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【第2話】友情発生計画 ②

 前回のあらすじ。

 惚谷さんには昨日の保健室での記憶が残っていた。 


 どうやらシリウスはとんでもない爆弾を置いてきたらしい。

 彼を見ると諦めたように肩を竦めている。

『ま、まぁ約束通り図書室での記憶は消しているからな。我は悪くないぞ』

『そこは空気読んで何とかして欲しかったんだけど』

 とはいえ私も空気を読めない方なのであまり責められない。

 伝達魔法で話している間も惚谷さんは私の答えを待っている。

 彼女に記憶があるなら言い訳すると怪しまれてしまうかもしれない。

「ええと……そう、だったかも?」

 曖昧に答えると彼女はぱぁっと華やぐような笑顔を浮かべた。

「やっぱり? だと思ったんだよねー!」

 柔らかい両手で手を包み込んでくる。

 距離が近くて可愛いせいですごく緊張する。

 私、手汗とか出てないかしら。大丈夫よね?

「日鳥さん、本当にあんがとねー!」

「あ……いえその、全然いいんだけど……」

 罪悪感がすごい。どちらかというと巻き込んだのはこちらだ。

 もう原因は私だと素直に切り出そうか迷っていると、惚谷さんは不思議そうに訊ねてきた。

「でも、どうして助けてくれたん?」


 小首を傾げる惚谷さんを前にして私は途方に暮れていた。

 全部吐いて楽になってしまいたいけど、そのためには悪魔の事を全部話さなければならない。

 そういえば、彼は他の人に存在を知られても大丈夫なのかしら?

『ねえ、悪魔くん。どう答えたら……』

 助けを求めてシリウスを見ると、彼は雀を撫でようとしたのか指を突かれていた。

 えっ何やってるのこの人。

『ちょっと、なんで雀と遊んでるの。どういうキャラを目指してるのよ?』

『ハハハハ、遊んでいるように見えるか? こやつから一方的に攻撃を受けているだけだぞ。……はぁ、愛らしい小鳥に嫌われるとか我もう帰りたい……』

『還っちゃダメでしょ、この状態で置いて帰ったら一生恨むからね!』

 雀に拒否されて本気で落ち込んでいた。

 この人どれだけメンタルが弱いんだろう……。

「だってあのまま放っておけなかったから」

 とりあえず自分の気持ちだけ正直に伝えると惚谷さんは急に頬を叩かれたような表情になった。

「……そっかー」

 あれ? と違和感を覚える。

 眉を八の字にした笑顔はいつもの彼女のと印象とはかけ離れていた。


 今の惚谷さんはいつもおりどこか大人びて落ち着いて見える。

 だけどそれは一瞬で、瞬きをしたら惚谷さんはいつもの明るい笑顔に戻っていた。

「……惚谷さん?」

「ん? あー、ぼーっとしただけだから気にしないで! ね、もうひとつ聞きたいんだけど、あの人日鳥さんの恋人だったりする?」

 いきなり予想外の質問が飛んできたんだけど。

「え?ええと……その、ただの知り合いよ」

 本当は悪魔と仮の契約者だけど。

 余計な事を考えている間にも、惚谷さんは話を続ける。

「ホント!? 実はアタシあの人のこと気になるというか……好きになっちゃったみたいなんだよねー」

 ああ、なるほど。それなら呼び出しも納得だ。

 惚谷さんに気になる人がいるなんて教室で言ったら間違いなく噂になるし。

「それでよかったら紹介して欲しいんだけど……ダメかな?」

 顔を赤らめながら手を合わせる様子は、同性の私でも見惚れるぐらいに可愛らしい。

 だけどどうしたらいいんだろう。

 もし彼女とシリウスが付き合ったとしても、彼は契約を終えたら魔界に還ってしまう。

 そう説明しようにも本当の事なんて言えるはずがない。

『悪魔くん、ピンチなんだけど。一体どう答えたらいいかしら』

 視線を動かしてシリウスを見ると、彼は満更でもなさそうに髪をいじっていた。

『ハハハハ、我に惚れるとは見る目があるではないか! 色男は困ってしまうな!』

『こんなときに色ボケするのやめてくれる?』

 落ち込んでしまったけど怒った私は悪くないと思う。

『とりあえずあなたのことは他の人にどこまで話していいのかしら?』

『……さすがに無暗やたらに話されると困るのだが、貴様が友人になりたい相手に収拾のつけられる範囲なら大丈夫だろう』

 問題はなさそうだけど、こちらから言うのもよくなさそうね。

「問題ないわ、たまに遊びに来る遠い親戚なの」

『えっ』

 シリウスが不服そうな目でこっちを見てくる。

 そんなに変な設定はつけてないはずなんだけど……。


「いいの!? よかったー! もし日鳥さんと付き合ってたら失礼じゃん、って思ってたから超安心した!」

 惚谷さんが顔を赤くしたまま大きな胸に手を当てながら息をついている。

 えっ、あの。恋仲ではないから大丈夫って意味なんだけど。

 もしかしてこれ誤解されてない?

 シリウスを見ると、困惑した表情でこちらを見ている。

『生贄よ。我は会ってもいいとは一言も言っていないのだが』

 やっぱり紹介するって意味に聞こえる言い方だったのね!

 どうやらまたやらかしてしまったらしい。

 慌てて訂正する前に、惚谷さんが嬉しそうに抱きついてきた。

「あんがとー! 正直無理だと思ってたからホントに嬉しい!」

 あれ、もしかしてこれ詰んだんじゃないの?

 ここから断るのって不可能なんじゃない?

 惚谷さんの肩越しに縋るような気持ちでシリウスを見ると彼は諦めたような目をしながら頷いた。

『まぁ良い。明日にでも人の姿に化けて会ってやろう』

『えっ、いいの?』

『ここで断るのは難しいだろうからな』

 苦手な変身をしてまで会ってくれるなんて、これはあとでお礼を言わないと。

「ええと、その……ちょうど明日遊びに来るんだけど、惚谷さん放課後の予定は空いてるかしら?」

「明日?……うん、大丈夫!」

 そこではた、と思い当たる。

 もしデートがしたいなら、私がいたら邪魔だろう。

 というか友達というより仲介人みたいになっているような。

「じゃ、じゃあ明日の放課後、こっちに来るように言っておくわね。彼が来たらまた教えるから……」

 邪魔者は消えようと後ろに下がると、袖口を引いて惚谷さんに止められた。

「まって! よかったら日鳥さんも一緒に遊ばない?」


 意外な誘いに思わず固まる

「……え?」

「あーほら、実はアタシ男慣れしてなくてさ。一緒にいてくれるとすっごい助かるんだよねー。……ダメかな?」

 そんなに困った顔で聞かれるとさすがに断れないんだけど。

 そうじゃなくても私のせいでシリウスを巻き込んでしまってるし……。

「じゃ、じゃあ折角だしお邪魔しよう……かしら」

 返事を聞いて惚谷さんは花が綻ぶような笑顔を浮かべた。

「ほんとに? やった楽しみー! あ、そうだ!」

 惚谷さんはスマホを手に持ったまま近づいてきた。

「日鳥さん、ID交換しよ!」

 突然の出来事に驚いて、震える指でスマホを取り出す。

「え、ええ……その」

 こういうときは何て言ったらいいんだろう?

 よろしく? 嬉しい? ありがとう? ここで悩む辺り私って相当ヤバいのかも。

 色々言いたいことはあるけど、一番伝えないといけないことは。

「このアプリ使ったことないんだけど、どうしたらいいのかしら」


 * * *


「つ……疲れた……」

 帰宅早々、私はソファにうつ伏せに倒れ込んでいた。

 あの後、惚谷さんに教わってアカウントを作り無事にIDを交換する事が出来た。

 クラスメイトとこんなに話したのはいつ以来だろう。

「……すごい流れであなたを巻き込んじゃったわね」

「気にするな。良かったではないか。またとない機会だぞ」

「それはそうだけど……私はオマケでしょ?」

 あれから魔法でシリウスに自分のスマホを作って貰ったけど、最初からその番号を教えていたら私は必要なかったと思う。

「ハハハハ、偏屈なやつめ! ……まぁ、一度偏見を取り払ってしっかり話してみるがいい。あの娘、貴様が思っているような相手ではないかも知れんぞ?」

「それってどういう意味?」

 なんだか含みのある言い方だ。

 上体を起こして聞いてみても、シリウスは買って来た食材を並べていて答えない。

「まぁ……そうかもね。ええと、悪魔くん?」

 こっちを向かないけど、話を聞いているのは気配でわかる。

 顔を俯けて慣れない言葉を口に出す。

「その、さっきは助けてくれてありがとう。迷惑をかけると思うけど頼りにしてるから……明日はよろしくね」

 笑いながら調子に乗ると思ったけど、反応が全く返ってこない。

 振り返ると彼は後ろ向きに立ったままプルプルと震えていた。

 笑いを堪えているのだろうか。

「ちょっと、笑わないでよ。……もう、これだから慣れないことはしたくないのよ」

 無性に恥ずかしくなって、倒れ込んでクッションに頭を沈ませる。

 同時に頭の近くで着信音が鳴った。

 スマホを見れば惚谷さんからメッセージが届いていた。

『今日はありがとねー! 超たのしみ! オススメの場所があるから一緒にいこーね!』

 可愛い猫のスタンプつきのそれはなぜかキラキラと輝いて見える。

 綻ぶ顔をクッションで隠して返事を考える。

 散々悩んだ末に短い返事とありふれたスタンプを選んで送信した。

 明日の放課後は一体どうなるのか、不安しかないけれどとても楽しみだった。

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