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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第一章 ガーディアンズ
9/55

戦闘訓練開始

     *


 週が開けて、いよいよ戦闘訓練が始まった。


 銃火器を選んだ望夢と高橋の最初の訓練は、使用する銃火器の基礎知識を学ぶことだった。いきなり射撃場で訓練とまではいかないまでも、教室で座学から始まるとは思っていなかった望夢は少し肩透かしをくらった。


「警察だって自衛隊だって、まずは座学から始まるんだ。いくらガーディアンズが特別な組織だからって、いきなり素人に実銃を撃たせるわけないだろ」


「まあ、そうだよね」


 隣の席に座った高橋に言われてよくよく考えてみれば、望夢には銃火器の知識はほとんど無い。そんなど素人にいきなり銃を撃たせるのは、チンパンジーに弾の入った銃を渡すのと同じぐらい危険だ。


 そうこうしているうちに、授業が始まった。銃火器担当の教官は、当然だが自衛隊員だった。


「銃火器訓練担当の樺山かばやまだ。訓練を始める前に訊いておく。この中に、実弾射撃の経験者は何人いる」


 二十人ほどいる隊員のうち、何人かが挙手した。その中に高橋がいて望夢を驚かせたが、教官――樺山は挙がった手を平然と数えると、僅かに声を強めて言った。


「よし。挙手した者は今すぐその記憶を捨てろ。素人が独学で得た知識や経験など、邪魔でしかないからな。なのでここでは全員にイチから基本を叩き込む。少しでも俺の教えに反するようなら叩き出すから、そのつもりでいろ」


 軍隊さながらの厳しい言葉に、隊員たちの間に怯えにも似た緊張が走る。だが扱うものが人を簡単に殺せるものだけに、生半可な厳しさでは駄目なのだろうということは望夢にも理解できた。


「今日の訓練はこれだ」


 何気ない動作で樺山が拳銃を懐から取り出す。人を殺せる凶器が突然目の前に現れ、どよめきが教室を揺るがす。


 拳銃は、映画やテレビなどでよく見る形をしていた。だが肉眼で見たそれは、銃火器という言葉だけでは得られない実感に溢れていた。


「これは自衛隊で制式採用されている自動拳銃だ。弾は9ミリパラベラム弾、装填数は10発」


 説明の傍ら、樺山は流れるような動作でマガジンを一度抜き、そこに弾丸を一発込めてから再装填してスライドを引く。硬い音とともに初弾が薬室に装填され撃鉄が起こり、これで後は引き金を引くだけで弾が発射される状態になると、拳銃に対する恐怖感がさらに増す。


 明確に「人を殺せるモノ」と化した拳銃に、望夢は恐怖を憶えた。自分はこれからこんな物騒なものを扱うのか。今さらながら自分が現実離れした状況にいることに気づく。だがそれによって、改めて自分はモウリョウを殺すためにここにいるのだということを再認識できた。


「何か質問はあるか」


 樺山が言うとほぼ同時に、高橋が挙手した。樺山が発言を許可すると高橋は起立する。


「モウリョウに対して9ミリパラベラム弾で大丈夫なのでしょうか? その拳銃なら、弾倉とバレルを変えればもっと強力な弾丸を使用できるはずですが」


 思いがけず専門的な質問に、樺山は感心するように口の端を持ち上げるが、すぐにきゅっと引き締める。


「それは問題ない。DSDには装着者をモウリョウと同じ次元に引き上げる機能の他に、戦うための機能がある。


 それが、効果付与機能エンチャントシステムだ」


 効果付与機能とは、DSD内のエネルギーを用いて装着者の身体能力フィジカルを強化するか、武器を強化する機能だ。DSDのエネルギーを仮に一○○として、その中なら自由に割り振ることができる。これによってモウリョウに対して無効な威力の小さい武器でも、DSDで強化すれば有効な武器となるのだ。


 例えば狙撃手なら身体能力は特に必要がないので、身体能力:武器の割合を二:八に割り振って銃弾の威力や射程距離を上げる者が多い。特にガンナーは、銃弾の威力の小ささをDSDで底上げする者がほとんどだ。


 逆に近接戦闘をする者は、武器の威力も大事だがそれを扱う自分の身体能力も重要なので五:五に割り振る者が多い。


「このようにDSDによって強化すれば、武器の威力の大小に左右されない。先輩隊員たちの中には、刀やナイフなどで近接戦闘をする者もいるぞ」


「モウリョウを相手に近接戦闘ですか……?」


 あり得ない、といった感じに高橋の顔が引きつると、樺山は楽しそうに口許を緩める。


「使用武器に銃火器を選んだお前たちには、常軌を逸していると感じるだろうがな。ガーディアンズの中には徒手格闘《CQC》を戦闘スタイルにしている隊員もいるんだぞ」


 高橋はちらりと望夢に視線を向けると、「絶対ゴリラみたいな筋肉ダルマの脳筋だ」と小声で言った。それには望夢も同意した。


「ともあれ、弾丸の威力が関係ないとは言え、所詮拳銃は予備サイドアームだ。これで基本を身につけたら、次はもっと大きな銃を取り扱ってもらう。特に長距離ロングレンジからの狙撃は戦略の幅が広がってやり甲斐があるぞ」


 射程距離が長いほど、モウリョウとの距離が離れることになる。近接戦闘に自信がない望夢にとっては、長距離からの狙撃は願ってもない攻撃手段だ。


 これだ、と望夢は思った。


 自分に向いている戦闘スタイルはこれかもしれない。天啓のようなものを受け、意気揚々と訓練に取り組んだ望夢であったが、射撃の道はそう甘くはなかった。


 まず射程距離の講義で躓いた。


 弾丸の射程距離に、最大射程距離や有効射程距離など種類があるなんて知らなかった。


 おまけに弾丸は真っ直ぐ飛ぶのではなく、地球の重力や風など様々な要因で歪められ、大きな弧を描きながら落下しているのも初耳だった。映画やドラマなどでは真っ直ぐ飛んでいたのに。また、弾道を計算するための三角関数もちんぷんかんぷんだった。


 もしかして、射撃って馬鹿にはできないのではないだろうか。不安になって隣の高橋を見てみると、彼も数学に関しては望夢とどっこいだった。


 しかし安心していたのもの束の間。


 同レベルだと思っていた高橋との差が広がりだしたのは、実弾射撃訓練が始まってからだった。

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