もう少しだけ
「……おばあちゃん! 大丈夫!?」
「間に合ってよかった」
「おばあちゃん、くるしくないの?」
病室の中が慌ただしい。
目はもうほとんど見えないけれど、家族が駆けつけてくれているのだとわかる。
誰かが手をさすってくれている。
あたたかい。
「おばあちゃん、逝かないで!」
「俺、もっと親孝行してればよかった……」
口々に言っているのが聞こえる。
大丈夫、お前は充分親孝行してくれたよ。
もう口を動かそうとしてもしても上手く動かない。
伝えてやれないのが悔しいけれど。
子どもたちや孫たちに囲まれて逝けるんだ。
私はとても幸せだよ。
もう、思い残すことなんて何も。
何も無いんだよ。
だけど、せめて、もう少しだけ。
もう少しだけ、この世界に……。
※ ※ ※
そう。思い残すことがないなんて嘘だった。
生きてれば、アレがやりたいこれがやりたいなんて、たくさんあるに決まっているじゃない。
やり残しなんて、生きていれば生きているほど増えていくものなの。
思い残すことがない人間なんて、いるのなら見てみたいわ。
だから、私は。
ぶつりと、一度意識が途切れる。
この人生の終わりだ。
そして。
再始動。
「おめでとうございます! 男の子ですよ~」
さっきまでとは打って変わって、賑やかな病室。
今度は男に生まれたらしい。
身体中に響く赤ん坊の泣く声。
私の声だ。
私は再び、生まれた。
それが私の能力。
寿命が来たら、自分の意思で生まれ変わりをすることが出来る。
しかも、自分の意思で終わりたいと思う時までずっと。
もちろん、私という意識を持ったまま。
私はそれを数え切れないほど繰り返してきた。
寿命を迎えようとする度、今度こそやり残しなんて無いと、そう思うのだけれど。
直前になって、いつも再始動を選んでしまう。
だって、まだこの世界に飽きていないから。
今度の人生こそ終わってもいいと思うものかしら。
いつか生きていることにすら飽きてしまうものなのかしら。
だから、それまで。
もう少しだけ。