ヘブドリ
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件のコンビニは、ガーディアンズ本部から意外と近い場所にあった。
ガーディアンズ本部となった徳島駅ビルから東に歩くこと数分。
そこは、元からコンビニが入っていたが、モウリョウ出現のため業者が撤退してからずっと無人と化していた場所だった。どうやら新規に建てたのではなく、元のコンビニをそのまま使ったようだ。確かにその方が合理的だろう。
コンビニは、かつて閑散としていたのが嘘のように人でごった返している。当然、客のほとんどがガーディアンズ関係者だ。それが入り口まであふれている。
「すごい人だな」
「ま、なんつっても四国でただ一つのコンビニだしな」
建物を見ると、壁にはどこかで見たようなオレンジ・緑・赤のストライプが描かれている。おや、かの有名なフランチャイズ店かな? と思いきや、よく見ると店名が微妙に違う。
ヘブン・ドリブン 徳島一号店
「……いいのかな、この店名。ってか四国展開する気満々なんだ」
「こまけえこたあいいんだよ。それより入ろうぜ」
釈然としないものを感じながらも、高橋に引かれるようにして店に向かう。
自動ドアが開くと、聞き慣れた電子音が鳴る。住み慣れた土地を離れて四国に来て、まだひと月と経っていないが、妙に懐かしい気がした。
店内は、文字通り人で埋め尽くされていた。全ての通路に人がみっちり詰まり、足の踏み場もないとはこのことかと思う。それが何故か決められているかのように一定の間隔で整然と流れているので、不思議と混雑という感じはしなかった。
「ここ本当にコンビニだよね……」
「俺、満員のコンビニなんて生まれて初めて見た」
「ぼくたちが買う物が残ってたらいいんだけど」
望夢が不安に思っていたら、滑るように人の波の中をすり抜けてこちらにやってくる男がいた。
男は商品が山ほど乗ったカゴを両手で抱えているのに、魔法みたいに人の間をすり抜けながら棚に商品を補充していく。
やがて男は望夢たちの前の棚に商品を補充し終わると、二人を見て怪しさ抜群の営業スマイルで言った。
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
男は、表の壁と同じトリコロールカラーのエプロンをしていた。胸に着けた名札を見ると、〈店長 永田〉と書いてあった。
男――永田は望夢と高橋をひと目見て、さっきの営業スマイルとは違う、人懐っこそうな笑顔で言った。
「今日が初めてのお客様かな? 良かったらこれからもどうぞご贔屓にね」
「え? どうしてぼくたちが初めて来たってわかるんですか?」
今の四国にはガーディアンズ関係者しかいないが、それでも小さな町ぐらいの人口はある。それを一人残らず憶えているとでもいうのだろうか。
「わかるよ。だってキミたち、この店に入った時に人の多さにびっくりしてただろ?」
「そりゃあまあ、誰だってびっくりするでしょう。コンビニにこれだけ人が入ってたら」
「そう、誰だって驚く。けどそれは最初の一回だけだ。四国にはコンビニはここしかない。だからみんなここに集まる。そう頭では理解していても、実際この目で見るまでは本当の意味で理解していない」
確かに、と望夢と高橋は同時にうなずく。
「だから一度見てしまえば、二回目からはどうということはない。ただの混んでるコンビニだ。実際、たいていのお客様は、二回目からは普通にこの流れに乗って買い物を楽しんでいるよ」
極端に人が多いという点を除けば、確かにここはただのコンビニだ。人の流れを良く見てそれに乗れば、窮屈ではあるが普通に買い物ができる。懸念していた商品の数も、永田の魔法のような陳列で解決されているようだ。
しかし、ふと疑問に思う。
これだけの集客が見込めるなら、何もコンビニにこだわらなくても良いのではないか。もっと広い店舗を借りて、スーパーのようにすれば儲かるのに、と望夢は素人ながら考える。
望夢の疑問に、永田は僅かに眉を寄せる。
「そりゃあね、他にライバルがいない四国なら、もっと大規模な店が出せるし儲かるだろう。でもね、私はコンビニが好きなんだ」
「はあ……」
「私はね、コンビニの狭さが好きなんだ。狭小地ゆえに限定される品数。何を仕入れ、何を仕入れないかの選択は、どれだけお客様のニーズを理解しているか試されているようじゃないか。つまり店側の腕の見せ所だね。それに狭いがゆえに、お客様との距離も必然的に近くなる。大型量販店だと店員を探すのにひと苦労だが、コンビニならすぐ声が届く距離にいる。この近さが、コンビニの武器だと私は思うんだよね」
「……なんか語り出したぞ」
このオッサンどれだけコンビニが好きなんだよ、と二人が思っていると、
ざわ、と突然店内がざわめいた。
見ると、さっきまで川の流れのように緩やかだった人の波が変化し、一箇所だけぽつんと空間ができている。
突如開いた空間には、二人の男が立っていた。周囲の客たちは皆、その男たちには触れてはいけない決まりでもあるかのように、一定の距離を取っていた。
一人は高橋と同じくらいの長身だが、髪がほとんど白くなっていて、左手に杖を持っている。しかし背すじの伸びた立ち方と目から溢れる知性の光のおかげで年寄りという印象はない。スーツの上に白衣を着ていることから、ガーディアンズの研究職の人だろうか。
もう一人は背格好は同じだが、髪は黒々としているし、鍛え抜かれた全身からエネルギーが満ち溢れているのを感じる。こちらはガーディアンズの制服を着ているが、制服に着られている望夢たちとは違って制服を着こなしている。どうやら先輩のようだ。
「……誰?」
望夢の問いに、永田が答えた。
「あれは松山さんだね」
「松山って?」
「知らないのかい? ガーディアンズなのに勉強不足だね」
「俺は知ってるッス。松山道後――ガーディアンズ創始者にして、DSDの開発者。そしてその一人息子の松山丈――モウリョウ討伐ランキング一位、ガーディアンズ最強のソロファイター」
「ランキング一位。あれが……」
期せずして自分の理想像のような人物を間近で見て、望夢が溜息のような声を上げる。
実力さえあればソロでもモウリョウと戦えると話には聞いていたが、まさか本物を目の当たりにできるとは。
望夢が羨望の眼差しで見つめている間も、松山親子はそれぞれが手にしたカゴに大量に菓子を放り込んでいた。
「……意外と甘党なんだ。なんかイメージと違う」
「あの二人はね、い~いお客さんなんだ。いつもああやって、カゴいっぱい商品を買ってくれるんだよね」
「いつもって、常連スか」
「そうだね。ほとんど毎日来るね。まあお父さんはガーディアンズ創始者の一人だし、息子さんはトップランカーだから、二人ともさぞかし沢山貰ってるんだろうね」
そう言って永田はにやりと笑い、右手の人差し指と親指で輪っかを作る。
「いやらしい顔してるなあ」
じとっとした目で永田を見る望夢。その視界の端で松山親子は、棚の中の菓子を手に取っては、まるで生まれて初めて見るような物珍しそうな顔をしては、次々とカゴに放り込んでいた。




