表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート集

もう少しだけ

作者: 青樹空良

「……おばあちゃん! 大丈夫!?」

「間に合ってよかった」

「おばあちゃん、くるしくないの?」


 病室の中が慌ただしい。

 目はもうほとんど見えないけれど、家族が駆けつけてくれているのだとわかる。

 誰かが手をさすってくれている。

 あたたかい。


「おばあちゃん、逝かないで!」

「俺、もっと親孝行してればよかった……」


 口々に言っているのが聞こえる。

 大丈夫、お前は充分親孝行してくれたよ。

 もう口を動かそうとしてもしても上手く動かない。

 伝えてやれないのが悔しいけれど。

 子どもたちや孫たちに囲まれて逝けるんだ。

 私はとても幸せだよ。


 もう、思い残すことなんて何も。

 何も無いんだよ。


 だけど、せめて、もう少しだけ。

 もう少しだけ、この世界に……。



 ※ ※ ※



 そう。思い残すことがないなんて嘘だった。


 生きてれば、アレがやりたいこれがやりたいなんて、たくさんあるに決まっているじゃない。

 やり残しなんて、生きていれば生きているほど増えていくものなの。

 思い残すことがない人間なんて、いるのなら見てみたいわ。


 だから、私は。


 ぶつりと、一度意識が途切れる。

 この人生の終わりだ。


 そして。

 再始動。


「おめでとうございます! 男の子ですよ~」


 さっきまでとは打って変わって、賑やかな病室。

 今度は男に生まれたらしい。


 身体中に響く赤ん坊の泣く声。

 私の声だ。


 私は再び、生まれた。

 それが私の能力。

 寿命が来たら、自分の意思で生まれ変わりをすることが出来る。

 しかも、自分の意思で終わりたいと思う時までずっと。

 もちろん、私という意識を持ったまま。


 私はそれを数え切れないほど繰り返してきた。

 寿命を迎えようとする度、今度こそやり残しなんて無いと、そう思うのだけれど。

 直前になって、いつも再始動を選んでしまう。

 だって、まだこの世界に飽きていないから。

 今度の人生こそ終わってもいいと思うものかしら。

 いつか生きていることにすら飽きてしまうものなのかしら。


 だから、それまで。

 もう少しだけ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ