第2話 守護天使の力
「……というわけで、さっきの基地局周辺に戻って、私のヘイローを探すのですぅ!」
「いや、夜中に道端を這いつくばって輪っかを探すとか、不審者そのものだろ」
俺は背後にぴったりと張り付いて歩くフワロを無視できず、仕方なく基地局周辺のコンビニへと立ち寄っていた。 店員には彼女の姿は見えない。 だから、フワロが空中に浮いて棚のポテチを物色していても、不気味な心霊現象にしか見えないはずだ。俺はあえて彼女から目を逸らし、レジへと向かう。
その時だった。
「動くな! 金を出せッ!」
自動ドアが勢いよく開き、フルフェイスの男が飛び込んできた。その手には、ぎらりと光る牛刀。 パニックになる店内で、男は真っ先にレジ前にいた俺へ包丁を突き出してきた。
「おい、そこをどけッ!」
「……っ!」
男が狂乱気味に包丁を突き出してくる。避けられない。咄嗟に身を固くした俺の視界を、眩い純白が遮った。
「危ないですぅ、藤木さんっ!」
鈍い音が響いた。フワロが、俺の前に割って入っていたのだ。 男が振り下ろした刃を、その身に受けて。
「……え?」
フワロの胸から光の粒子が溢れ出す。彼女はそのまま力なく、床へと倒れ込んだ。 嘘だろ。出会ったばかりのアホな天使が、俺を庇って――。
「おい……フワロ! しっかりしろ! なんで俺なんか……!」
「……ふ、藤木……さん……泣かないで……。私、同名カードはデッキに3枚まで積み込める仕様なんですぅ……。今のが1枚目なので、あと2枚残ってますから大丈夫ですぅ……にへっ」
「…………はあ?」
フワロが満足げな笑みを浮かべた直後、その体は光の粒になって霧散した。 呆然とする俺の背後から「ふぇええ、刺されるのって結構痛いんですねぇ!」と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
そこには、傷一つない全く同じ姿をしたフワロが立っていた。
「……お前、生きてるのか?」
「はいっ!」
「いや……良かったんだけどさ!……せっかくの感動を返せ!」
男からすれば、俺が誰もいない空間に向かって絶叫しているように見えただろう。
「な、なんだお前……気色が悪いっ!」
逆上した男が再び襲いかかる。だが、フワロが「ひゃいっ!」と短く悲鳴を上げて転倒。彼女の(人には見えない)羽が男の足に絡まり、男は勝手に何もないところで躓いて、顔面から床に突っ込んだ。
「あだっ!? なんだ、急に足が……っ!?」
男の懐から、ポロリと何かが転がり落ちた。 それは、淡い光を放つ「折れた金色の輪っかの半分」だった。男が包丁を振り回していた時の異常な力強さは、どうやらこれに当てられていたせいらしい。
「ああっ! 私のヘイローの半分ですぅ! なんでこの人がぁ!」
「……そういえばお前、基地局に行く前に『仕事で人間を一人助けた』って言ってただろ。その時落としたのを、こいつが現場で拾ったんじゃないのか?」
フワロは自分のヘイローを拾い上げると「よかったぁ」と頬ずりしている。 だが俺はと言えば、警察への通報を終えてもなお、冷や汗が止まらなかった。
さっきの強盗のあの異常なまでの力。 もし残りの半分がもっと性質の悪い奴の手に渡ったらどうなる?
(……さっさと残りの半分も回収しないとマズいな)
夜の住宅街、遠くでパトカーのサイレンが鳴り響く中、俺は「ヘイロー探し」という名の厄介すぎる任務の重さに頭を抱えていた。




