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第10話 激戦

 照真は、剣を手に猛スピードで玄峯の元へ接近する。

 

「ッ……!」

 

 まずいと悟ったのか、玄峯は豊命の首から手を離して遠くへ放るとともに錫杖を手にする。

 

「てめぇッ……!」

 

 放り出された豊命が壁に激突する中、照真は玄峯に向けて剣を振り下ろす。すんでのところで玄峯が錫杖で受け止め、上からかかる圧力でアスファルトが割れ、破片が宙に舞った。

 

 ギチギチと刃と柄のぶつかり合う音が鳴り響く。と、玄峯は踏ん張り、錫杖で押し上げると同時に照真の剣を横にいなす。その反動で微かに身体が宙に浮いた照真は着地して立て直した。

 

「ふぅ~、怖い怖い……。危うく斬られるところだった」

 

 照真から距離をとった玄峯は肩で息をしており、額には汗がにじんでいた。攻撃は入れられなかったが、だいぶ手こずっているようなので、少しは効いているらしい。

 

「いや~、その剣面白いね。色んなものが混じってる。尚更欲しくなってきた」

 

 そう言った玄峯は宙に錫杖を展開させ、放射。照真は降り注ぐ杖を剣で次々と弾き返していく。


 最後の一本を落としたところで、剣に光を纏わせ斬撃を飛ばす。玄峯は手にした刀で飛んできた光の刃を粉砕する。

 

 応戦すること数分。お互い疲弊したところで、隙をついた照真が胴目掛けて突きを入れる。


 避けきれず、玄峯の腹から血が噴き出す。


 けど、こいつはこんなものでは祓えない。立て続けに斬ろうと振りかざす。玄峯は躊躇いもなく腕で剣を制止し、空いた懐へ掌底突きを入れる。

 

「ごふっ!?」

 

 直後、照真のぐわんと視界が揺れ、血が逆流して口からこぼれ出る。


 ズキズキとした痛みが襲い、腹を抑えてその場にしゃがみ込んだ。しゃがんだ拍子に地面へ手をついてしまい、剣が落ちる。

 

(これはヤバい……)

 

 止まらない咳に鮮血が混じり、地面に染みができる。


 間違いなく内臓をやられた。早く止血しないと……。


 そう喰らった箇所に祓術を回す。

 

「っ!?」

 

 ふと頭上に気配を感じて顔を上げれば、玄峯が刀を振り下ろす寸前だった。避けなければ待つのは死。どうにかしてここから離れないといけない。


 そう足を動かそうとするが、痙攣して力が入らない。 と、その時――


「――はあっ!」

 

 気合いの声と共に玄峯の振り下ろした刀が弾かれた直後、突風が舞い、一瞬にして玄峯が遠くへ飛ばされる。


 照真の間に入った者の手には薙刀が握られていた。薙刀の使い手は薙刀を脇に構えると、こちらを振り向いた。

 

「ごめん遅くなった」

「薙華さっ……助太刀……感謝します」

「良いのよ。よくここまで持ちこたえたわね」

 

 しゃがんだ状態で肩に手を置いて話す薙華は、懐から小瓶を取り出して照真へと渡す。


 薙華に飲めと言われ、照真は躊躇しつつも中身を口にする。差し出された小瓶に入っていたのは、液体状の治癒薬。飲んで少ししたら次第に痛みが消え、血の混じった咳も止まった。

 

 照真が治ったことを確認した薙華は、立ち上がるととある方向へ身体を向ける。照真も徐に立ち上がってそちらに目を向けた。

 

「おい斎綾ー、あんたのことだからもう動けるでしょ? 薬あげるからさっさとこっち来な」

 

 薙華が呼びかけて十数秒もすると、埋もれていた瓦礫が動いてそこから斎綾が出て来た。

 

「いててっ……。そんな無茶言わないでよ……」

 

 立ち上がった斎綾は痛そうに顔を歪めながら、腹に手を当てて歩いてくる。小瓶を渡された斎綾が中の液体を飲み干すと、受けた傷がみるみるうちに癒えていく。

 

「斎綾さん……生きててよかった……」

「心配かけたね」

 

 斎綾は困ったように微笑みながら、わしゃわしゃと照真の頭を撫でる。そして、玄峯が飛んでいった方向へ視線を向けた。

 

「正直、戦闘向きの豊命と薙華の二人がかりでも隙を見て致命傷を当てるのが精一杯だ。だったら尚更、僕と薙華、照真くんの三人でもあいつの相手は厳しいだろうね」

「けど、あんたのその剣があればなんとかなる。あたしらが援護するから、トドメは頼んだわよ」

 

 薙華はそう言いつつ、照真の手に握られた剣を見つめる。照真も剣に視線を下ろす。この剣で戦ってから少しではあるが、玄峯の動きが鈍くなった。それだけの力がこの剣にはある。

 

「……分かりました」

 

 それにもう一人ではない。今度は薙華と斎綾もいるのだ。必ず祓い切ってみせる。強い意志の宿る瞳で見据えた先には、血濡れの玄峯の姿があった。

 

「あららぁ、いつの間にか三対一になっちゃってまぁ……。僕ってば人気者~」

 

 まだ体力が有り余っているのか、へらへら笑いながら歩いてきた。その手には折れた刀が握られている。

 

「その余裕ぶった顔、今度こそ叩き斬ってやる」

「へぇ、ガキの癖してよく言う。でも、おじさんそういうの好きだよ」

 

 照真が剣を構える一方、玄峯は折れた刀を消し、宙へ上昇する。一定の高度まで上がったところで、手を頭上にあげた。


 すると、次第に周囲に風が巻き起こり、巨大な嵐球が顕わになる。

 

 薙華と斎綾もお互い武器を構えた直後、嵐球が照真たちへと落下する。三人はそれぞれ散開。巻き込まれる寸前で、建物の影に避難する。

 

 刹那、嵐球が地面に衝突した。周囲の窓ガラスは漏れなく全壊し、建物の破片の一部が暴風によって巻き上げられる。


 しばらくして嵐が止み、顔を覗かせてみたら、照真たちが先ほどまでいたところにはクレーターができていた。その上空には無数の破片が浮いており、切っ先は全て照真たちに向けられていた。

 

「おいおいマジかよ……」

 

 掻い潜ろうにもこの細かさじゃ防ぐのは無理だ。玄峯が手を振ると同時に瞬く間に破片が降ってくる。


 まともに隠れられる建物もあらかた消えてしまったとなると、残る手はほぼ無いに等しい。そう一つを除いては。

 

「防げ!」

 

 斎綾が言い放つと、辺り一帯に大規模な結界が展開された。


 破片が容赦なく降りそそがれるが、大結界を生成した斎綾の手腕によってすべて防がれる。


 その間にも、照真と薙華は半壊した建物の壁を疾走し、玄峯へ迫る。玄峯が軽く横に手を振ると、光が放射され、足場となる建物が崩された。


 建物が崩壊する中、薙華は破壊された瓦礫を足場に跳躍する。

 

「らあああっ!」

 

 真上から薙刀で風の斬撃を飛ばすが、躱された。そのまま落下するかと思いきや、どこから生えてきたのか、木の枝が足場となり、再度攻撃を繰り出す。

 

 照真もそれに合わせて瓦礫から飛び、突きの体勢を取る。初撃が外れるも、二撃目は背中にヒットした。その勢いのまま玄峯の背中を蹴って近くのビルの屋上へ墜落させる。


 屋上へ転がり落ちた玄峯は受け身をとって着地した。その上から照真、薙華が押し寄せ、乱戦になる。だが、二人を相手取る玄峯の剣速は留まることを知らず、どんどん上がっていく。

 

(早いッ……)

 

 押され気味になっていた照真は、薙華から下がれと念話を受け、一時後退する。


 と、玄峯の頭上に水を纏った錫杖が出現。斎綾の拍手が鳴ったと同時に一斉に放たれる。全射命中とはいかないまでもかなりのダメージが入った。

 

 玄峯は再度宙に浮きながら、背中に刺さった杖を抜く。だいぶ疲弊しているようで、咳き込んだ玄峯の口から血がこぼれる。

 

(あともう少し……!)

 

 薙華から風の祓術を付与された照真はコンクリートを蹴って上昇。瞬く間に玄峯の上まで到達し、狙いを定める。

 

「もらったッ!」

 

 無防備となった玄峯へ炎を纏わせた刀身を振り下ろす。振り下ろされた剣は玄峯の胴を核ごと両断する。斬られた箇所から血が噴き出した。


 だが、斬ったという感触がない。これはどういうことだ……。


 そう思案していると、一つの可能性に思い当たる。

 

「まさか幻術……⁉」

 

 そう呟いた次の瞬間、後ろから手首を掴まれた。

 

「ッ⁉」

 

 引っ張られた方向に顔を向けると、背後の空間が裂けており、空いた穴から玄峯が腕を伸ばして照真の手首を掴んで引っ張ろうとしていた。

 

「僕の勝ちだ」

 

 まずい、このまま引きずり込まれたら戻れなくなる。そう振りほどこうとするも、強い力で掴まれておりほどけない。


 クソッ! 完全に油断した……。


 そう後悔するのも束の間。

 

「誰が渡すかぁぁあぁあッ!」

 

 叫び声が聞こえ、上を見上げると大鎌を振り下ろした豊命が、玄峯の腕を斬り落とした。

 

「! 豊命っ……」

 

 切断された玄峯の腕から血が飛び散ったと同時に、裂けた空間が閉じ、豊命と照真は揃って地面へ落下。空中で回転して無事に着地した照真は、次いで地面に降り立った豊命へ視線を向けて安堵する。


 見たところ、豊命も治療薬を飲んだらしく、ほぼ無傷の状態に戻っていた。

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