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俺の日常、干渉されすぎ。  作者: 江戸川竜也


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第26話「体育祭本番(後編)」

 午後。最終種目。リレー。

 赤組のアンカー。俺だ。

 バトンが回ってくるのを待っている。第一走者が飛び出した。二番手に渡る。三番手。四番手——速い。赤組がトップだ。

 ——空に違和感。

 見上げる。雲はない。青い空。五月の太陽。

 黒い点が三つ。

【敵機接近。ドローン3機。距離400m。推定到達時間:60秒】

「ここでかよ!!」

 体育祭の最中。グラウンドの上。何百人もの生徒と保護者がいる。認識フィールドが展開されれば一般人には見えなくなるが——走っている最中に戦闘をしろというのか。

【認識フィールドは自動展開されます。非観測者からは「通常のリレー」として認識されます】

「走りながら撃墜しろって?」

【推奨します】

「無茶言うな!」

 バトンが近づいてくる。六番手が走っている。七番手に渡る。あと二人で俺の番だ。

 空のドローンが降下を始めた。グラウンドに向かって。

 八番手がバトンを受け取った。走る。

 ドローンが三機、グラウンドの上空五十メートルに。光線の射程に入っている。

 九番手——俺の前の走者。バトンを受け取って走る。速い。——来る。

 バトンが差し出された。受け取る。走る。

 同時に——ドローンが光線を撃った。

 地面が抉れた。コースの横。砂が飛ぶ。——認識フィールドのおかげで、観客には「砂埃が舞った」程度にしか見えていない。

「走りながらって——こういうことかよ!」

 右手にエネルギーを溜める。走りながら。コーナーに入る。一機目が低空で近づいてくる。

 コーナーを曲がった瞬間——振り返りざまに右手を振る。エネルギーが飛ぶ。一機目に命中。撃墜。

 観客からは「すごいフォームだ」としか見えていないはずだ。たぶん。

 直線。二機目が上から急降下。光線が目の前の地面を焼く。ギリギリで横に跳ぶ——跳びながらコースを逸れない。リレーだ。レーンを守らないと失格だ。

「レーン守りながら避けろとか!!」

【推奨——】

「推奨すんな! やってるから!!」

 二機目が旋回する。もう一度来る。——左手シールド。走りながらシールドを展開する。光線を弾く。弾いた反動で体がブレる。足がもつれそうになる。踏ん張る。

 二機目が再度降下。今度は正面から。

 ——走る速度を上げた。AXIOMのブーストを全開にする。ドローンとの距離を一気に詰める。すれ違いざまに右手で殴る。二機目、撃墜。

 残り一機。三機目がグラウンドの反対側から来る。

 最終コーナー。ゴールが見える。白線。テープ。

 三機目が光線を溜めている。高出力。

「間に合え——!」

 走る。ゴールテープが近い。三機目が撃つ。光線が——

 ミラの銃声。

 観客席の端から。体操服のミラが銃を構えていた。三機目の光線砲を精密射撃で破壊。三機目がバランスを崩して上空に逸れた。

 ——ゴールテープを切った。

 一位。

 タイムは——たぶん全校記録だ。ドローンを避けながら走ったのに。AXIOMのブースト込みだが。

 クラスメイトが殺到した。

「岐堂すげえ!」「一位だ!」「フォームやばかった!」「途中で回転してなかった?」

 回転は一機目を撃墜した時だ。認識フィールド越しだと派手なフォームに見えたらしい。

 ミラが駆け寄ってきた。

「大丈夫?」

「大丈夫。——ミラのおかげで」

「三機目、危なかった」

「ありがと。助かった」

 明日香が手を振っている。応援席から。

「岐堂くーん! 一位おめでとう!」

「ありがとー!」

 黒瀬が背後から肩を叩いた。

「かっこよかったよ! 走りながら殴るの、今度教えて」

「教えられるような技術じゃない……」

 神崎が——拍手していた。観客席から。穏やかな拍手。

 ——拍手のリズムが妙に一定だ。計測している。拍手しながらデータを取っている。

「一位ですか。悪くない。——でもドローン混じりの記録ですからね。純粋な実力とは言えません」

 AXIOMが翻訳した。もう翻訳しなくていいのに。

「素直に褒めろよ!」

 ——声が届くはずがないのに、神崎がにっこり笑った。読唇術は双方向だ。

「褒めてますよ? 『悪くない』は私の中ではかなりの高評価です」

 全員に囲まれている。クラスメイト。ミラ。明日香。黒瀬。遠くに神崎。グラウンドのどこかに律がいるはずだが——見えない。

「……青春だな」

【心拍数の変動が複雑すぎて分析不能です】

「お前もか」


 閉会式の後。教室で打ち上げ。

 お菓子とジュース。黒板に「赤組優勝!」と書いてある。クラスメイトが騒いでいる。

 席に座っていた。疲れた。ドローンを撃墜しながらリレーを走ったのだから当然だ。全身が怠い。

「岐堂くん」

 明日香がジュースを持ってきた。紙パックのオレンジジュース。

「お疲れ様。——かっこよかったよ」

「……ありがと」

 ジュースを受け取る。指先が触れた。明日香の手が温かい。

「リレー、すごかったね。途中で回転してたの、何あれ?」

「あー……気合が入りすぎて」

「ふふ、岐堂くんらしい」

 明日香が笑った。教室の窓から夕陽が差し込んでいる。明日香の髪が橙色に光っている。笑顔が眩しい。

「……明日香」

「ん?」

「ありがと。応援してくれて」

「当たり前だよ。——私、岐堂くんのこと、いつも応援してるから」

「…………」

「いつも」

 明日香の声が少しだけ低くなった。「いつも」に力がこもった。

 ——遠くから視線を感じた。

 ミラだ。教室の隅に立っている。ジュースのパックを持っている。紙パックを——強く握っている。中身が溢れそうなくらい。

 ミラの視線が明日香に向いている。明日香に、というより——明日香と俺の距離に向いている。

 ——嫉妬。ミラの嫉妬は声に出ない。態度に出ない。ジュースのパックに出る。

「……ミラ、パック潰れてるぞ」

「……潰れてない」

「潰れてる」

「……少しだけ」

 少しだけ潰れている。少しだけ嫉妬している。少しだけ——可愛い。

 思ったことは口にしない。学習済み。

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