、本当の「真実の愛」を掴み取って、光り輝く隣国へと旅立つのであった。



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