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モンスターがあふれる世界で最強にならないと生き残れない転生  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


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第39話 原初の封伐史

 黒い女について発覚したことが二つ。

 一つ、人の形こそしているが、その実態はどちらかと言えば土であること。

 そしてもう一つ、本人の口ぶりから察するに、少なくとも数百年以上昔からいる存在ということ。


 それで、ふと思い出したことがある。


 ――戦国時代、紀伊国に、信長ですら恐れる集団がいた。


 転生してすぐのころ。

 屋敷の外へと俺を連れ出した父から聞かされた、俺のルーツの話。


 ――集団の名は、雑賀衆(さいかしゅう)


 その名の由来を父は教えてくれていた。

 災い転じて福と為す。

 雑賀とは『災禍』が転じたもの。


「お姉さんはもしかして、雑賀の誕生に関係する人物だったりする?」

「どうしてそう思うのかしらん?」

「理由は二つ。一つは雑賀に対する強い執着」


 桜守家に現れた時も、今回の合宿も、この女は俺を狙っていた。

 理由は俺が雑賀の子孫だから。


「そしてもう一つは、数百年生きているって発言から」


 黒い女がニタリと笑う。


「うふ、しゃべりすぎちゃったわね」

「もっと口を滑らせてくれてもいいんだけど」


 すっかり回復してしまった黒い女に対し、呆れにも似たため息がこぼれる。

 ダメだこりゃ。

 俺の飯綱(いづな)じゃ、倒せそうにない。


 だからいっそ、かんざしから刀身を消し去り、懐に仕舞う。


「何も知らずに往くのは不幸だと思わない? 冥途の土産に教えてくれても、いいと思うんだけどどう?」


 それが、功を奏したのだろうか。


「……」


 女は少し顔をしかめた。

 いままで、対話らしい対話が成立しなかったのだが、それは相手が無条件にこちらの言葉を斬り捨てていたから。

 しかしどういうわけか、いまになって彼女に、わずかな葛藤が見える。


「そうね。少し、昔話をしましょうか」


 女はもろもろの圧を引っ込めて、昔を懐かしむような目で語る。


「雑賀の誕生にかかわっているか。その問いの答えはイエス、よ」

「じゃあ」

「けれど、それを私のルーツと推測しているのなら、それは大きな過ち」


 違うのか。


 たとえば『災禍』と子を為したご先祖の許嫁だったとか、生まれた子どものうち、迫害され、出生そのものを秘密裏に抹消された存在とか、そのあたりを想定していたのだけれど。


「そうねん」


 少し、いつもの調子に戻った女が、いたずらな笑みを浮かべて俺に問いかける。


「不思議に思ったことはなかったかしらん? どうして『災禍』を倒すことを封伐(・・)と呼ぶのか」

「それは」

「不審に思わなかったかしらん? 討伐と呼ばないことを。疑問に思わなかったかしらん? その語源は何なのか、と」


 思わなかったことが無いわけではない。

 父や母に問いかけたこともある。

 だが、そういうものと処理されて長いのか、そのことをどちらも知らないようだった。


 今日伝わっていないのだ。

 封伐がどこに端を発するのか。


「封伐師の起源はいまからおよそ3000年前」


 3000?

 西暦より長いぞ。


 というか、それだけの歴史が今日伝わる文明なんて限られている。


「古代中国、殷周革命まで遡るわん」

「じゃあ、封伐師の封ってまさか、封神の」

「あら? 物知りねん。幼いのによく勉強しているのね♡」


 日本最古のSF小説として名高い竹取物語よりはるか昔に誕生した、世界最古のSF小説。

 それが封神演义(フェンシェンヤンイー)

 今日封神演義で知られる、史実を大幅に脚色し、面白おかしく綴り直す、いわゆる娯楽創作である。


「そうよん。術式とは本来仙術や道術だったのよん。それを縁として、人が操れるようにしたものが、今日あなたたちの知る術式ねん」

「いや、いやいや。だって、あれは演義、作り話なはず」

「歴史の裏側。長い歴史において、本当に封伐師の存在を秘匿できると思ったのん?」


 言葉に詰まる。

 つまり、封神演義は、秘匿しきれなかった封伐師の歴史。

 その可能性をこの女は示唆しており、それを否定しうるだけの材料を俺はもっていなかった。


 いや、むしろ。


「仙人の倫理観では、人間の戦いに仙術を使うのは御法度。あれももしかして……」


 俺たちが『災禍』と戦う際に、一般人を巻き込むことを良しとしないことに通ずるのではないだろうか。


 このかんざしもそうだ。

 封神演義には仙人や道士が使う武器、宝貝(パオペエ)だと考えればぴったり符合する。


「もちろん、すべてが事実とは言わないわよ? でも、史実が含まれるのもまた事実」

「……どうして、それをあなたが知ってるんですかねえ」


 なんとなく予想がつきながらも、確認のため、様式美として、黒い女に問いかける。


 彼女も、そんな俺の内心を見透かした様子で、いつものように妖しい笑みを浮かべながら、語る。


「その時代を生きていたからよん」


 そうだろうな、と思った。

 そうであってほしくは無かったとも思った。


「さて、ここでボウヤに問題よん。術式は人の身で仙術や道術を扱うためのメソッドなわけだけど、どうして縁を用いれば超常の力を扱えるのかしらん?」


 黒い女は挑発的な笑みを浮かべる。


「もっと言うなら、あなたたちの言う縁とは何かしらん? 人の身に組み込まれた、神の力の源とは?」

「……まさか」


 古代中国神話には、三皇とよばれる、三柱の神が存在する。

 すなわち伏羲(ふくぎ)神農(しんのう)、そして女媧(じょか)


 こんな話がある。

 人間をつくったのは地母神で知られる女媧(じょか)であり、人間は土と縄で泥人形から創造した神の創造物である、と。

 そしてその縄は同じく神である伏羲(ふくぎ)が編み出したものだと。


(……! だからか!)


 脳裏に浮かんだのは、さきほど切り裂いた黒い女の体。

 そこに臓器はなく、粘度の高い土で蘇生されていた。


 女には縄が無かった。


 女には、縁が一つも伸びていない。


「俺たちが使う術式とはつまり縄。そしてお姉さんが使うのは、土の力。そういうことでしょ?」


 女は微笑んだ、満足げに。


 謎は解けた。女が使う妙な力の源泉も理解した。

 だが、それでもわからないことがある。


「それで、どうしてお姉さんは、『災禍』を育てるの?」


 いや、より直接的に表現するのなら。


「お姉さんの目的は何」

「それは……」


 開きかけた口を、今度は閉じて、女は続ける。


「ふふ、少しおしゃべりが過ぎたわね。でも、これでわかったでしょう? 助けなんて来ない」


 確かに、少なくない時間をかけたはずだが、いまだに母や壬生家桜守家がやってくる気配はない。

 そもそも、さっきからそっちに縁が繋がらない。

 遠見もうまく機能していないのだ。


(まだ、見落としている何かがある?)


 そもそもここは、俺が知っている地球上のどこかなのだろうか。


 古代中国の神話が絡んできたあたりから、それも怪しいものである。


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