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モンスターがあふれる世界で最強にならないと生き残れない転生  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


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第31話 肝試しの不吉

 俺のハッタリが効いたのか、一人で登下校するようになっても黒い女からの接触は無い。


 かといって、いつまでハッタリが通用するかはわからない。

 俺は強くならなければいけない。

 それも、できるだけ早く。


 そんなこんなで、最近は学校でも特訓をしている。

 使う術式は遠見の応用、未来視。


「よし、やるぞ」


 気合を入れ、ボールをつま先で軽くリフティングする。

 使うボールはサッカーボール。


 ボールってすごい。

 うまく扱えば思い通りに操れるが、下手に取り扱えば想定外の動きをする。

 これが俺にはすごく都合がよかった。


 判断力、と言えばいいだろうか。

 複数の未来につながる因果の糸。

 その中でどれが自分にとっての理想解なのかを瞬時に見極め、その未来を引き寄せるための一挙手一投足を寸分たがわずなぞる。

 ボール遊びはその特訓にうってつけだ。


 ぶっちゃけサッカーボールにこだわる必要はなく、野球ボールでもバレーボールでもなんでもいいのだが、学校に入って初めて触ったのがサッカーボールだったのでその縁でサッカーボールを使っている。


(やべ、楽しい)


 倍速再生が可能な限りランダム要素を排除する術だとするなら、この特訓は意図的にカオスを取り入れ、その中から最適解を瞬時にはじき出す特訓だ。

 広域最適解ではなく局所最適解を導く練習。

 いままでやってこなかった分、うまくできない分、目に見えて成長してる実感があって楽しい。


 複数の未来を見ながらの特訓は、控えめに言ってチートだ。

 うまくいく経験も、うまくいかない経験も、人の何倍も獲得できる。

 その分だけ人より早く上達する。


 もう数か月にわたって行ってる。

 夏も近づいてきた。

 リフティングもうまくなったもので、いまでは自分でやめようと思うまで続けられる。

 ボールをできるだけ高く蹴り上げてみたり、視線をよそに向けたり、練習方法にも工夫を盛り込みながら続けていた最中、校庭のとある遊具が目についた。


(ちょっと難易度上げるか)


 特訓に取り入れようと考えたのは鉄棒。

 鉄棒と平行にドリブルを開始して、支柱に向かってボールを蹴った。

 円柱にぶつかったサッカーボールが跳ね返り、数歩分前に移動した俺の足元へ向かって吸い込まれるように収まる。


(お、いい感じ!)


 またボールを蹴る。狙うは次の支柱。

 同じように円筒状の支柱にぶつかって、ボールは明後日の方向へ飛んだ。


(む)


 脳内で描いた理想の動作に体がついてこなかった。

 これではだめだ。

 いくらうまく未来視を扱えても、それを手繰り寄せるだけの技能が無ければ宝の持ち腐れだ。


 支柱は細い上に丸い。

 ボールも丸い。

 狙いが少しずれると、大きなずれとなって返ってくる。

 リフティングよりも未来が変動しやすく、その分、俺もより精密な動作が必要になる。


 飛んで行ったボールを拾いに行って、鉄棒の横を走りながら同じ特訓を繰り返す。

 成功率は5割程度。

 通しでではない。

 支柱一本に対してである。


 鉄棒を端から端までこのドリフトで駆け抜けるには技量が足りていない。


 つまり、特訓としては理想的だ。


 ボールを蹴る。支柱にぶつかる。足元に吸い付いたボールを再び蹴る。

 支柱にぶつかったボールが、今度は大きくそれて飛んで行った。


 口元を緩ませて、ボールを取りに行こうとして、足を止める。


 げんちゃんがいた。


「ソラ、やっぱお前もサッカークラブ入れよ」


 げんちゃんは同級生のサッカー少年だ。

 時々、いや頻繁に、こうやって俺を子どもスポーツクラブに誘ってくれる。

 それを俺は毎回断っている。


「あー、いや。別にサッカー選手になりたいわけじゃないし」


 これは本当。でも、本心じゃない。


 俺が雑賀じゃなく、他の封伐師の家庭に生まれていたら考えたかもしれないけれど。

 公にできない『災禍』の存在を隠して練習に混ざるのは不義理に感じる。


「嘘つけ! お前以上にサッカーが好きなやつ見たことないぞ! 本当はやりたいんだろ⁉ 素直になれよ!」


 嘘じゃないんだよなぁ。


 スポ根の主人公かなと思うほど熱烈な勧誘を、しかし冷めた態度で受け流す。

 これが高校舞台とかだったら、たぶん俺に、サッカーで友人を失った過去とか生えてるやつ。

 あいにく小学一年生にそんな重たい過去は無いが。


「そうだ、今度の日曜日さ、スポーツクラブの仲のいい友達で肝試しに行くんだ。ソラも来いよ! そしたらみんないいやつだってわかるからさ! ぜってー入りたくなるって!」

「やだよ」

「なんでだよ!」

「いやクラブの輪があるところに、一人で放り込まれるとか……」


 地獄だろ。

 そう言いかけて、言葉に詰まる。


「ソラ?」


 口を閉ざした俺を、げんちゃんが不思議そうにのぞき込んでいる。


(まずいことになった)


 頭を抱える。


(最悪だ)


 いまこの瞬間まで気づかなかった。

 けど、見えてしまった。


 未来視が見通した月曜日の朝。

 学校の教室。


 げんちゃんの死が伝えられる。


 未来視を飛ばし直し、日曜日へ。

 場所はまだ聞いていないが、本人が目の前にいる。

 本来の遠見の要領でげんちゃんを追いかけ、様子を調べる。


(肝試しの最中に、『災禍』に襲われてやがる……!)


 うっそだろこいつ。


 本来、一般人が『災禍』と遭遇する確率は極めてまれだ。

 それは父たち封伐師の日ごろの間引きのおかげであり、長きにわたって歴史を裏から支えてきた彼らの功績でもある。


 だが、絶対ではない。

 被害者がゼロなんてことはありえない。

 前世の俺がそうだったように。


(しかも、これ、発生するのが日曜夜、肝試しをしている最中か?)


 危険がわかっているならと、遠見で縁を探ってみるが該当者が見当たらない。

 現時点では存在しない怪異。

 そう考えた方が妥当で、しかも現状手の出しようがない。


(一応、当日、屋敷から様子をうかがっておいて、遠隔で倒すって方法もあるけど……)


 そもそもの問題、彼らと『災禍』を引き合わせるというのは気が進まない。

 表向きには存在しない怪物だ。

 一般人の目に映らないと言っても、暴れれば現実側に被害が及ぶ。

 超常現象に遭遇したと言って、騒ぎ立てられるかもしれない。


 それは、事態を隠匿したい封伐師にとってはあまり好ましいことではない。

 ましてネットが普及し、情報化社会が加速した現代であればなおさらだ。


 どうする、どうする。


 父に相談してみるか?

 確か天中殺ではなかったはず。


(いや、相談するにしても、どうやって未来に起きることを説明すればいい?)


 遠見の応用、未来視については誰にも打ち明けていない。

 これを打ち明けた場合の未来を見ると、必ず、封伐師の総本山で監禁されるからだ。


 いや、監禁と言っても、食事も寝床も立派な厚遇ではあるのだけど。


 どうして嫌かと言うと、ゲームやパソコンなどの機器が厳禁だからだ。

 神社である都合、その手の娯楽が一切禁止。

 仮にあったとしても、ほぼ常時未来視をぶっ続けで使わされて遊ぶ暇も休みも無し。

 それはもう、生き地獄でしかないじゃん。


 だから、未来視のことを打ち明けるのは無し。


(……いけるか?)


 一つ、浮かんだ解決策。

 それは、俺自身が現場に向かい、『災禍』を秘密裏に処分すること。


(未来視で予測できるってことは、あの女のたくらみではない……はず)


 黒い女からはただの一つも縁が伸びていない。

 故に未来視から必ず零れ落ちるのだが、裏を返せば予測できる盤面に彼女はいないということ。


(幸い、未来視に映った『災禍』くらいならたぶん、俺一人で倒せる)


 俺が行動に起こせば、たぶんげんちゃんを助けられる。


 どうする。

 リスクを背負ってまで死地に赴くべきか?

 それとも……。


(いや、決まっているな)


 俺は、雑賀空だ。

 歴史の裏から人々の暮らしを支えてきた誇り高き封伐師の担い手だ。

 逃げる選択肢なんてない。


「げんちゃん、やっぱり俺も参加する」


 げんちゃんがぱぁっと喜色を満面に浮かべた。


「ソラー! ようやく素直になったな! 俺嬉しいよ! そんなに肝試しが好きだったんだな!」

「違うが」

「照れるなって、俺とお前の仲だろ?」

「違うが」


 違うが。


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