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第3話 天賦の才


 悪徳学が始まるのと同時に、また別の授業もスタートした。それが、魔法実技である。


 これまでも魔法の授業はあったが、それはあくまでも座学の範囲で、実際に魔法を使ったことはない。

 そもそも、王国の法律により、保有魔力量の測定や、魔法属性の検査は8歳になるまで禁止されている。幼い人体には少々危険な測定となるからだ。

 まずはそこから始めなくてはならない。


 この日、レイドリアは謁見の間に呼ばれていた。目の前には魔力量と魔法属性を測る水晶。


「では、前に出よ。レイドリア」


 父、母、そしてハカンが見守る中、レイドリアは水晶の前に立つ。


「手を翳しなさい」


 言われた通り、レイドリアは水晶に手を翳す。

 水晶はまず、数字を浮かび上がらせる。


「5970」


 数字を、ヴィアーヌが読み上げる。


 それと同時に、母から歓声が上がった。


 魔力量は、そのほとんどが先天的なもので、才能に依存する。後天的な努力で多少多くなることはあるが、劇的な変化というのは望めない。魔法とは、そもそもが才能ある者のみが使える技能である。


 そして、レイドリアの5970という数字。

 一言で言えば、これは天才的なものである。


 一般人で500〜800、王立オルト学院に魔法師として入学を許されるボーダーラインが2000、4000あれば首席クラス、冒険者ランクS級の魔法師で5000。特級なら7000。歴史に残る大賢者の魔力量がおおよそ10000であるとされている、というところだ。

 魔力量は血統が大いに関係する。貴族の子の魔力量は比較的多いのが当然。しかしそれを考慮しても、6000近い魔力量となると稀だ。レイドリアは、5〜10年に一人という逸材に違いなかった。


 ヴィアーヌは満足そうに、そして安堵したような笑みを浮かべた。


 魔力量がわかれば、次は魔法属性だ。

 

 魔法には属性がある。

 火、水、風、土の四大元素を基本として、それぞれ様々な属性に派生する。

 

 六割の者は四大元素の適性を持ち、三割の者は氷、雷などをはじめとする四大元素から派生した属性を持つ。

 そして残りの一割の内の80%が無属性、そして20%——つまり全体の0.2%ほどが『特異魔法』と呼ばれる例外的な属性の魔法を使える。


 そして魔法属性は一人にひとつとは限らない。大抵はひとつだが、二つで魔法の才があり、三つで天才と呼ぶに相応しく、四つで鬼才、五つで伝説、六つあればかの大賢者にも匹敵する。

 あえて割合を示すなら、80%の者はひとつ、19%の者が二つ、三つとなると0.8%、四つは0.2%。五つや六つというのは極めて稀で国に一人いれば良い方であり、0.1%にも満たない。


 水晶は、レイドリアの魔法属性を色で表す。


「これは……!」


 ヴィアーヌが驚きの声を上げる。


「氷、聖、闇! そしてこれは、毒……か?」


「そのようですな」


 自信なさげに言ったヴィアーヌの言葉をハカンが肯定する。


「四つ! レイドリアの魔法属性は、氷、聖、闇、毒の四つだ!」


 神童。そう言って差し支えなかった。


 四つ全てが派生した属性。基本属性を一つも有さないというのも非常に珍しい。


「素晴らしい……だが、強すぎるというのも考えものだな……レイドリア、しばらくは自分の実力を隠しておきなさい。でなければ、『侮られる』ことはできん」


「はい。父上」


 レイドリアは、これに異論はなかった。自分の実力を誇示したい、というこの年齢の子どもが持つべき欲求は、レイドリアにはほとんどなかった。

 如何にして悪徳貴族となり、領民を導くか。ここ数日のレイドリアはそればかり考えていた。8歳にして、レイドリアの精神は『ヴィアーヌ家仕様』に出来上がっていた。


 最後にヴィアーヌから『精進しなさい』という言葉をかけられ、この場は解散となった。





 それから二時間ほどの休息を経て、本格的に魔法実技の授業がスタートした。

 ついに魔法が使える、と胸を躍らせたレイドリアだっだが、そう上手くはいかず。いつも通り教場で椅子についていた。


「驚きました。レイドリア様。まさか四つの魔法属性を持つとは」


 初めて会った女の家庭教師は、興奮気味にレイドリアに語りかけた。


「ありがとうございます?」


「おっと失礼。私の名前はウィスプ。王都の方でA級冒険者をやっていますが、伯爵直々のお願いということで、レイドリア様の家庭教師をお引き受けした次第です」


 語尾に音符がつきそうな口調で、黒髪の家庭教師は自己紹介をした。


「レイドリアです。よろしくお願いします」


「これはご丁寧にどうもっ。まずは安全に魔法実技を行うための座学をします。魔法は使いようによっては自らの身を滅ぼすことにもなり得ますので、ちゃんと聞いてくださいね」


「はい」


「さてさて。私もレイドリア様の属性を聞いてから頑張って調べてみたんだけど……」


 二時間の待ち時間は先生が調べ物をする時間だったのだなと、レイドリアは内心納得する。


「まずはメジャーなところから……氷属性について説明しますね。氷属性はその名の通り、氷を操る属性で、周囲を凍らせたり、氷そのものを飛ばして攻撃します。盾としても使えるし、汎用性の高い魔法属性です。魔力が暴発して自分を凍らせてしまうことがあるので、そこは注意ですね。しっかり魔力をコントロールする練習が必要です」


 レイドリアは言われたことをノートにつらつらと書き連ねる。


「次に聖ね。これもイメージしやすいでしょうけど、主な役割は回復ね。光系の攻撃魔法も一応使えるけど、メインは回復。リスクらしいリスクはほとんどない、便利な属性ね」


 敬語とタメ口の入り混じった口調をさしてきにすることもなく、レイドリアは相槌を打った。


「そして闇。これまたすごい属性。こっちは基本的に攻撃ね。吸収ドレイン系とかシャドウ系の魔法は闇属性に分類されるわ。練習を重ねれば即死魔法も使えるようになるでしょうけど……言うまでもなく、危険なものだから、魔力のコントロールはもちろん、感情もコントロールできるようにならなきゃいけないわ」


「最後に毒。毒は利便性の高い属性で、暗殺なんかにはもってこいだけど、レイドリア様に使う機会があるかと聞かれると……って感じね。ただ、シンプルに毒を生成できるから、剣や矢につけると強力な武器になるわ。注意点は明確で、自分が作った毒に侵されないように、ってことね。毒属性を持つからといって、毒に耐性ができるわけではないから」


 言い終わると、ふぅ、と息をついて、ウィスプは一仕事終えたと言わんばかりに茶を啜った。


「じゃ、行きましょうか!」


「へ? どこに?」


「外! 実技、始めましょう!」


 こんなに早く座学が終わるとは思わず、レイドリアは少々面食らったが、言われるがままにウィスプに外に連れ出された。


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