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調査

作者: 雉白書屋

 ある夜のこと。その青年は無意識に歩を速め、やがてそれは全力疾走へ移行した。息を荒げ向かう先、彼自身も信じがたい。まさか――


「ゆ、UFO……?」


 そうとしか言いようがないその飛翔体が人けのない林の中へ降りて行くところを青年は目にし、そして今、木の陰からその姿をまじまじと見つめるのだった。

 ……しかし、どうしたのだろうか。UFOが突然、フッと姿を消したではないか。

 いや、透明化。光学迷彩というやつだろうか。よくよく目を凝らせばそこにあることはわかる。そして、なにやら空間に穴があいたかと思えばそこから人が降りてきた。恐らくそこがUFOの扉だったのだろう。さらに目を凝らした青年は思わず声を上げそうになり、慌てて口を押さえる。

 が、それは無意味だった。夢中になるあまり亀が首を伸ばすように青年は木の陰から身を乗り出していたのだから。


「……あぁ、人がいたんかん。しまっとぬぅ……ああ、スイッチを押し忘れるんじゃなかったぎに……」


 と、それは手で額を覆い嘆いている様子だった。恐らく、スイッチの押し忘れとは光学迷彩のことであろう。着陸前から押しておくべきだった、と。だが、青年が何よりも聞きたかったことは


「あ、あの、えっと宇宙人……さんですよね?」


「ええっと、もぅあ、はいはいはい」


「あ、ああ。あはは、そう呼ばれるのは不本意だったりしますか? いや、そちらからするとこっちもまた別の星の、そう宇宙人ですもんね。すみません。外国人を外人呼びするみたいに気に障ったなら、というか、すごいですね! 翻訳装置か何かもってるんですか? 言葉が通じるなんて、ああ、それとも勉強を? 郷に入っては郷に従えと、いやぁ、さすが立派な考えの持ち主ですねぇ。あ、ちょっと喋り過ぎちゃってますか? いや、もう興奮しちゃって、あ、僕、昔からSFとか好きでして、いやー、まさか、うわー、すごいなぁ。あの、でもなんで、あ! あれですか、現地調査的なやつですか? そりゃそうですよね。だってそれ、目立たないよう地球人の姿に変えているんですよね? いやぁ、びっくりしましたよ! 現れたと思ったら、え、人間!? って感じで、でもよく見たら僕ら地球人とどこか違うような気も、なんて気に障ったらごめんなさい。別にそちらの技術力不足だなんてことは言ってませんので! なんて、当たり前ですよね。だってUFOに乗ってきたんですもんね! いや、UFOっていう呼び方も変か、あれは未確認飛行物体のことを指すわけですし、宇宙船ですね、宇宙船! 確認しちゃってますもんね、まあ今は透明ですけど、いやぁ、すごいなぁ」


「うん、うんうん、そうそう、はーい」と、青年の圧に押され、どこか投げなりな様子な彼。その胸中は面倒な――


「あ、面倒なやつに絡まれちゃったって思ってます? でも安心してください。口は堅いほうなので、ええ、誰にも言いませんし、騒ぎませんよ」


「すでにちょると騒いではいるけどね君」


「ああ、どうもすみません。あぁ、へへへ、宇宙人からツッコミを貰っちゃったぁ……と、あの、秘密にする代わりにいくつか質問してもいいですか?」


「あー……まあ、いっけど」


「やった、よし、よーし!」


「あの、静かに頼むよ」


「ああ、はい、へへへ、えっと、まず、改めて確認なんですけど、こうして言葉が通じるのはあれですか? やっぱり翻訳装置とかですか?」


「あー、そそ」


「ふふふっ、すごいなぁ。でもちょっと言葉が変だったりしてますよーなんて、へへへへ。まあ、いいです。えっと、どんな星から来たんですか?」


「んんっーとね……」


「あ、あまり話すと罰せられたりしちゃいます? でも、話せる範囲でいいんで、お願いしまーす」


「罰せられ、まあまあ、そね。へーきよ。で、えっとね……どんな、んー、灰色の星かな」


「おぉ、えっと、地球とどのくらい距離があるんですか? やっぱ来るの大変でしたか?」


「ああー遠いと言えば遠いけど、そうでもないよ。まあ、あっという間かな」


「おほぉ、さすがの科学力ですね。それで、星の皆さんはどんな暮らしをされてるんですか?」


「んー、まあ、ドームの中で過ごしているよ。いくつかのね。快適にね。ちょっと浮いているんだよね。磁力で、災害とか警戒して」


「ほぉー! 浮遊都市ですか! それはまたすごい……あ! やっぱりロボットとかいるんですか? すんごい人工知能搭載の」


「あー、それほどでもないよ。一度、問題が起きてね。その辺はあまり進化させないよう取り決めたの」


「おぉー、マジでSFだぁ……。え、じゃあクローンとかそういう技術は?」


「あぁー、ふふっ、駄目駄目だよ。それも取り決めで長らく禁止されてたーけどぅ、人口減ったから解禁しようって声に押されされたの。で、問題が起きた」


「それは、どんな……」


「詳しくは話せない。悪いねミーネ」


「ああ、はい……でもまあ、想像ついちゃいますね。いやぁ、どこもやっぱり大変なんですねぇ……他に何か、こう、すごい技術とかは」


「まあ、チョジュ。長寿だぁね。割とミナ、ヨユーに生きてるよ」


「ほぉあ、すごいなぁ、どれもこれも地球人が欲しがる技術ばかりだ。あ、あの、それでその、これ聞いちゃおうかな……その地球来た目的、その最終目標は……友好関係を結ぶのか、それとも……」


「んー、まあ調査しに来ただけだから」


「あ、あ、そうですか……あ、あの」


「ん?」


「その、僕ら人類は争い合ったりとか色々と問題も多いんですけど、でも改善するよう努力するというか、いや、僕に何ができるかはわかんないですけど、えっと、その、調査していく上で嫌いにならないで欲しいというか……いい人もいるというか……侵略とかは……できればやめて欲しいというか……」


「ん、わかるよ。言いたいこと。心配いらない。あなたもワタシも似た者同士だから」


「あ、あはは! そうか、そうですよね。きっと仲良くやれますよね」


「だねい、ああ、今度はそっちが話してよ」


「お、いいですよ。現地調査ですね。何でも答えますよ。地球人代表としてね、なんてね」


 そうして、二人は語り合った。国に、政府に、組織に属している以上、やはり上の方針には逆らえないことはわかっている。もし、星と星の戦争になれば、この抱いた親近感も友情も何の役にも立たないだろう。しかし今、この場は個人と個人。きっとわかりあえる。輝かしい未来が待っている。青年はそう思わずにはいられなかった。

 彼が街を見て回りたいというので青年は案内役を買って出て二人、暗い林を抜け出て星空の下、青年は飽きもせず語りに語った。時々、空を指さし、「あの辺から来たの?」と訊ねた。そして、青年の声が嗄れたころに二人は別れた。

 また会えたらいいね。この事は胸にしまっておくよ。ありきたりな約束だが青年は満足し、夢心地のまま帰路についた。

 

 ……と、彼も林に戻り、コクピットに乗り込むと再び夜空へと上がった。

 静かに眠る街を見下ろすと無事、任務を終えたため気分が高揚していたのか自然と言葉が漏れた。


「なんて言ったけ、こうーの。身から出た、違うな。まあ、いいや。ラッキーファッキンだ。密な話聞けた。多分アレ、喋らないだろーし、まあいい。そのための、だ。おっと不備がないか確認を……よしよし機能に問題なし。ああ、大災害までいよいよだ。映像を記録し、未来の暇人のために綿密な歴史書を作るのだ」

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