表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターがあふれる世界で最強にならないと生き残れない転生  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/43

第35話 合同合宿の開始

 蝉が日がな一日鳴いている。


「ソラくん! 遊びに来たよー!」


 夏休みに入り、すぐのこと。

 桜守家から朱音ちゃんとそのお付きの糸目お兄さんがやってきて、雑賀の門戸を叩いた。


 合同合宿が今日から始まるのである。


 糸目のお兄さんが母とあいさつをしているのを横目に、俺は朱音ちゃんの相手をすることにした。


「朱音ちゃん久しぶり! 元気だった?」

「うん! でもね、今日はいっつもより元気だよ? だってソラくんに会えたから!」


 おうふ。

 陽のオーラが。


 あざとくも庇護欲を駆られずにはいられない純真無垢なとびきりスマイルが強烈に突き刺さる。

 守りたいこの笑顔。


 懇親会からどうしてたのかとか、最近はどんな練習をしているのかとか、世間話を数分。

 桜守家に少し遅れて、殺気がやってきた。


「おう、雑賀の、ご無沙汰やのぉ」


 壬生家のこわもてアニキだった。


「ふんっ!」


 怜ちゃんは鼻を鳴らして、明後日の方にぷいと顔を背ける。

 あ、あれ?

 なんか怒ってらっしゃる?


「あ、あー、えーっと、怜ちゃんも久しぶり。元気だった?」

「……」


 返事がない。

 怜ちゃんは腕組みして、不機嫌さを露骨にアピールしている。


 妙だな。

 つい数日前、合宿の打ち合わせをした時ははつらつとしていた。

 機嫌を損ねる出来事があったとすればそれ以降のことだと思うのだが、まるで心当たりがない。


「約束」

「へ?」

「約束、すっぽかしたでしょ!」

「や、約束⁉」


 そんなことしたっけ⁉


「たまには壬生家に顔を出すって言ったでしょ! いままで一回も来てないのはどういう了見なのよ!」


 あ、あー。

 あれは確か、桜守家の懇親会の帰り道。

 そういえばしたかも、そんな話。


「や、忘れてない。忘れてないよ?」

「だったらなんで顔出さないのよ!」


 や、だってまだ2年しかたってないし。

 数年に1度訪問すれば大丈夫かなって思ってた身としては、つい最近顔合わせたばっかりだし、くらいの感覚なんだよな。


 いや、それは大人の感覚か。


 思い返してみれば、子どもの頃の方が1年を長く感じた気がする。

 俺にとっては前世も併せて1割にも満たない期間に過ぎないけれど、怜ちゃんの人生から見れば非常に長い期間にあたる。

 まして、物心がついてからとなるとなおさら。


「わ、わかった。今度、えーと、具体的には冬休み、壬生家に顔を出すから」

「本当⁉」


 怜ちゃんが表情をころっと変えて、ずいと顔を寄せた。

 先ほどまでの不機嫌はどこへやら。

 おめめをキラキラ輝かせて、上目遣いに俺をじっと見つめる。


「約束、今度こそ約束だからね!」

「う、うん」

「嘘ついたら飯綱(いづな)飛ばすからね」

「どうしよう針千本と違って有言実行の香りがする」


 怖い。そしてすっぽかすことができなくなった。

 いや、いつも凛とした態度を心がけてる怜ちゃんがあんなに顔をほころばせてにじり寄ってきたら断れないって。

 そんなんできるんやったら言っといてや。


「ソラくん、ソラくん」


 つんつん、と柔らかな指が俺を小突く。

 振り返るとそこに朱音ちゃんがいる。


「うちは?」

「えっと」

「桜守家にはいつ来るの?」


 いや、行ったやん?

 桜守家には足運んだやん?


 懇親会のとき、しっかり桜守家に顔を出したはずなのですが、あの、その、えっと。


 朱音ちゃんはそれ以上言葉で語らず、ニコニコとすがすがしい笑顔で圧をかけてくる。

 くっ、これが名門令嬢の凄み。


「そ、その話はまた後でね! 立ち話もなんだし、上がってよ! お茶を出すからさ!」

「あ、ソラくん!」


 手を伸ばす朱音ちゃんのそばをするりと軽く駆け抜けた。


 三十六計逃げるに如かず!


  ◇  ◇  ◇


 屋敷で少し涼を取ってもらったのち、三家で林道を歩き、合宿予定地まで移動することになった。

 林道と言っても道幅は大型車が通れるくらいには幅広い。

 車で移動することもできる。


 だが今回はあえて徒歩で移動となった。

 目的が一応、俺たち封伐師の卵たちの鍛錬の合宿だからだ。

 これは基礎体力向上の一環。


 かつて修験者たちは深山路(みやまじ)を歩いた。

 山道を往くというのは、彼らにとっても修行となりうるくらい過酷な試練でもあるのだ。


 距離は近いとはいえ、俺たちは齢7つの子ども。

 険しい山道に足を取られ、過酷な……


「ソラくんソラくん! 見て見て! 変なお花が咲いてるよー!」


「ソラ、あそこの看板までどっちが先に着くか競争よ!」


 あれー? 思ったより元気だな、彼女たち。


 いや、違うなこれ。

 体力管理度外視のムーブメントだ。


 子どもって体力がゼロになる寸前までフルパワーで稼働して、ゼロになった瞬間一歩も動けなくなるよね。

 あれだ。


 サッカーで体力つけてなかったら危なかったかもしれない。

 俺だけ道中でくたばるなんて情けない醜態を晒さずに済んだ。


 誰の耳にもわかるせせらぎを頼りに林道を進みしばらく。

 林道から少しそれたところに、開けた空間があらわれた。


 合宿予定地の沢だ。


「おお、ここが」

「雑賀縁の地……」


 怜ちゃんと朱音ちゃんが感慨深そうに息をつく。


 俺は雑賀縁の地と雑賀紫(俺の母)の血って、音だけだと聞き分けつかないな、なんて考えていた。

 どうでもいいですね。


(……?)


 西の空で、烏が、カァカァと鳴いている。

 その様子に、どうしてだろう、違和感を覚えた。


「あいつ!」


 目を凝らしてようやっと、その違和感の正体を突き止められた。

 見上げた先で滑空するその黒い鳥は、よくよく確認すれば目が三つもついていることに気付く。


 俺が雑賀に生まれて初めて出会った『災禍』、三つ目のカラスとおそらく同種。


 だからとっさに、

 縁を探り飯綱(いづな)を抜き放とうとして――


「待ってソラ」


 怜ちゃんに止められた。

 どういうことかと説明を求めて視線をやると、怜ちゃんは自信たっぷりの笑みで返す。


「私の成長、見せてあげる。ソラは手を出さないで」


 こわもてアニキが怜ちゃんの方へ短い刀、脇差を放る。

 左手で、軽快な音を立てて受け取ると、怜ちゃんが腰だめに、居合の構えを取る。


 呼吸を整える様子で、瞳も閉じずに、怜ちゃんが一閃。


飯綱(いづな)


 斬撃が翔んだ。

 遥か彼方上空を旋回する三つ目のカラスが一刀両断され、地に堕ちていく。


「おお」

「ふふん、どうよ。私の術式」

「すごい! もう使いこなせてるじゃん!」


 およそ2年前、怜ちゃんの飯綱(いづな)は不完全だった。

 まず、術式の発動には目を閉じる必要があったし、縁を見ることに難航していた。


 それが、もう、使いこなせている。

 未来視の成長チートも無しに、この成果。

 無い胸を張っているのがちょっとコミカルだが、血のにじむような鍛錬が必要だったのだろうことが容易に想像できる。


「桜守家の懇親会の道中でソラが縁を見るコツを教えてくれてから、急激に伸びたの。だからお礼を言うね、ありがとう、ソラ」


 怜ちゃんが朗らかにほほ笑んだ。

 掛け値なしの本音だと、はっきりとわかった。


 あと、ちょっとだけ朱音ちゃんに喧嘩売ってる。


 私とソラは前にも一緒に修行した仲なのよ、とけん制しているのがよくわかる。


「へぇー、ソラくんすっごーい! ねねっ、じゃあじゃあ合宿中、朱音にもいっぱい教えてね!」


 怜ちゃんから余裕の表情が抜け落ちる。


「わたしはまだ、怜ちゃんみたいにうまく術式使えないから、つきっきりで教えてくれると嬉しいなっ」


 面白いくらい露骨に、怜ちゃんが慌てふためいている。


(うーん、朱音ちゃん、強かだ)


 今日から桜守家、壬生家、雑賀家の合同合宿が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
応援は↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると
筆者の励みになります!

新作
時代の節目に陰から糸を引く転生者
異世界で現代知識チート無双していたら英雄誕生の光景に目を焼かれてしまった主人公が、さらなる英雄譚目撃のために英雄も巨悪も舞台も用意して「さあ、やれ」と特等席で観戦を決め込む話。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ