物は物として
<男は廊下を走り、1室の中に入って行った>
「姫様!」
<男が入ったのは、エルザルイ国第2王女、エルザルイ·マイラの部屋だった。
部屋の中には、ベッドの中で眠っているマイラと、2人の男性がたっていた>
「エライザ王、おはようございます」
「マティス、おはよう」
<エルザルイ·エライザ
エルザルイ国国王>
「父さんもおはよう」
「ああ、おはよう」
<カイラン·エルザ
エライザの右腕>
「マイラ姫の現状はどれだけ聞いた?」
「全部聞いたよ。
だから、竜山に今から行くつもりだよ」
<マイラの現状。
治りかけていた持病が悪化し、辛くならない為に、眠り薬を飲んで眠っている>
<竜山
冒険者ランクSでも、死亡確率が半分以上と言われている山。
竜山から帰って来た者は、奇跡と言われている。 ふもと~頂上には、A~Sランクの魔物が生息している。
そんな危険な山でも、生きて帰ってこれる人間は、数少ないが存在する>
「本当に行くんだな?」
「当たり前だろ?竜草が無いんだからよ」
<竜草
竜山の頂上に生えている草。
高級薬に必ず必要な草。
高い理由は、竜草のせいだとも言われている>
「そうかい、気を付けるだよ」
「分かってるよ」
<エライザは深く頭を下げた>
「マティス、ありがとう…本当にありがとう。
エルザに頼みたかったんだが、わしが居て竜山に行けなくて…」
「頭を上げてください、エライザ様。
俺は姫様の右腕です、姫様の為なら、なんでもするつもりですから。
それでは、行って参ります」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
<マティスは王城から竜山に向かった。
そして数時間後>
ドラゴン2匹居たな。
さて、このドラゴンの死体はどうするべきか…。
アイテムBOXに入るか?
一様アイテムBOXは空だが…。
<マティスは、アイテムBOXにドラゴンの死体を入れた。
2匹の死体を入れる事が出来たが、もうこれ以上は入らなくなった>
入ったはいいが…これ以上は入らないのか…。
まあ、念のために袋を持って来といてよかった。
竜草は取りに来れる人が少ないからな。
<竜草を取っている最中でも魔物は襲ってくる。
戦いながら採掘し数時間後>
やっと2袋が満タンになったわ。
さ…どうしようかな…こいつらの死体。
運べるわ運べるが…。
まあ、そのまんま放置するのも、命に失礼だしな…。
浮遊。
<Sランクの死体28匹。
Aランクの死体64匹。
計92匹の死体に、浮遊をかけた。
そのまんまエルザルイ国に向かうと…>
うわーやっぱり人集まってるんだよな…。
まあ、こんなに騒ぎになっていると…。
お!やっぱりギルド長来るよね。
てか…眠たそうに出てきてるけど…相変わらず生活習慣戻って無いんだな…。
<死体だけを下げず、ギルド長が立っている場所まで下がった>
「マティス!なにをやっているんだ!」
「なにをって?見れば分かるじゃん?」
「竜山に行ったのは分かるが…。
それで…あの死体らはどうするつもだ?」
「え?そんなの…ギルド長に任せた!」
「ふ…ふざけ」
はあ…しょうがない…。
姫様の為なんだ!
「お爺ちゃん…駄目?」
「孫の為だからな!任せろ!」
<孫からの上目遣いのお願いは、お爺ちゃんにとって効果抜群のようだ>
「ありがとう!お爺ちゃん!あ、あとこれ」
<ナイルに、竜草が満タンに入っている1袋を上げた。
浮遊を解除し城に向かった。
そして…浮遊が解除された事によって、空から魔物の死体が降り注ぐ>
はあ…地上に落とさないようにするのも大変なんだからな!
まあ、孫の頼みだから平均だぜ!
でも…寝起きな…。
だが…孫の頼み…。
う…今から魔物の解体か…。
なん徹する事になるんだろうか…。
てか…エルザから連絡来てたんだよな…。
<カイラン·ナイル
前エルザルイ王の右腕。
エライザが王になってから、ナイルはギルド長として働いている>
<マティスが城に入った時。
朝の城と今の城の、空気感が全然違うと感じる。
元気が無い人間と、元気がある人間に分かれている。
そして…マティスは嫌な事を思い付くだろう。
絶対に起きて欲しくない事を。
絶対に信じたく無い事を。
走り走り走り続け、マイラの部屋の扉を開ける…。
だが…マイラはそこに居なかった…。
居たのはただ1人…父親だった…。
「父さん…姫様は…?」
「亡くなった…」
<1番聞きたくなかった答え。
だが…信じる事が出来ない…。
信じたく無いから…。
現実を見たく無いから…。
マティスは…小さな光にすがる…。
小さな光に手を差し伸ばす…。
それは…父親が嘘を付いているという光>
「嘘…だよな?
部屋を変えただけだよな?」
「嘘じゃない…」
<すがるしかなかった小さな光。
手を差し伸ばすしかなかった小さな光。
だが…嘘の光は消え去る。
マティスから離れて行くように。
いや…元からその光は無かった…>
「会いに行くか?」
「いや…行かない…」
「そうか…。
聞くか?」
「いや…予想は付いてるよ…。
だけど安心して…」
<マティスは部屋を出る。
自分の部屋に向かった。
部屋の中に入ったマティスは、膝から崩れ落ちる>
俺は…姫様のなんなんだろうな…。
右腕?なにが右腕だ…。
右腕のくせに…右腕のくせに…なにも出来なかったじゃないか!
姫様様を守る事が出来なかったじゃないか!
俺は物なのに…主人を守れない物なんて!
俺…物失格だな…。
寝よう…忘れたい…。
<ベッドに向かった時。
机の上に眼が行った。
それは…今日から飲もうとしていた酒が置いてあった>
酒…。
あー…今日は朝から飲もうとしてたな…。
確か酒って…記憶を忘れさせてくれるんだっけ?
<マティスは酒を取る。
朝から放置していた酒を。
何時間放置されたか分からない酒を。
全てを飲んだマティスだが…>
あー…不味いな…酔いもしねーし…。
忘れさせてくれ…今日の事を…。
姫様の事を…。
物の事を…。
<冷蔵庫の中に入っている酒を取り出す。
何缶も何缶も一気飲みをした。
そのまんまん酔いに潰され眠る>
「マティス」
「姫様!」
<亡くなったはずの主の声。
眠りから目を覚ますが…そこには主が居ない。
そこに居たのは、いや…そこにあったのは。
神が地球という星を見に行き、こういうのがあったぞと職人に伝えた1つ、携帯からその声が聞こえた>
あー…電話か…。
姫様…この声を聞いていたい…。
電話になんか出たくない…。
姫様…姫様…。
<マティスの精神をえぐる。
電話から聞こえる主の声。
それは主であって主ではない。
余計に主本人の声を聞きたくなる。
だが…主はもうこの世に居ない>
聞いていたいはずなのに…。
聞きたくもない…。
余計に姫様を求めてしまう…。
姫様を感じたい…。
なのに…姫様は居ない…。
俺が…近くに居ないから…。
治ると油断して、薬の材料を持っていなかったから…。
俺のせいで姫様は死んだ…。
姫様を求めてはいけない…。
「なに?父さん」
「動けそうか?」
「動けるは動けるけど…なんで?」
「そうか。
なら、王室に来れるか?」
「分かった。
今から行く」
<電話が切れた時。
マティスはまたえぐられる。
そこには父親からの連絡が来ていた。
姫様が死んだ!早く戻って来い!と。
何件も何件も、早く戻って来い!という連絡の通知。
何件も何件も、電話の通知も表示されていた>
父さんが…連絡くれていた…。
早く戻って来るようにと…。
はは…俺がこれを持っていっていたら…。
もっと早く知れていた…。
助けれないのは知っている…だけど…。
俺は物なのに…!なんで…なんで…。
<マティスが携帯を持っていってれば、亡くなった主をみれた。
そこにいたはずの主を。
部屋で寝ていた主を。
主の最後を見ていないのは、物として失格の事。
マティスは携帯を机に置き、王室へと向かった>
あれ?ここは…ザイル様の部屋の方…。
王室通りすぎちゃったな…。
王室に向かわなきゃなのに…何故かザイル様の部屋に行きたい。
<エルザルイ·ザイル
マイラの兄>
<王室に向かうはずなのに、ザイルの部屋へと向かう。
何故ザイルの部屋に行きたくなったのか。
何故王室を通りすぎたのか。
マティスはなにも分からない、だが…何故か分からない気持ちに従う>
ザイル様達の声が聞こえる…。
あ…少し扉が空いているのか。
閉めておこう
<閉めようと手を差し伸ばした時>
「ザイル様、マティスの顔見れましたかい?」
「いや、見れてないが?」
「凄い絶望してたんですよ」
「そうか…俺も見たかったな…」
「自分のせいで、マイラが死んだと聞いたらどんな顔するんでしょうねぇ」
俺のせいで姫様が死んだ…?
父さんごめん…。
<マティスは録音機の電源を着けた。
そして…マティスにとっての地獄が始まる>
<マイラが殺された理由。
マイラは王になるつもりはなかったが、国民からの支持が高い。
だが、王に立候補していないので、別に関係無い事だった。
関係があるとするならば、マティスという右腕の存在だった。
マイラが国民からの支持が高い理由は、何年も国民の為に働いていたからだ。
病気に身体を蝕まれているのにだ。
だが、ザイルはマイラの逆の存在だった。
国民の為に働いた事は、自分に徳がある場合の時だけだった。
そして、何故マティスの存在が邪魔だったのかは…強すぎるせいだった。
数年立てば、国民の為の国としてではなく、ザイルの為の国に変わるからだ。
そして、その国を変わるのに邪魔なのがマティス。
マイラが王になると宣言すれば、国民達はマイラに投票する。
王として君臨し続ける為には、マイラを殺さないといけない。
だが…マイラの隣にはずっとマティスが居続ける。
マティスがいる限り、マイラを殺す事が出来ない。
だがら、自分の脅威になるマイラを今日殺したのだった。
マティスが強すぎなければ、マイラは生きて居たのだ。
ここまでの会話は全て聞いた…。
自分のせいで主が死んだという事を>
何分立ったんだろうな…いや…何時間か…?
俺のせいで姫様が死んだ…。
俺が強すぎるせいで死んだ…。
この力は…姫様を守る為に付けたのに…。
この力は…姫様が安全に暮らせる為に付けたのに…。
この力は…全て姫様の為に付けたのに…。
この力は…姫様を殺した…。
この力は…はは…姫様様を殺したんだ…最後は姫様の役にたて。
<録音機の電源を消し、扉を開けた。
中に居た人間達は、次に発言する言葉、次に思おうとしていた言葉が出ない。
それは…もうこの世に存在しないから。
ザイルの部屋は、十数人の血があちらこちらに飛び付いた>
ああ…呆気ない…。
この力か…この力のせいで…。
姫様…。
<顔を上に上げる。
涙がポロリポロリと落ちる。
物として失格の男が人間になる>
「俺は姫様の物となった!
なのに…物のくせに姫様を最後まで守れなかった!
俺の力は姫様の為にと付けた!
エルザルイ様に誓う前から!
エルザルイ様は知っていたんですか?数年後にはこうなると!
俺が姫様に誓う前から!
教えてください…エルザルイ様…。
俺は…なにをすれば正解だったんですか…?」
<神に聞いても返って来ない>
「俺は…物失格だ…。
姫様の為に…俺は色んな物を教わって来た…。
姫様の物だから…。
だけど…もう物じゃなくなった…。
物のせいで姫様は死んでしまった…。
俺を手に入れなければ、まだ生きていれたんだ…。
はは、姫様の所に生きたかったな…」
<マティスはアイテムBOXから、ある1つの剣を取り出す>
姫様…。
こんな使い方をしてすみません…。
最後に姫様を感じたいのです…。
この剣は使いたくなかったんです…。
だけど…最後に姫様を感じたいのです…。
身勝手な願いです…この使い方を許してください…。
<主が与えた剣。
それは、1から自分で集めた素材。
それは、1から自分で作り出した剣。
それは、蝕まれても送りたい者に送りたいから>
エライザ様に聞きましたよ…。
1から物の為に作ったって…。
だから…使いたくなかったんです…。
勿論、姫様の贈り物は使いたくありません。
余計に使いたくなくなりましたよ。
姫様様が全てを1から作り出した物だから…。
自分勝手でごめんなさい…。
<マティスは机に向かう。
机の引き出しを開け、そこの中にあるボタンをおす>
「侵入者侵入侵入者侵入。
ザイル様の部屋に居ます。
向かえれる方はすぐ様向かってください」
<王城に警告が流れる。
マティスが押したボタンは、侵入者が現れた時に押すものだった>
さ、この録音機は机に置いておくか…。
そういえば…王継承者居なくなったな…。
それはなんとかなるか…。
<マティスは右の胸に剣を突き刺す>
これが…姫様の剣…。
これが…姫様…。
姫様姫様姫様姫様姫様!
姫様を感じれてる…姫様…ありがとうございました。
<心臓がある左に突き動かす。
痛みを感じるが、それは…主を感じれる痛み>
<数分後。
マティスの死は、すぐに報告された>
「エルザ…すまないな…」
「なんで謝るんだ?」
「この手紙を渡していれば…」
「未来は変わっていたってか?
どうなんだろうな…遅かれ速かれだと思うぞ…。
マティスは狂いすぎている…マイラにたいしての気持ちが…」
<数分後。
コンコンと、扉をノックする音が聞こえる。
エルザが扉を開いたその先に、1人の女性が立っていた>
「マリルじゃないか。
どうした?」
「ご冥福お祈り申し上げます」
「ありがとう。
いいに来ただけか?」
「違うよ?その前に、エライザ様に言っても大丈夫?」
「ああ、すまないな」
「ご冥福お祈り申し上げます」
「ありがとう」
「じゃあ、なにしに来たんだ?
まさか…その袋ではないよな?」
「ん?そのまさかだよ」
<カイラ·マリル
全国一と言われている宝石店の店長>
<マリルは持っている袋をエルザに渡す。
その袋は2家とも受け取りたくない袋だった。
袋の中身を取り出す…。
それは…小さな箱だった。
それは…指輪を入れる箱だった。
恐る恐る箱を開ける。
だが…受け取りたくない中身だった。
エライザとエルザは、涙を流し崩れ落ちる。
指輪の宝石が、魔力石になっていたからだ>
<魔力石
神の力により、体内の魔力で魔力石を作れる。
神の力を使う為、魔力が回復する事が出来ない。
使用した魔力は、また魔力量を上げていかないといけない>
<魔力石の指輪
指輪に使われる宝石の大きさの場合、魔法士のE~Bランクは魔力量が足りず、魔法石の指輪を作る事が出来ない。
Aランクの場合は、大体の魔法士は魔力量が足りない。
魔力量が足りるとしても、Eランクの魔法士になれるかどうかと言われている。
Sランクの場合は、BランクかAランクの魔法士になる。
魔力石の指輪を作るだけで、今までの魔法士人生を送る事が出来ない>
「ごめんね…私がもっと速く作れていたら…」
「いや…しょうがない…。
ありがとう…マティスの想いを届けてくれて…」
「ええ…。
私は出ていくわね…」
<マリルが部屋を出る。
2人はただ、涙を流す事しか出来なかった>
「エルザ…この手紙はどうすればいい…」
「落ち着いてから見せた方がいいだろう…。
この2つは、家族全員に見せたら駄目だ…俺らみたい耐えられない…」
「そうだな…」
<マティスへ
この手紙を読んでいるっていう事は、私がこの世に居ないって事よね?
ああ…マティスに伝えれて無いんだろうな…。
私からの言葉じゃなくて、手紙で伝えるのか…。
好きだったよマティス。
契約する前からずっと。
もう私から解放された。
物として私に使った時間は返って来ないけど、マティスが生きたいように生きてね。
私と一緒に居てくれありがとう。
マイラより>