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第2話 絶世の美女

 玄峯を見送った照真は、そのまま冥路閣へと続く階段を上り、入り口に設置してあった自動ドアを潜る。中は思っていたより広く、大勢の人が受付カウンターらしきところに並んでいた。


 なるべく空いてそうなところに並んで順番が来るのを待つ。職員らしき人たちが対応に追われていた。心なしかみんなげっそりと疲弊していて大変そうだなと感じる。


 と、ここで人々の目線が一箇所に向いていることに気づく。視線を辿った先には、浅葱(あさぎ)色の髪を三つ編み団子で纏めた美麗な女性がカウンターで対応していた。


 ちょうどカウンターでやり取りをしていた男性客に向けて、彼女がにっこりと金色の瞳を細めて微笑むと、キューピットに矢で射られたかのようにその場で悶絶していた。


 その光景に唖然としていると、自分の順番がきた。

 

「お待たせしました。次の方どうぞ」

 

 襟のついた黒の小袖羽織に、銀鼠(ぎんねず)の袴といった職員の制服を着た女性に声をかけられ、カウンターまで移動する。


 愛想のいい笑みを浮かべた女性を間近で目にすると、やはり人間離れした美貌を持っていた。シミ一つない白い肌に金色の瞳、隅々まで手入れの行き届いた浅葱色の髪は光り輝いている。


 まるで全身が後光(ごこう)を纏っているかのように眩しい。


 なるほど、これは即倒するわけだ。それにしてもこの感じどこかで会ったことがあるような気がしてならない。


 照真はその美しい容姿に既視感を覚え、じっと彼女を見る。すると、視線に気づいたのか女性が怪訝そうな目で照真を見てきた。

 

「あのー、何か?」

「いや、なんでも」

「では、お名前とご用件をお願いします」

 

(やっぱり、この人どこかで見かけたことあるような……)

 

 それに声も聞いたことのある美声だ。目の前の女性をじっと見ながらも、言われたことに答えようと口を開く。

 

「えっと度会照真っす。どうやら死んだみたいなんすけど、正直死んだ実感とかなくて。その、できたら帰りたいな~ってなんて……」

「死んだ人間は現界に戻ることはできませ……」

 

 女性は手に資料を持ちながら淡々と告げたかと思うと、言葉を途切れさせた。どうしたのかと不思議に感じていると、女性の目が徐々に見開き、信じられないものを見るかのような目を向けられる。

 

「って、はああああああ⁉」

 

 突然、女性がカウンター越しに叫び出し、照真はビクッと肩を震わせる。

 

「ど、どうかしたっすか?」

「どうかしたかじゃないでしょう!? なんであんたッ――いや、ここで話すのはだめね。ちょっとこっち来なさい!」

「え、それってどういう……」

 

 カウンターから身を乗り出して言ってきたかと思えば、中に入るよう言われ、戸惑う照真。


 不味いことでもあったのだろうか。


 急な事態に呆然としていると、カウンターを出て個室へ入ろうとした女性が身を翻して照真へと身体を向けた。

 

「いいから早くッ!」

「う、うっす……」

 

 鬼のような剣幕で睨まれ、おずおずと女性の後を追う。気のせいだろうか。後ろからものすごい視線をヒシヒシと感じる。


 きっとここにいるほとんどの人がこの女性と二人きりになるのが羨ましいのだろう。だが、照真自身、帰りたい気持ちでいっぱいなので正直、そんな悠長なことを考えているどころではない。

 

 個室に入ると、中には四角いテーブルと向かい合うように置かれた椅子があった。そのうちの片方に座るように言われ、腰かける。

 

「あ、あの……」

 

 手にしていた資料を机に置いた女性が向かいに座るのを見て、照真は視線を泳がせながら、気まずそうに口にする。その様子に女性は照真へと目を向けた。

 

「私は豊命(ほうめい)。この冥路閣に所属する調冥者(ちょうめいしゃ)よ。分かりやすく説明するなら、この幽現界を管理する番人みたいなものね」

 

 調冥者(ちょうめいしゃ)が何なのかはいまいち分からないのだが、何かまずいことが起こっているのだけは理解できる。

 

 豊命(ほうめい)と名乗った彼女は一息ついてからこう告げる。

 

「単刀直入に言うと、今のあなたは死んでない。まだ生きてる状態だわ」

「……はっ? 死んでないってどういう……」

 

 幽現界は死者が来る世界。そう玄峯から聞いた。でもこの人は、豊命はまだ生きてると言っている。なら何故生きている自分がここにいるんだ。


 視線を下に落としながら考えこんでいると、豊命が唸り声を上げながら話し出す。

 

「考えられる可能性として挙げられるのは、生きている状態でこの幽現界に迷い込んだってところかしら。今のお盆の時期は死者が現界へ戻る期間で、幽現界と現界の境界が曖昧になりやすいの。だから間違って入ってくる生者がごく稀にいるのよね」

 

 それならば生きたままここに来るということもあり得るだろう。豊命の話によると、特に照真のいた山という場所は古来より、境界が曖昧になりやすいらしい。


 また、生きたまま幽現界に来たという事例は照真が初めてというわけではないようだ。

 

「それで帰るにはどうしたら……」

「本音を言うなら今すぐにでも帰らせてあげたいんだけど、幽現界の制度上そうもいかなくてね。帰るにはある程度の審査が必要になってくるの」

「その審査っていうのは?」

 

 照真が尋ねれば、豊命は咳払いをして言葉を続ける。

 

「まず、前提として幽現界は死後、幽界いわば天国に行くまでの四十九日間しか滞在できない。その期間中、七日間ごとに幽界に行くか冥界にいくかを決める審査があるの。その審査を受けて貴方がまだ生きてるって証明できないと帰るに帰れないってわけ」

 

 七日間ごとに審査を受けるとなれば、一か月半は現界に帰れないことになる。


 自分がいなくなったと知ったら伊勢神宮のみんなに心配をかけることになるし、祓術師(ふじゅつし)が知らぬ間に消えたと騒動になるかもしれない。そんな事態はなるべく避けたい。

 

 一刻も早く帰れる方法があるんなら教えてほしいところだが……。

 

「まぁ、この私に任せておけば最初の七日目の審査で帰れるわ」

「本当すか?」

「えぇ。勿論よ」

 

 豊命は自信に溢れたような笑みを浮かべる。


 加えて彼女によると、帰るときには元の時間と場所に帰れる鍵を渡してくれるそうなので、現界に照真がいない間の心配はしなくても大丈夫とのことだった。

 

「けど、貴方がまだ生きてるって周りにバレたら色々と厄介なことになるから安易に出歩かせるわけにもいかないのよね……」

「じゃあ審査を受けるまでの間どうすればいいんすか?」

 

 訊かれた豊命はその場で思案し始める。しばらくあれでもないこれでもないと熟考したかと思えば、机に置かれた資料へと視線を移す。

 

 資料には名前や年齢、現在の職業とともに、これまで照真が辿って来た人生が時系列順に記されていた。これが考えるヒントになるのかと疑問に思っていたら、豊命が顔を上げた。

 

「貴方、確か祓術師(ふじゅつし)よね?」

「えぇ、そうっすけど……」

「なら調冥者(ちょうめいしゃ)の仕事を手伝ってくれないかしら? 今、お盆の時期ってこともあって絶賛人手不足中でね。それに調冥者として仕事をこなせば、貢献度が上がって審査の合格率も高くなる。どう?」

 

 調冥者というのがどういう職種なのかは未だに分からないが、どこかで隔離されてじっとしているより、動く方が自分には性に合っている。


 それに一定以上貢献度が上がれば、七日目に行われる審査の順番を短縮できるらしい。そういうことなら当然、やる他ないだろう。

 

「ここにいる間、他にすることもないですし俺でよければ」

「なら決まりね。職場まで案内するわ。着いてきて」

 

 席を立った豊命はそう言うと、資料を手に個室から出て行く。照真も彼女の後に続く形で個室を後にする。

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