第1話「最初の読者」
2025年3月15日。
俺はその日、小説を書き始めた。
──というか、“小説を初めて外に出した”日だった。
それまで書いてきたのは、誰にも見せないノートの文章だけ。
学校にも職場にも創作仲間はいなくて、自分だけの世界で書いていた。
だから、初めてWeb小説サイトにアップロードした時は手が震えてた。
あの「投稿する」ボタンを押すまで、マウスに指が何度も止まった。
押してからも、1分ごとにPVを見に行った。
1。
2。
3。
──たった1ずつ増える数字に、何度も飛び跳ねて喜んだ。
「読んでくれた人がいる」
「この世界に、誰かが来てくれた」
そう思えただけで、胸がいっぱいだった。
でも──その浮かれた気持ちは、すぐに折られる。
最初に届いたコメントは、こうだった。
主人公、暗すぎませんか?
……それだけの短い一文だった。
それでも、俺は真っ青になった。
あ、やばい。
このままじゃこの人、読まなくなる。
この人が言うなら、きっと他の人もそう思ってる。
そんな焦りが、心を支配した。
“今の方向性じゃダメだ”
“明るくしないと”
“この人の言う通りに直さないと”
そう思って、書く内容を変え始めた。
展開を軽くした。主人公の性格も変えた。
キャラ同士の会話も、コメディ寄りに修正していった。
でも……書けなくなった。
厳密に言えば、「書こうとしても、心が動かなくなった」。
自分の物語なのに、自分がいない。
自分が一番好きだったキャラが、どんどん別人になっていく。
ページを開くたびに、胸がモヤモヤして、指が止まった。
『この先、どうしたい?』って問いに、自分で答えられなかった。
そのまま、少しずつ更新間隔が空いて──
ある日、ふと気づいた。
あれ? サイトを開いてない。
文章を考えてない。
……俺、もう辞めてるじゃん。
たった一言のコメントで、全部が壊れた。
いや──
コメントのせいじゃない。
書く理由を見失った自分のせいだ。
……そのことを、ちゃんと認めようと思った。
この文章は、誰かのためじゃない。
自分のために書いている。
心が折れた話を、忘れないために。
自分の気持ちを、もう一度言葉にするために。
一度、逃げた俺が。
また、書いてみようとしてる。
その記録を、ここに残していく。
作者の連載作品紹介
『才能奪って成り上がる!無職の俺がヒロイン達と社会を支配するまで』
(作者:pyoco)
https://ncode.syosetu.com/n4091kh/
無職、スキルなし、人生詰みかけ──だった男が手に入れたのは、悪人から“才能”を奪うチートスキル。
詐欺師の話術、ヤクザの威圧、裏社会の技術まで、自分のものにできる最強スキルで成り上がる……はずが、なぜかヒロインたちが全員やばい。
気づけば会社は修羅場、日常は爆発、毎日が“ヒロイン対応”業務!?
社会の裏で成り上がる系 × ヒロイン全員トラブルメーカー
チート × ギャグ × 地獄の恋愛バトル(?)
コメント返信はヒロイン本人が行う“没入型スタイル”