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未来旅行

 ……目覚めると、そこは未来だった。

 五千年先の未来。

 地球。


 薄暗い汚い部屋が見える。僕は身体をピクリとも動かせない。暗がりの奥に人が見える。白衣を着ている。女の人だ。パソコンに向かっている。その女の人は、僕の方をチラリと見た。それから無言のまま席を立つ。そして僕の方にゆっくりと近付いてきた。

 『やぁ 目覚めたか』

 傍まで来ると、その人はそう言った。

 (ここは?)

 僕はそう尋ねる。その人は即答した。

 『未来だ。君の活動していた時代から、五千年程が過ぎている。つまり、西暦七千年だな』

 (西暦七千年?)

 とてもじゃないが、僕にその話は信じられなかった。

 『受け止めたくないのは分かる。でも、信じろ。これは現実だ。君はある朝、原因不明の昏睡状態に陥り、目覚めなかった。君の死を受け入れたくなかった両親は、未来にそれを託した。ある時期になると君は冷凍保存された。そして運よくこの時代まで残ったのだ。もちろん、破損部分もかなりあったがそれはこちらで補った。

 どうだ。感想は?』

 (感想って言われても、何にも分からないし、身体だって動かないんだ)

 『それはそうだろう。今現在の君には身体がないのだから。動くはずがない』

 それから、その女の人は鏡を持って来た。僕の前にかざす。そこには、何かパソコン画面のようなものの中に映し出される僕の顔があった。身体は本当にない。

 僕はそれで愕然となった。

 まさか、本当なのか? 僕の生活していたあの場所は、既に存在しない? 僕は五千年先の未来に来てしまった?

 そんな…

 (嫌だ! 僕は大学卒業も確定していたし、就職口だって決まっていたんだ。それに、彼女だっていたのに!

 これから、幸せな生活を送るはずだったのに!)

 僕がそう叫ぶと、目の前の女性は淡々と言った。

 『まぁ そう騒ぐな。いくら嫌だ嫌だと言ったってどうにもならんよ。それに、君の将来はそんなにいいものになっていなかったと思うぞ。

 君の時代は、それからとても悲惨な時期に突入しようとしていたんだ。知ってるだろう? その時代の君の国は借金が凄かったんだ。その影響で世の中は、それから荒れていったんだ。君の勤める予定だった会社は潰れたし、世の中が荒れた所為で、君の恋人だって死んだよ。殺されたのだな』

 (なんだって? 殺された?)

 『それくらいの事は起こるさ。何を驚いているのだい? 世の中全体がおかしくなれば、そうなる可能性は充分にあったんだ。犯罪が増えるからね。君の生活していた時期にだって簡単に予想できる事だぞ?

 君はそれを分かってて何もしなかったのだろう? なら、何が起こっても仕方ないと受け止めなくちゃ駄目じゃないか。

 悲惨な未来を選んだのは、君自身だよ。まぁ、とは言っても、流石にこの今の現実は君が選んだワケじゃないだろうがね』

 僕はそれを聞くと泣きたくなった。だけど、ただの画面の中の映像になってしまった僕には涙を流す事すらもできない。しかし、その女の人は言った。

 『おやおや、泣き出してしまったか。何の覚悟もなく生活していたのだな。まぁ、諦めるのだな。君が後悔しているその現実は五千年前に過ぎ去っているのだから』

 (そんなに簡単に割り切れるか! あなたにとっては、五千年も前の過去の出来事かもしれないが、僕にとってはリアルに今起こっている出来事なんだよ!)

 『ほう。なら聞くが、もし過去に戻れたのなら、その未来を変える為に、君は全力を尽くせる自信があるか?』

 (ある!)

 僕は即答した。すると、その女の人はニヤリと笑った。

 『言ったな?』

 それから、その人は窓を開けた。

 そこには観た事もない景色が広がっていた。荒涼とした砂漠。その中に、とても綺麗な建物がたくさん並んでいる。

 『ソーラータワーさ』

 と、女の人は言った。

 『あれ、全てで太陽の光エネルギーを蓄積している。ざっと100年分。その蓄積されているエネルギーを使えば君は過去へ戻れるぞ』

 (なんだって?

 だって、そんな事は不可能じゃないのか? 時間旅行は不可能だって。物体は光の速度を超える事ができないから…)

 『そうさ。物体は光の速度を超えられない。だから、物体を過去へ戻す事は不可能だな。でも、情報だけならばその限りにあらずなんだよ。素粒子ならば、光の速度を超える事が可能だ。そして、それを応用すれば、過去にデータだけは送れる。つまり、君自身だな。今の君自身を、昏睡状態に陥る前の君の脳に送り届けてやる。

 さて。

 約束したからな?

 未来を変える為に、全力を尽くす、と』

 (ちょっと待っ…)

 言い終る前に、女の人は何かレバーのようなものを下に降ろした。見えている建物。ソーラータワーというらしいそれらが、一斉に光り輝き始める。光は増幅をし、辺りを真っ白に覆いつくしていった。

 『未来を、変えろよー……』

 フェードアウトして、全てが光に埋め尽くされていく中、女の人の声が妙に鮮明に僕の耳に残った。


 ――朝だった。

 未来なんかではなく、いつもの自分のいつもの部屋。

 未来を変える?

 馬鹿馬鹿しいとそう思った。

 (けれど)

 ……取り敢えずは、勉強から始めなくてはいけないかもしれない。

 僕は未来を変える為の努力をし始める事を考えていたのだった。

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