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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第一章 ガーディアンズ
7/55

放課後②

     *


 ガーディアンズは寄宿制である。


 隊員たちは地位の上下に関係なく、本部がある徳島駅周辺の宿舎で寝起きしている。


 といっても、ビル街の駅前周辺に新たに寄宿舎を建てたわけではない。そんな土地はないし、建築にかかる予算もバカにならない。そもそも本部のビルでさえ、徳島駅前ビルを一時的に改装して使用しているぐらいなのだ。ガーディアンズの寄宿舎も、当然ながら民間の宿泊施設の流用である。


 望夢たち今期の新入隊員に充てがわれたのは、徳島駅からほど近い東横インであった。


 自動ドアをくぐり、無人のフロントを横目に見ながら通り抜ける。エレベーターに乗って三階へ。302号室が、望夢たちの部屋だ。


 鞄から鍵を取り出し、解錠。ドアを開けて中に入ると、


「おう、お帰り」


 同室の高橋幸宏たかはしゆきひろが声をかけてきた。


 二人の部屋は、元はツインルームだったのを間仕切りして簡易的に二人部屋に改装してある。ただでさえ元から狭い部屋が、二分割された上に男が二人もいるせいで狭苦しくなっている。


 備えつけの家具も机と椅子しかない。ホテルにありがちの小さい冷蔵庫やテレビもない。まさにヒヨッコの彼らに相応しい最低ランクの部屋だ。ちなみに部屋の質は、モウリョウの討伐数などの成績によってランクが決められている。ガーディアンズでは、待遇の全てが成績で決まるのだ


 見れば、高橋は自分のベッドの上であぐらをかき、広げた新聞紙に分解したモデルガンの部品を並べている。どうやら日課の分解掃除をしているようだ。


 高橋は、望夢のルームメイトである。関東地方から来たという彼は、初対面の時から良く言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしく、身体が縦にも横にも大きいことも含め、望夢には少し苦手なタイプだった。


 入隊初日の部屋割りで初めて顔を合わせた途端、


「最初に謝っとく。スマン!」


 と高橋は望夢に頭を下げた。


 何を謝られているのかさっぱりわからなかったが、その理由はすぐにわかった。


 割り当てられた部屋に荷物を運び入れるや否や、彼は自分の段ボールをいくつも開けて中身を、まだどちらを誰が使うか決めてもいないベッドの上に並べ始めた。


 何かと思ったら、エアガンやモデルガンが出るわ出るわ。ハンドガンはリボルバーとオートマチックで計十丁。マシンガンサブマシンガンは各四丁ずつ。とどめにライフルが三丁出てきて、あっという間にベッドの上は、暴力団事務所にガサ入れがあって押収された銃刀類を並べたニュース画像みたいになった。


 そして銃一丁一丁を手に取り、「ごめんな、狭かったろ」と労いの言葉をかけながら丁寧に分解掃除を始めた。するとたちまち室内にグリスの臭いが充満し、彼が謝ったのはこれのことか、と望夢は理解した。


「遅かったな。寄り道か?」


 高橋の声で、望夢は過去の記憶から戻る。高橋は視線を望夢に向けたまま、器用にモデルガンの整備をする。狭い室内にグリスの臭いが充満しているのも、今ではもう慣れっこだ。


「寄り道って、そんな所四国ここにはないだろう」


 民間人の渡来が規制されている四国には、普通の市街地のような店はない。しかしそれでは不便が生じるので、ガーディアンズ本部ビル内には隊員向けの購買部がある。しかし生活必需品ではない娯楽品は入荷数が少なく、いつも奪い合いになっている。成績上位者や教官など、購買のおばちゃんに顔が利く人間なら取り置きや個別注文などの抜け道が存在するが、望夢たち新入隊員は足繁く通って運を天に任せるしか、欲しいものを入手する術はない。


「それがな、最近できたらしいぞ」


「何が?」


「コンビニ」


「マジで!?」


 よく許可が降りたなあ、と思う。


「何でも、日本で唯一ライバル店がいない土地だからって理由で、かなり熱心な出店希望者が現れたらしい」


 確かに、今やどんな離島でもコンビニの一軒は存在すると言われている。そんなコンビニ飽和国の日本で現在唯一コンビニが一軒も存在しないのが、この四国の土地である。厳密に言えば店舗自体は存在するのだが、モウリョウ出現後政府に超危険地域に認定されてからは各企業が軒並み撤退して無人の廃墟と化している。


「酔狂な人もいるもんだね」


 いくらモウリョウ発生地から離れていて、ガーディアンズ本部がある徳島だからといっても、モウリョウが攻めて来る可能性はゼロではない。ビジネスチャンスに命をかける、と言えば聞こえはいいが、果たしてコンビニにその価値があるのだろうか、と望夢は思う。


「だがそのおかげで、こっちに入ってくる物資が増えるのはありがたいことだ。特に購買部で圧倒的に足りない娯楽品のな」


「あそこは品揃えが保守的だからね」


「せめて週刊漫画雑誌は、全種類入荷して欲しいよな」


「そうだね。それにコンビニなら、ネット通販の店舗受け取りができるようになるし」


「マジか。そりゃ夢が広がるな。今度行ってみようぜ」


「うん」


 今でもガーディアンズ隊員向けの郵便物や宅配便はあるのだが、輸送量の問題から数量に制限があるし、内容物の確認や検閲がある。もしコンビニ用の搬入経路がそれとは別ルートなら、個人向けの荷物の入出が今より増える可能性が出てくる。つまり、お上の目を逃れてアレやコレが入手できるかもしれないのだ。


 モウリョウから四国奪還に燃えるガーディアンズ隊員ではあるが、言うても彼らはお年頃である。色んなものに興味津々なのだ。特にR18系。

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