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第3話 統轄管理室へようこそ

 廊下を進み、設置されたエレベーターに乗ると豊命が話し始めた。

 

「まず、私たち調冥者は幽現界の均衡を保つことを役目としているの。大きく分けて仕事内容は二つ。一つ目は幽現界に住む人たちが快適に過ごせるようあらゆる手を使ってサポートすることよ」

 

 先ほどの受付対応もそれに当たるらしく、やってくるお客さんがストレスフリーに過ごせるように日々業務に励んでいるのだそう。逆に即倒するぐらいの負荷を来客たちにかけている気がしなくもないが。

 

 目的の階に着いたようで、照真と豊命はエレベーターを降りて歩き出す。

 

「それで、二つ目は?」

「話したいところだけど、もう着くからまたその時が来たら教えるわ」

 

 豊命に言われて前を見ると、統轄管理室と書かれた扉があった。職場に着き、豊命が扉を開ける。彼女に続いて入った照真は、来て早々、目の前の光景に唖然とする。


 配置されたデスクにはところ狭しと山積みにされた書類があり、栄養ドリンクらしきものが置かれている。働いている職員は皆、げっそりとした様子で液晶パネルに付属されたキーボードを高速連打していた。

 

「ほ、豊命さん……ここは?」

 

 照真は恐る恐る隣の豊命へ声をかける。

 

「ここは統轄管理室。冥路閣にいる調冥者を取り纏めると同時に、人手の足りていない部署の手伝いをしたり、他の調冥者には手に負えない事案を解決するのが仕事よ」

 

 豊命は笑顔を貼りつけた状態で簡潔に説明しているが、いかんせん目が笑っていない。まるでブラック企業の一角を絵に描いたような状態だ。


 一週間だけとはいえ、今日からここで働くのかと思うとゾッとする。

 

「か、帰って良いすか?」

「駄目に決まってるでしょ。大体、審査も受けてない今の貴方じゃ帰るに帰れないわよ」

「っすよね……」

 

 仕方なく豊命の後に続いて中に入ってみれば、各所から職員の呻き声が聞こえてきた。思わずここは祟魔の巣窟かと勘違いしそうになる。

 

「ほーら二人とも。新入り連れて来たわよ。しゃきっとしなさい」

 

 豊命は鬱蒼とした空気を変えようと、職員たちに向けて言った。

 

「気が弱くて体力ない奴ならこの部署には要らないから、お断りよー」

 

 仮眠を取っていたのか、若草色の髪をポニーテルで纏めた女性がソファから身じろぎしながら言ってくる。

 

「初っ端からそれは酷いんじゃないかな……。けど、新入りなんて本当に珍しいね。何かあったのかい?」

 

 やつれた声で話す男性はだいぶお疲れのようで、椅子から立った拍子に首元で一つに纏められた菫色の長髪がだらんと力なく椅子から落ちた。

 

「あー、それがね」

 

 二人とも重い足取りで豊命の元にやってきたところで、彼女は事情を説明し始めた。


 豊命が話している最中、二人が照真の方をじっと見るので、何かあるのかと訊いてみる。どうやら二人には照真が生きている人間だと分かるらしい。

 

「なるほど、迷い込んじゃったのか。それはまた難儀なことになったね」

「生きてようが死んでようが仕事できるやつなら大歓迎よ」

 

 男性が同情するような目で見てくるのに対し、女性は勝気な笑みを浮かべながらきっぱりとそう告げた。

 

「どうも、度会照真っす」

「僕は斎綾(さいりょう)。よろしくね」

「あたしは薙華(ていか)。期待してるわよ」

「うっす。よろしくお願いします」

 

 自己紹介を終え、二人とも悪い人ではなさそうだ。問題は仕事内容なのだが、どのぐらいハードなのだろうか。そう不安に思っていると、豊命がパンッと両手を叩いた。

 

「一通り説明したところで、私はちょっと出るから。二人とも後はよろしくね」

「えっ、あ、ちょっと!?」

 

 豊命は言うだけ言って、部屋から出て行く。置いていかれそうになった照真は、引き留めようと後を追いかける。


 だが、逃げ足が速いのか、既に彼女の姿はなくなっていた。

 

「あー、どうしましょう……」

 

 照真は困惑しながら、斎綾(さいりょう)薙華(ていか)の方を振り返る。突然、丸投げではなく後を任せられたことにより、二人も困惑している様子だ。

 

「あたし、今日のところは事務仕事だから手伝ってもらうこととかあんまりないのよね……」

「となると、僕か。んー、そうだなぁ……」

 

 斎綾は唸りながら考え始める。急に振られても困るだろうし、新人の俺に手伝えることなんて早々ないだろうなと感じながら彼の回答を待つ。

 

「あ、そうだ。ついさっき入ってきた案件があったんだった。ちょうど良いから、照真くんにも手伝ってもらおうかな」

「うっす。自分にできることであれば」

「なら行こうか」

 

 斎綾はそのまま管理室を後にする。照真も今度こそ置いて行かれないように後を追うのだった。

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