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第8話 毒魔法


「いきます——〈毒霧〉!」


 レイドリアが手を前に翳すと、青紫の霧が発生し、辺りを覆った。


「すごいすごい! ずいぶん練度が上がったんじゃない?」


 そんな光景を見て、重厚なガスマスクを装着したウィスプが言った。


「その実感はあります。今なら、ちょっとしたテロを起こせるでしょうね」


「またそんな縁起でもないことを……」


 やれやれといった仕草を作ったウィスプ。


 レイドリアは現在十三歳。いよいよ二ヶ月後に迫ったオルト学院の入学試験に向けて——というわけではないが、とにかくいつものように魔法の特訓をしていた。


 レイドリアの魔法属性は聖、闇、氷、毒の四種類だが、いろいろと吟味し、ウィスプやヴィアーヌとも相談に相談を重ねた結果、毒属性をメインに据えて実践を重ねることにした。

 その属性に適性があるとは言っても、その全てが同等の才能であるとは限らない。レイドリアの場合は、四つの中でも毒属性に適性があった。ちなみに毒、闇、聖、氷の順で適性が強かった。


「じゃあ『あれ』、やりますよ。先生」


「えぇーっ! やだやだ、あれは私がいない時にしてよ!」


「だめです。ちゃんと見てください。いきますよ」


 今からレイドリアがやろうとしているのは、最近習得したばかりの魔法だ。


「〈召喚・爆腐蛙〉」


 レイドリアが唱えると、地面に禍々しい魔法陣が映し出され、そこから奇妙なカエルが姿を現した。

 無数のイボ、毒々しい色。二十センチくらいはあろうかという大きなカエルは、図々しく地面に鎮座していた。


「うげー、やっぱきもいよ、これ」


 顔を顰めるウィスプ。


「無駄口叩いてないで、ちゃんとシールド張ってください。また皮膚が溶けても知りませんよ」


「まったく……はいはい」


 ウィスプは詠唱することもなく、透明の膜に自分を覆わせた。


「そろそろです」


 レイドリアがそう言うのと同時に、カエルは徐々に膨れ上がっていき——


「ゲェッ!」


 カエルの断末魔と控えめな破裂音が鼓膜を揺らす。

 カエルが内側からの圧に耐えきれず爆裂したのだ。辺りにはカエルの体液が大量に飛び散る。言うまでもないが、これは猛毒だ。


「どうですか、先生」


「良い感じなんじゃない? 飛び散る毒の量も多くなってきてるし……あとはカエル本体を更に大きくすることと……爆裂の時間を操れるようになることね」


 打って変わって、ウィスプが真剣な表情で語った。

 こういう一面があるから、レイドリアはウィスプを好ましく思っているし、尊敬している。


「……やはり、現状では爆裂の時間を指定できないのが欠点ですね……それに、毒の効果も確認してみたいです」


「うーん……それはしばらく我慢ね。毒を試すために豚を使いすぎて、さすがにセーブしろってヴィアーヌ様からも言われたわ」


 やはりか、とレイドリアは思った。

 毒魔法を本格的に使えるようになってからというもの、魔法を試したいと家畜の豚を貰いまくっていた。

 しかも毒魔法を使って殺した豚は食べることができないので、そのまま処分するしかない。


(食べられさえすれば、使い放題なんだけどなぁ)


「やっぱり迷宮に行くのが一番なんだけどねぇ」


 魔物が闊歩し、宝が眠るダンジョン『迷宮』。

 貴族の子は大事に育てられるため、基本的には学院に入るまでは実戦は行わない。レイドリアもその例に漏れないが、レイドリア自身は実戦を強く望んでいた。


「父上に掛け合ってもらえませんか、先生」


 つぶらな瞳をウィスプに向けるレイドリア。内面はともかく、美形であることに間違いがないレイドリアの瞳は、ウィスプには効果覿面だった。


「……わかった。期待はしないでね」


「ありがとうございます!」


 レイドリアは満面の笑みを作ってウィスプに見せた。

 それが明確に意図されたものだとわかっているからこそ、ウィスプは自分のレイドリアに対する甘さに苦笑を浮かべた。


「じゃ、今日の授業は終わり! ちゃんと綺麗にして戻ってきてね」


 ウィスプはガスマスクをしたまま、実技室を去った。


「ありがとうございましたぁー!」


 去っていくウィスプに届くように、レイドリアは大きな声で礼を言い、最後に〈清毒〉の魔法を地面に吹きかけた。

 猛毒を発生させる者の責任として、それを封じる術も有しているのだった。





「おはよーございます、先生」


 次の日も、魔法実技の授業があった。


「ゴホン。レイドリアくん。早く座りたまえ」


「?……なんでしょう?」


「昨日の件です。迷宮で訓練を行えるよう、ヴィアーヌ様に掛け合ってみるという」


「あぁ! もうお話ししてくれたんですか!?」


「その通り。私とヴィアーヌ様の、長い長い、それは長い交渉の結果——許可、おりました!」


「おぉーっ!! さっすが! 仕事が早い! 美人! 魔法もすごーいっ!」


 レイドリアは本気でテンションが上がっていた。別にサイコパスでも戦闘狂でもない(つもり)のだが、常に致死性が伴う毒魔法を存分に使える環境に身を置けるのは単純に嬉しかった。


「決行は四日後。ヴィアーヌ領にあるダズフェル迷宮です。知ってますね?」


「もちろんです。ですけど、リヴェラ迷宮ではないんですね」


 ヴィアーヌ領で一番大きな迷宮と言えば『リヴェラ迷宮』である。これは王国全土に目を向けても有数の規模を誇る。


「それがヴィアーヌ様の条件ね。あそこはどうにも人が多すぎるから。いろんなリスクを考慮して、だってさ」


「なるほど。それなら納得ですね。魔物と会う前に人間と争いになったら洒落になりませんし。でも大丈夫ですか? リヴェラよりも数段難易度が上がると思うんですが……」


 リヴェラ迷宮といえば、初心者御用達の比較的安全な迷宮だ。正直レイドリアは、迷宮に行けるならばここだろうと思っていた。

 対するダズフェルは、少々クセの強い迷宮で、地形は変化するし、メインの魔物もゴブリンやオークの類ではなく、蛇や蟲といった陰湿な魔物が多い。


「大丈夫。低層しか探索しないし、何より私がいる」


 自信満々なウィスプの態度は実力に裏付けられていると知っているレイドリアは、その言葉に安堵し、思う存分楽しむ覚悟を決めた。


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