第39話「再会ラッシュ」
入学式。二回目。
桜。制服。校門。
前にも通った校門。前にも見た桜。前にも着た制服。——でも、違う。全部知っているのに、全部新しい。
「入学式、二回目だ」
「一回目より緊張する?」
「しない。知ってるから」
ミラが隣にいる。制服。転入前だから今は一般枠で入学している。同じクラスになるのは——少し先だ。
「先に行くね」
「うん。——また後で」
「また後で」
ミラが校舎に消えていった。
一人で教室に入る。一年三組。知っている教室。知っている机。知っている窓。
席に着いた。
——隣の席。
「あ、隣だ! よろしくね!」
明日香。
笑顔。眩しい笑顔。穏やかで、温かくて、上品な笑顔。初対面の笑顔。——明日香は、俺を知らない。まだ。
「時任明日香です。——よろしく!」
「岐堂選。よろしく」
手を差し出された。握手。明日香の手が温かい。覚えている。この温かさを。
(知ってる。お前は強い奴だ)
「岐堂くんって、ゲームする?」
「する」
「何系?」
「RPGとか。アクションも」
「私ね、ネットワーク構築シミュレーターっていうのが好きで——あ、ごめん、いきなり変なやつ」
「いいよ、聞かせて」
「え、いいの? じゃあね、パケットルーティングの——あ、ごめんつい」
「いいから続けて」
明日香の目がキラキラしている。技術オタクモード。初日から全開。一回目も確かこうだった。変わらない。
(お前は変わらない。それが、お前の強さだ)
「えへへ、初日からこんな話聞いてくれる人初めて」
「……こっちこそ」
「え?」
「初めての入学式で——こんなに安心したの、初めて」
「?」
明日香が首をかしげた。分からなくて当然だ。初対面なのに安心するなんて、おかしい。
「何でもない。——よろしく、明日香」
「うん! よろしく、岐堂くん!」
数週間後。
ミラが転入してきた。知っている展開。知っている教壇。知っている自己紹介。
「ミラです。よろしくお願いします」
無表情。短い。一回目と同じ。
教室がざわつく。美少女転入生。銀髪。無表情。ミステリアス。
ミラの目が俺を見た。一瞬だけ。——微かに笑った。二人だけが分かる笑顔。
知っている。覚えている。——でも、初めまして。
「よろしく」
「……よろしく」
二回目の、よろしく。
さらに数週間後。
黒瀬が来た。
「黒瀬美琴! よろしく!」
教壇の上で拳を突き上げた。一回目と同じ。全く同じ。このエネルギーは二回目でも変わらない。
放課後。黒瀬が俺の前に立った。
「ねー、殴り合おうよ!」
「……初日からそれか」
「え? 初めましてだよ?」
「分かってる。——よろしく、黒瀬」
「よろしく! で、殴り合おうよ!」
(知ってる。お前は楽しい奴だ)
「……まあ、付き合うか」
「やった!」
律が転入してきた。
「真壁律」
それだけ。名前だけ。一回目と同じ。
放課後。路地裏で会った。——今回は偶然じゃない。会いに行った。
「お前——誰だ」
「岐堂選」
「何の用だ」
「……別に。ただ——」
「ただ?」
「お前に会いたかった。それだけ」
「……意味が分からない」
「分からなくていい。——よろしく」
律が俺を見た。不審そうに。でも——敵意はない。
「……変な奴」
「変で結構。——帰り、一緒にどうだ」
「断る」
「じゃあまた明日」
「…………」
「また明日」
「……遅い。さっさと帰れ」
律の「遅い」。一回目から変わらない。
(知ってる。お前は優しい奴だ)
神崎。
初対面は——放課後の校門前。一回目と同じ状況で。
「初めまして。判断官の神崎玲奈です」
「初めまして。——判断官って何」
「あなたの行動を観測・記録・判定する役割です。——早速ですが、検査の続きを」
「続きって——初対面だろ」
「初対面でも検査は必要です」
「え? なんで?」
「あなたが興味深い個体だからです。——逃げないでくださいね?」
「逃げるよ!」
「逃げても追いかけますよ。——判断官ですから」
にっこり。余裕。双眼鏡。——全部、同じ。
(知ってる。お前は性格が最悪で、でも最悪じゃない奴だ)
「……よろしく、神崎」
「よろしくお願いします。——では早速」
「早速はやめて!!」
全員に再会した。
一人ずつ。順番に。知っている顔。知っている声。知っている口癖。
——でも、向こうは知らない。覚えていない。体育祭も、文化祭も、送別会のハンバーグも。俺とミラだけが覚えている。
それでいい。
覚えていなくても——同じ人たちだから。同じ笑顔。同じ強さ。同じ優しさ。
放課後。ミラが校門で待っていた。
「おかえり」
「ただいま」
「全員に会えた?」
「会えた。——全員、同じだった」
「同じ?」
「同じ。明日香は強くて、黒瀬は楽しくて、律は優しくて、神崎は最悪で」
「最悪」
「最悪じゃないけど最悪」
「……分かる」
ミラが微かに笑った。
「……選」
「何」
「二回目の入学式。——一回目より、いい?」
「いい。——全部知ってるから。全部、大事にできる」
「……うん」
「今度は——逃さない。何も」
桜が散り始めている。四月の終わり。花びらが風に舞う。
ミラの髪に花びらがついた。取ってやった。指が髪に触れた。冷たい。
「……ありがと」
「いいよ」
歩き始めた。並んで。手は繋がない。——まだ。
でも、帰り道は同じだ。




