第1話「なんで俺こんなことしてんの」
はじめまして、江戸川竜也です。
なろう初投稿です。右も左も分かりません。よろしくお願いします。
「ギャグ多めのSFラブコメが読みたいな」と思って本棚を漁ったら見つからなかったので、じゃあ自分で書くかと。動機としては以上です。シンプル。
本作『俺の日常、干渉されすぎ。』は、SF×ハーレムラブコメです。
未来から来た無表情ヒロインとか、心拍数を逐一報告してくるAIとか、殴り合いが好きな女の子とか、性格の悪い美人とか、色々出てきます。主人公は基本ツッコミ担当です。かわいそうに。
トーンはギャグ9:シリアス1くらい。たまにシリアスもやりますが、基本はうるさいです。
感想・ブックマーク・評価、何でも嬉しいです。
「ここ好き」でも「ここ違くない?」でも、反応もらえるとガソリンになります。
それでは、第1話からどうぞ。
視界に文字が浮かんでいる。
黒い背景に白い明朝体。まるで安っぽいホラーゲームのUIみたいだ。
【敵残存:6】
「なんで俺こんなことしてんの!?」
岐堂選、十六歳。高校一年。趣味は散歩とゲーム。特技はない。偏差値50を擬人化したら俺になる。そんな人間が今、駅前のロータリーで空飛ぶ金属の塊に囲まれている。人生何があるか分からない。
叫んだところで誰も答えない。四月の夕暮れ、駅前のロータリー。本来なら帰宅途中のサラリーマンと買い物帰りの主婦で溢れているはずの空間に——人っ子ひとりいない。
いや、正確には「いないように見えている」らしい。
頭上を黒い影が横切る。
ドローン。六機。音がしない。
プロペラで飛ぶタイプじゃない。何の原理で浮いてるのか知らないが、とにかく宙に浮かんでいる金属の塊が六つ、俺の頭上でゆっくりと円を描いている。鳥が獲物を狙うみたいに。
「静かすぎない!? もっとブンブン言えよ!」
【敵に音声機能はありません】
「ツッコミだよ!」
視界の端で文字がスクロールする。この文字列——AXIOMと名乗る何かが勝手に表示しているものだが、消し方が分からない。というか、こいつの存在自体がよく分からない。
分かっていることは三つだけ。
一、俺の手に嵌められた黒いグローブから何かが出る。
二、そのグローブが勝手に俺の体を動かすことがある。
三、そして今まさに、勝手に動かされている真っ最中である。
ドローンの一機が降下してきた。先端から光が集束する。
体が横に跳ぶ。自分の意志じゃない。地面を光線が薙ぎ、アスファルトが抉れる。熱い風が頬を撫でた。
「俺が避けたんじゃないよな今の」
【私が回避しました】
「俺の体なんだけ!?」
【効率的です】
「効率の問題じゃない! 同意の問題!」
【敵の攻撃間隔は約2.3秒です。同意を取る時間的余裕はありません】
「正論で殴るな!」
二機目が背後から突っ込んでくる。振り向く暇もなく、体が横に回転する。遠心力で右腕が振られて——拳がドローンの側面に直撃した。
金属が凹む感触が拳に伝わる。痛い。めちゃくちゃ痛い。
「いっっっ——!」
【命中。一機撃墜】
「痛いんだけど!!」
【損傷:軽微】
「軽微じゃない! 今絶対指にヒビ入った!」
【入ってません。私が衝撃を分散しました】
「してなかったらどうなってた」
【骨折です】
「怖いこと言うな!!」
三機目。上から光線。転がって避ける。自分の意志で転がった——いや違う。半分AXIOMが動かした。半分自分。どっちがどっちか分からなくなってきた。
四機目を蹴り上げる。空中で火花を散らして墜落する。残骸がロータリーの花壇に突っ込んで、チューリップが何本か犠牲になった。入学シーズンに合わせて植えたやつだろうに。合掌。
「……あれ、今のは俺が蹴った?」
【半分あなた、半分私です】
「共同作業って言えよ」
【共同作業です】
「嬉しくない共同作業だな!」
気づけば体が戦い方を覚え始めている。正確には、AXIOMが体に最適な動きを教え込んでいる。勝手に。許可なく。俺の筋肉を使って、俺の骨格に合った動作パターンを構築している。
「楽しくなりかけた自分が怖い」
【適応は良好です】
「褒めてんじゃねえよ!」
五機目と六機目が左右から挟み撃ちにしてきた。同時に光線を放つ。
体が沈む。光線が頭上で交差する。両手を左右に突き出す。グローブからエネルギーが——とでも言えばいいのか——何か光るやつが放出されて、二機同時に吹き飛ばした。
静寂。
六機全滅。
息が荒い。手が震えてる。全部AXIOMが動かしたくせに、体への負担は全部俺に来るらしい。ブラックの中のブラック。労働者の権利はどこに行った。
【全機撃墜。損傷:なし。戦闘時間:38秒】
「38秒……」
人生で一番長い38秒だった。
——ふざけてる場合じゃない。ふざけてないと正気を保てないだけだ。
世界が軋む。
そうとしか表現できない現象が起きた。空間にノイズが走る。テレビの砂嵐みたいなものが視界の端でちらつく。壊れたロータリーが、花壇が——巻き戻すように元に戻っていく。
チューリップが咲き直す。アスファルトの亀裂が消える。
5秒もかからなかった。
何事もなかったかのように、駅前ロータリーは日常を取り戻した。帰宅途中のサラリーマンが歩いている。買い物袋を提げた主婦が横断歩道を渡っている。誰も、何も覚えていない。
俺だけが覚えている。
俺だけが、息を切らしている。
——足音。
振り向く前に、声が聞こえた。
「大丈夫?」
走ってくる少女がいた。
黒い髪。白い肌。制服じゃない、見慣れない服装。——ミラだ。
顔を覗き込まれる。近い。
「大丈夫じゃ——近い近い近い」
少女は構わず、額に手を当ててきた。
冷たい。指先が、氷みたいに冷たい。
「熱はない」
「ちょっ、顔近——」
【心拍数が上昇しています。原因:前方個体との距離減少。現在8cm】
「距離まで測るなァ!!」
少女がわずかに首を傾げた。何のことか分からない、という顔。そりゃそうだ。AXIOMの表示は俺にしか見えない。
「……怪我は」
「ない、と思う。たぶん。体が勝手に動いてたから」
「そう」
短い返事。感情が読めない。無表情というより、表情の出し方を知らないような顔。
膝から力が抜けた。
「……あ、やば」
崩れる体を、少女が支えた。細い腕なのに、しっかりしている。肩を貸すように体を寄せてくる。
「座って」
「いや、大丈夫——」
「座って」
有無を言わさぬ声。大丈夫じゃないのは自分でも分かっていたので、素直にベンチに座った。さっき折れ曲がっていたのが嘘みたいに、何事もないベンチ。
少女が隣に座る。近い。パーソナルスペースの概念が希薄すぎる。
意識が霞む。
限界だ。体力じゃなくて、脳が処理を拒否してる。ドローンに襲われて、体を乗っ取られて、世界が勝手に直って——
多い。情報が多すぎる。
「寝ていい」
少女の声が、やけに遠くに聞こえた。
「まだ聞きたいことが——」
「起きたら話す」
「約束——」
「約束」
短い返事。でも、嘘じゃない気がした。根拠はない。直感だけ。
視界が暗くなっていく。
最後に見えたのは、少女の無表情な顔だった。
——でも、無表情のはずなのに。
どこか、安心した顔にも見えた。
気のせいかもしれない。
目が覚めて、最初に思ったことは「ベンチ硬い」だった。
体を起こす。首が痛い。全身が痛い。二日酔いってこんな感じなのかもしれない。酒飲んだことないけど。
少女はいなかった。
代わりに、膝の上に薄手のジャケットが掛けられていた。知らない素材。肌触りが良い。微かに、知らない匂い。
空を見上げる。
星が出ている。何時だよ。スマホを見る。午後八時。三時間近く寝てたのか。
「……」
手を見る。
黒いグローブは、まだ嵌まっている。外せるけど通知地獄が始まるから外さないだけだ。着けたのは今日なのに、もう一生分の仕事をした気がする。
【体調の回復を確認。損傷:軽微。推奨:帰宅および睡眠】
「……」
【返答がありません】
「聞こえてる」
立ち上がる。足元がまだふらつく。
歩き出す。家に帰ろう。明日も学校だ。こんな生活がいつまで続くのか分からないが、日常は止まってくれない。
——始まったばかりの、はずだった。
夜風が冷たい。
四月の風。桜はもう散り始めている。
【記録します。本日の戦闘記録を——】
「……記録すんな」
【記録しました】
「聞けよ」
誰もいない夜道を歩きながら、俺は考える。
考えるというか、ぼんやりと、思い出す。
入学式の朝。桜。新しい制服。
あの時はまだ、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
全部が変わったのは——あの日からだ。
——あの日から、全ては始まった。入学式の朝から。




