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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第一章 ガーディアンズ
5/55

ガーディアンズの成り立ち

     *


「さて、ガーディアンズの成り立ちについては、ここでいったん置いておく。次は――」


 言いながら丸山は、懐からひし形の金属片を取り出す。


「先日みんなに支給した、このDSDについて説明をする」


 ただの金属片に見えたそれは、DSDと呼ばれる、ガーディアンズ最高機密の装備品であった。ちなみに表面にはガーディアンズのシンボルであるシールドが描かれている。


 自衛隊とは一線を画するガーディアンズの機密装備の説明と聞き、隊員たちが一瞬ざわめく。望夢も心臓が跳ね、手に汗をかくのを感じた。


「さっき説明したガーディアンズの成り立ちの中で、モウリョウには通常兵器が効かないという話をしたが、それはどうしてだかわかるか。そこのきみ」


 丸山は、今度は女子の隊員を指さした。


 女子隊員はすぐさま起立すると、緊張した声で答える。


「モウリョウは、わたしたちのいる世界とは別の次元の存在だからです」


「そうだ。だから自衛隊の攻撃は奴らに一切効果がなかったんだ。何しろ同じ次元にいないんだからな」


 諸説あるが、モウリョウは我々が存在する次元とは少しずれた次元に存在していると言われている。わかりやすく言えば、鏡の中のような、目に見えるがこちらからは触れられない世界に彼らはいる。というのが現在最も有力な説である。


 惜しむらくは、このからくりが解けるまでに日本政府はどれだけ無駄な攻撃をし、無駄な損失を積み重ねたことか。


「そこで開発されたのが、このDSDだ。こいつは装着者の身体を一時的にモウリョウのいる次元に『ずらして《スライド》』くれる。そしてモウリョウと同じ土俵に立てばこちらのものだ。後は日頃鍛えた戦闘能力で無力化してやればいい」


 次元転位装置ディメンション・スライド・デバイス


 文字通り、装着者の身体を別の次元にずらしてくれる装置である。それと同時にモウリョウと互角に戦えるよう、身体や武器の能力の底上げなど様々な効果が追加される。


「このDSDの登場で、ようやく我々はモウリョウに対して反撃の狼煙を上げることができた。全てのモウリョウを駆逐し、四国を再び日本の手に取り戻せるかは、君たらのこれからにかかっている。たゆまぬ努力を期待しているぞ」


 熱く語る丸山の言葉に、血気盛んな若き隊員たちは「おお」と唸る。望夢も、やや熱のこもった視線を教壇に向けていた。


「鼻息を荒くするのは結構だが、このDSDはあくまで対モウリョウ討伐用専用装備だということは絶対に忘れるなよ。もし仮にモウリョウとの戦闘以外や、四国の外でDSDを使用したら、問答無用で逮捕されて国際裁判だからな」


 何故日本の刑事や民事ではなく国際裁判なのかと言うと、現在DSDを所有しているのが日本だけだからだ。


 日本は現在、世界で唯一モウリョウの被害を受けている国である。だがいくらモウリョウに対する装備だとしても、DSDは使いようによっては戦争の常識をひっくり返す装備だ。何しろ相手の攻撃が無効化でき、自分たちだけ好き勝手に攻撃できるのだ。世界中からDSDの情報公開をしろ、とバッシングが来たことは想像に難くない。


 そこで日本は情報公開の代わりに、国際法でこのDSDの使用制限を追加し、遵守することを確約している。だから違反者は日本の法律ではなく国際法で裁かれるのだ。


「その辺は入隊初日にコンプライアンスをうんざりするほど聞かされただろうが、改めて今もう一度胸に刻んでおけよ。コンビニのアルバイトが店の冷凍庫に入って画像をネットに上げるようなバカとは次元が違うんだからな。絶対に使うなよ! いいか、これはフリじゃないからな!」


 しつこいくらい念を押す丸山の声に、隊員たちの顔から笑みがこぼれる。


「そもそも今お前たちがここにいられるのは、DSDの適正を持っているからだ。逆に言えば、適正のない者は、いくら入隊したくてもできないんだ。今年もそうして涙を呑んで帰って行った者たちが大勢いるということを肝に銘じて欲しい」


 DSDの適正。それが無いせいで涙を呑んだ者は、何も今年帰って行った彼らだけではない。丸山たちガーディンズ職員もまた、その適性が無いというだけで戦いから弾き出された者たちなのだ。


 どうしてこの国には自衛隊という組織があるにもかかわらずガーディンズが結成され、しかもその中で主力と言われるのが望夢たちのようなまだ年端も行かぬ少年少女なのか。


 その理由は全て、DSDの適正に年齢制限があるためだった。


 DSDによって次元転移すると、脳が激しい違和感に襲われる。これは、今まで生きてきた次元から別の次元に移動したせいで、脳が誤作動を起こすからだ。


 この違和感は、まだ脳が若く柔軟な少年少女たちなら耐えられるが、長い人生を経て常識や固定観念、そして老化などで凝り固まった大人の脳は耐えられない。下手をすると脳機能障害を起こす危険さえあった。


 ごく稀に成人後も適正を持ち続ける者もいるにはいるが、アルビノ並みに個体数が少ないので戦力としては数えられない。


 そして現在、様々な研究者がDSDの適正年齢を引き上げようと努力しているが、その成果は未だ無い。


「DSDの適正があるというのは、本当に特別なことなんだ」


 噛み締めるように言われ、それまで笑っていた隊員たちの表情から笑みが消える。


 隊員たちの顔つきが変わったのを確認すると、丸山は話題を切り替える。


「さて、諸君らはこれから各自選択した武器の訓練を始める。そしてそれが終わればいよいよDSDを使用した戦闘訓練に移る。先の話だが、今ここでその辺りのことを軽く説明しておこう。


 模擬戦闘は、この施設内のシミュレーターを用いる。使用する武器は各人の自由。手に馴染んだ得物がある者はそれを使えばいいし、格闘未経験の者は自分に合った武器や戦闘スタイルをなるべく早く見つけられるようにしろよ。


 そして模擬戦の成績に応じて実戦訓練の難易度が決まる。実力次第では、新入生でも高得点を狙えるぞ」


 戦闘と聞いて興奮する者もいれば、憂鬱そうな顔をする者もいた。前者は男子に多く、後者は女子に多かった。望夢も最初は他の男子のように目を輝かせたが、やがて物憂げな表情へと変化した。


 ガーディアンズの主な目的はモウリョウの討伐だが、入隊する全ての隊員が武闘派というわけではない。彼のようにモウリョウを駆逐したいという熱意は人一倍あれど、肉体がそれに追いつかない者も多い。そういう者は前線ではなく後方支援にまわるのだが、望夢はそうはしたくなかった。できることなら、自らの手でモウリョウをこの世から駆逐したい。


 となると、肉体の弱さを補う武器が必要不可欠なのだが、あいにく彼は武器と呼べる物を扱ったことがない。むしろ武道やスポーツの中での格闘はおろか、殴り合いのケンカすらしたことがない。


 どうにかしなければ、と焦燥に駆られている間に、本日の授業は終了した。


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