第7話 双子
突然だが、レイドリアには双子の妹と弟がいる。
二つ年下で、現在は八歳。
この日は、妹——ミアと、弟——ヨークの魔力量と魔法属性の測定の日だった。
レイドリアも次期伯爵ということで、両親とハカンと共にそれを見守る運びとなっていた。
ミアもヨークも、贔屓目なしで見ても、良くできた子だと、レイドリアは思っている。
一卵性ということもあり、男女の違いはあれど、顔立ちはそっくりだった。弟のヨークは、ときどき女に間違われる。
それに、この二人は『悪徳貴族ムーブ』をする必要がないので、このままいけば、学院では大人気間違いなしだろう。
「ミア。水晶に手を翳しなさい」
まずは姉であるミアからだ。
父に言われるがままに、ミアは手を水晶に伸ばした。
映し出される数字は、レイドリアからはよく見えなかった。
だが、間も無く父が口にしてくれるはずだった。
「魔力量……9800……」
「きっ!」
思わず声が出た。
9800といえば、吟遊詩人が語り継ぐかの大賢者に匹敵するレベルの魔力量だ。
おそらく、今の王国では一番だろう。
「つ、次に魔法属性は……」
さすがのヴィアーヌも狼狽した様子で、しかし予定通りにことを進める。
「聖……のみだ」
(魔力量9800で、一属性……?)
これは、常識からはかけ離れた結果だ。
魔力量が多ければ多いほど、魔法属性も多く持つことが多い。実際、かの大賢者は六つの魔法属性を有していた。
「次にヨーク。前へ」
言いたいことはいろいろあったが、今は円滑に儀式を進めるのが先決だと判断したヴィアーヌは、ヨークを前に出させた。
「では、手を翳しなさい」
ヨークはゆっくりと手を水晶に近づける。
「魔力量……1940」
その声に落胆の色があったことを、誰が責められるだろうか。
1940。これはオルト学院入学のボーダーラインの辺りであり、レイドリアやミアと比べるとかなり劣る。
「魔法属性は……なんだと?」
ヴィアーヌはそんな声を上げた。
「……闇、呪、毒、土、影、そして……血、だと?」
「六つ、ですか……!?」
これはハカンの声だった。
「六つだ。ヨークの魔法属性は、六つ!」
これもまた、魔法の常識に反していた。
魔力量が少ない者は、魔法属性も少ない。一般的に見れば魔力量2000というのはかなり多い方で、複数の属性を有していても不思議ではない。相場は二つ、一つや三つの可能性もある、というところだろう。
歪な双子だと、レイドリアは他人事のように(実際他人事ではあるのだが)思った。
(……さすがにこの結果は異様だけど……何か理由があるのか? あるとしたら一体?)
レイドリアは、二人のこれからや、それによって自分がどう影響を受けるかなどを考えることもなく、ただ知的好奇心を満たすための思案に浸っていた。
ヴィアーヌが一言二言告げてその場は解散となったが、レイドリアの意識にその言葉は届かなかった。
*
両親ははいつものように仕事があるということで、その後の昼食は兄弟三人でとることになった。
「兄様、これは一体、どういうことなのでしょうか」
料理が一通り運ばれ、メイドも部屋から退室したのを確認して、ヨークがレイドリアに問いかけた。
ヨークの言う『これ』とは言うまでもなく、先ほどの測定のことだ。さすがに、たまたまこういった結果になったとは考えづらい。
「あぁ。俺も気になっていろいろと文献を漁ってみたよ。そしたら、面白いのが出てきた」
レイドリアは測定が終わってから昼食までの三時間ほどの間に、屋敷の書庫を漁り、目当てのものがないとわかってさらに街の図書館へと赴いていた。
「これは特別に持ち出しを許可してもらえたんだ」
そう言うと、レイドリアは机の上に本を広げた。
「ここに面白いことが書いてある。これはどうやら十二年前の研究らしいんだけど、一卵性の双子は、魔法の才を分かつことがあるらしいんだ」
「才を分かつ……ですか」
ミアの声だ。
「そうだ。これはちょっと宗教色の強い話になるんだけど、この研究をした学者は、双子——特に一卵性の双子は、二人でひとつであるという教えを信じていたみたいでね。双子は、与えられた才能を二人で分け合うと考えていたんだ」
「なるほど……」
今度はヨークの控えめな声。
「結果として、それは正しかった。そういう例が幾つか確認されているらしい。この文献が全て正しいとは言わないけど、現状はこの説明がしっくりくる」
「そうですね……だとしたら、このような歪な測定結果にも納得です」
「あぁ。お前らの場合、魔力量は二人で12000。魔法属性は二人で七つ。そう決められていた。それがどう振り分けられるのかは神のみぞ知るところだが、とにかく、ミアの魔力量は10000、ヨークは2000。魔法属性はミアが一つでヨークが六つ。これで、辻褄が合う」
「……さすがですね、兄様。こんな短時間で答えに辿り着くとは」
ヨークの言葉が決して世辞ではないとは、この場の三人にはわかったが、他人が聞けば酷く淡白に聞こえただろう。
「いや、まだこれが正しいと決まったわけじゃない。俺もまた、いろいろと調べてみるよ」
「ありがとうございます! 兄様」
「そうそう、伝えたいのはこれだけじゃない。この文献の最後を見てくれ」
「最後……ですか?」
「そうだ。この文献の著者は、この現象を踏まえて、こう結論づけている——『すなわち、双子とは二人いてこそ真価を発揮するのであり、一人だけの歪な強さでは、高みには辿り着けないだろう』——つまり、双子は仲良くすべし、ってことだ」
レイドリアの言葉を聞いて、二人は互いに顔を見合わせ、控えめな笑みを送り合った。
今のところ、兄弟——双子仲は、良好そうであった。