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邪竜さんは千年先もラブ負けしたい

作者: 人藤 左

 千年前。

 ワタシはその時代の勇者に討伐され、一時的にその機能を停止していた。


「邪竜ヴルム。お前が再び目覚めるのなら、例え千年先でも、また討ち取ってやる」

「最期に、一つ。お前は美しかったよ。この黒曜石のような鱗も、実はいつも見惚れていた。国には内緒にしておいてくれ」


 そう言い残して勇者は、ワタシの胸に聖剣を突き立てたまま生き絶えたのだった。


 彼の言葉を思い出しながら、千年。千年経ったぞ。

「うぉぁあああああっ!」

 緊張してきた!


 ――いつも見惚れていた。

「ぐぅッ!」

 ――美しかったよ。

「ぐはっ……」

 ――千年先でも、また……

「ダメだ……心臓が保たない……」

 傷は癒えたが、締め付けられるような、むしろ心地良ささえある痛みは消えない。

 呪いか? 呪いなのだろうな。


 歓待用にしつらえた洋室。

 ちょっと前にその辺で捕えた職人(仕事が終わったというので、財宝を少し分けて帰してやった)が言うには、カップル向けの部屋? ということだ。天蓋付きのベッドが回ったりする。なんで回す?


 勇者は人間なので、ワタシもその姿を真似てみた。これもまたその辺で拾った仕立て人に整えてもらったので、いい仕上がりになっているはずだ。

 オブシディアンの煌めきを宿した黒髪にはヘアオイル? とかを馴染まされて落ち着かない匂いがするけど、それも人間的にはいいのだろう。

 真っ黒なエンパイアラインドレスもまた、オニキスのような繊細な輝きを宿しており、こちらはかなり気に入っている。


「さん、にぃ、いち……千年だー!」

 ついにこの時が来た! 

 世界征服を再開し、勇者と再び相見えるときが来たのだ!


 手始めに眷属らを放つ。

 続けてそれぞれ指向性を持った機能特化型の配置、それからそれから……

 眷属らが人の領域に差し掛かった途端、光の柱が私の頬を掠めた。


「え?」

 大穴が空いた壁から、外の様子が伺えた。

 列を成して進軍していた竜族は完全に消滅し、少し遠い山にも風穴。そこから地平線まで望める。


「神竜勇者ファニル、見参――」

 背後から声がした。

 掠めたのは光ではない。この神竜勇者が、道中竜を蹴散らしながら突っ込んできたのだ。


 その、一切を糺すような声音。

 振り返るまでもなく、確信した。

 身体は違っても、その魂は!


「会いたかったぞー!」

「無事かい? 邪竜ヴルムはどこに?」

 柔らかくワタシを抱きとめた金と白と青の勇者は、わからないことを聞いた。


「どこって?」

「他にも捕えられた人がいると聞く。どこにいるかわかるかい?」

「帰ったけど」

「帰った⁉︎」

「このヴルムが招き、そして帰したのだ」


◆◆◆


 幸いティーセットは無事だったので、一席設けることができた。

「ワタシが邪竜ヴルム。千年前、勇者と約束したのでな。こうして待っていた」

「俺は神竜勇者ファニル。この十年、世界を脅かす竜と戦い、その血を浴びたことでこの力を得た」

 金の短髪と碧眼が眩しい。


「待って。ほかの竜とも戦ったの?」

「あぁ。全て倒したと思った矢先、邪竜ヴルムが復活したという噂を聞いた。まさか……こんな美女とは思わなかったが……」

「ウッ!」

 クリティカルだった。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、大丈夫。古傷が開いてね」

「そうですか。――しかし驚いた。会話の成立する竜がいるだなんて」


「あまりナメてもらっては困るな……。ワタシこそ真に邪悪、故に邪竜! 時に力で、時に惑わし人の世を征服してやる! ハハハハハ!」

「クッ……この美味すぎるクッキーも、甘い髪の匂いも、全ては罠! ということか……!」

「えっ。……ゼンゼンチガウ……ケド」


「その美しさで俺を騙そうというのだな⁉︎」

「だ、騙すとかそういうんじゃないけど……騙されてくれるの?」

「騙されはしない! いかにどストライク黒髪美人とはいえ! 絶世とはいえ!」

「わわわ……」

 めっちゃ褒めてくるじゃん!


「しかし……それでもあなたは邪竜ヴルム! この神竜騎士ファニルには使命がある! いかに美しく心輝かしくとも、倒さねばならんのだ」

「……ちょっと待って。待って……降参」

「え?」


 生真面目くんがベタ褒めしながら、それでも使命のために立つ姿は、とても綺麗だった。ぶっちゃけ大好物だ。

 こんなの、もう戦うどころじゃない……。


「もう降参! きみ、ワタシを褒めすぎ! ズルい!」

「なっ……俺はいつも正々堂々と……」

「そういうとこもズルいのー!」


◆◆◆


 後日。

 21戦20勝1不戦勝という戦績が眩しいファニルは、新たな竜として人々に後ろ指を差されることになり、

「平和になったんだからいいよ」

 それでも穏やかに、そう笑った。


「憎くないの? 悔しくないの?」

「それもそうだけど……誰かがこうするべきだったんだ。それに、ヴルムさんが歓迎してくれたから……たった一人でも味方がいてくれて、すごく助かるよ」

「ヴッ!」

 不意打ちを食らったワタシは、その場で倒れ込んだ。

 いま書いてるダメカワピンクちゃんが追放されて無敵やりつつ友愛以上恋愛未満してるやつの話から出てきたので書きました。


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