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【第2話】友情発生計画 ①

 翌日の朝、窓から差し込む光で目が覚めた。

 軽く伸びをしながら昨日の事を思い出す。

 私は昨日の放課後に図書室で一冊の本を見つけた。

 棚に戻そうとすると突然本から魔界の大悪魔シリウスが現れた。

 彼は人間の願いを叶える対価に契約者の一番大切なものを貰いうために人間界に来たらしい。

 最初は契約できないなら魔界に還る気でいたらしいけど……。

 魔界に還れなくなったらしい彼は契約を終わらせるまで家で暮らすことになったのだ。


 リビングに行くと昨日とは若干姿の違う彼がいた。

 昨日とは違ってトレードマークの黒い角と翼が生えていない。

 銀髪と赤目の整った容姿はそのままだけど、肌は人間と同じ色で耳も尖っていない。

 人間離れした美貌以外はまるで人間そのものだ。

「おお、ようやく起きたか、生贄よ」

 朝から嬉しそうに笑いかけてくる。

 朝の挨拶なんて何年もしていなかったから妙に緊張する。

「ええ、その……おはよう。悪魔くんで合っているのよね?」

 どうしたの、と聞く前に彼は得意げに胸を張った。

「近くにいて違和感のないよう人の姿を真似てみたのだ。貴様が人間関係に前向きになるのはいい事だからな。」

「まさかそこまでしてくれるとは思わなかったけど……これだけ姿を変えて身体に負担が掛かったりしないの?」

 人間の姿に変身しているということは常に魔法を使い続けているということだ。

 悪魔の魔法がどうなっているのかはわからないけど負担なのは間違いないだろう。

「安心しろ。我は他の悪魔より魔力量が多いのだ。この程度で堪える程ではない」

 彼曰く、魔力量が多いほどより多く高度な魔法が使えるそうだ。

 彼ら悪魔は常に格に応じて魔界の魔力を供給しており、加えて強力な悪魔は自分の体内で魔力を生成できるらしい。

「まぁ元の姿が落ち着くのは間違いないが……実を言うと我は昔から姿を変える魔法だけは苦手でな。だがこうして習慣づければじきに慣れるだろうよ」

 人間界に来た以上この姿を取るのも悪くないしな、と笑っている。

 それを聞いて安心した。

常に後ろ向きな私と違って彼はいつも前向きな気がする。

「さて。今日もまた学校に行くのだろう? 私も姿を隠して着いて行くので、さっさと準備を済ませるのだぞ」

「ええ。ただ無理はしないでね」

 長い説明を理解したせいか急にお腹が空いてきた。

「その……簡単なものでよかったらあなたも朝食食べるでしょ?」

 そういうと彼はぱっと顔を輝かせながら頷いた。


 * * *


 話しながら食事をしたせいかいつもより遅い登校になった。

 窓際の自分の席に移動して荷物を下ろす。

 ちなみにシリウスは周囲には姿を消して窓枠に腰掛けている。

 会話はテレパシーのような魔法で行えるので口を動かす必要はない。

『ん? なぜ学友と挨拶をしないのだ』

『……別にいいのよ。向こうも急に挨拶されたりしたら迷惑でしょう』

 不思議そうなシリウスを見て自分が学校でも孤独なのだと思い知る。

 用事があれば話すものの私とクラスメイトはお互いに朝の挨拶はしない。

 お互いに無関心というか、いてもいなくてもあまり変わらないのだ。

『というか、昔は頑張って話しかけてたのよ? だけど致命的にタイミングが悪かったの』

 これでも中学までは努力をしていたのだ。

 だけどどれだけ努力をしてもなぜか裏目に出るばかりだった。

 話しかけたせいで相手が飲み物をこぼしたり、なぜか話しかけようとしたら相手が足を滑らせたり。まるで友達を作るのを邪魔されているとしか思えないほどに。

 私の話を聞いてシリウスは思い詰めたように顎に指を当てた。

『そうだったか。それはすまなかったな』

 ……そこまで気を遣われると逆にヘコむんだけど。

 悶々としていると予鈴が鳴った。


 始業ギリギリに急に教室が賑やかになった。

 楽しげな声のする方に目を向けると、登校した惚谷さんが集まった生徒たちと挨拶を交わしていた。

 綺麗に手入れされたウェーブヘアに大きな瞳の目立つ小さな顔。

 すらりと細身なのに女性らしい抜群のスタイル。

 明るい笑顔は今日も華やかで可愛らしくて自然と目が引き寄せられる。

『ああ、昨日の娘だな。確かほれ……何だったか』

『惚谷美恋さんね。やっぱり今日も可愛いわ』

『……我の方が可愛いのだが』

『どんな対抗心よ。なんで悪魔の男性が女子高生と張り合うのよ』

 遠くから見惚れていると、いきなり惚谷さんが右手を振って近づいてきた。

「日鳥さーん! おはよー!」

「えっ? お、おはよう……」

 突然の事に思わず声が裏返る。

 頑張って話しかけようとは思っていたけど、まさか向こうから声を掛けてくるなんて思わなかった。

 いつも誰とも話さない私と彼女が話すのをクラスメイトたちが不思議そうに眺めている。

 確かに珍しいと思うけど一番不思議に思っているのは私だ。

 昨日私と図書室で出会った記憶は消されているはずなのにどうして挨拶されているんだろう。

 視線に怯みながら考えている間に惚谷さんの可愛い顔が至近距離に迫っていた。

 近い、近い!

 どうしてカースト上位ってパーソナルスペースが狭いのかしら。

 戸惑っていると屈託のない笑顔を向けられた。

「日鳥さん。今日の昼休みって予定ある?」

「ええと、特に無いけど」

「よかったー! じゃあアタシと一緒にお昼食べない?」

 返事に困っているとシリウスに軽く頭を抑えられた。

『わ、ちょっと何するの』

 シリウスは抗議する私に満足げに微笑んで、惚谷さんを指差した。

「やった、あんがとー! 四限目終わったら迎えにくるから!」

 キラキラと眩しい笑顔を浮かべて惚谷さんは席に戻ってしまった。

これは多分了承した流れだ。本鈴が鳴って先生が入ってきた。

『どうだ生贄よ。我のサポートは完璧であろう』

『もう魔法でもなんでもないわね。……ねえ、悪魔くん。今のは別として、これも昨日みたいにあなたの仕業なの?』

 彼は首を横に振る。

『いや、我は何もしておらんぞ。しかしこれはチャンスではないか。我もついて行ってやろう。しっかりと友人をゲットするがよい』

 上機嫌なシリウスを横目に見ながら、私は漠然と嫌な予感を抱いていた。


 * * *


 昼休み。わたしは惚谷さんに連れられて旧校舎の屋上に向かっていた。

「いい天気! やっぱ晴れた日は屋上だよねー」

 彼女の言う通り、今日はとても日当たりがいい。

 足取り軽く歩く惚谷さんの後姿を見ながら、私は疑問に感じていた。

「でも、うちの屋上は生徒が入れたかしら?」

「ホントは入っちゃダメなんだけどー、実はこっそり入ってるんだよねー」

 そう言うと彼女は器用にヘアピンを捻じ込んで鍵を開けてしまった。

 俗に言うピッキングだ。

「それってバレたらまずいんじゃ……」

「バレたことないから、へーきへ―き」

 心配する私とは対照的に、楽しそうに笑いながら空を眺めている。

 ピッキングも屋上を選んだのも何だか意外だ。

 惚谷さんはいつもまっすぐで誰かと一緒にいるイメージしかない。

 どちらかというと不良や私みたいなタイプのやりそうなことなのに。

「ここが一番いい眺めなんだよねー。ここにしよ?」

 並んで座ると惚谷さんがお弁当箱を取り出した。

 私も昼食を取り出して両手を合わせる。

 お互いに食べ終わった頃に惚谷さんが切り出してきた。

「今日は突然誘ってごめんねー。迷惑だった?」

「いえ、そんなことは……。もしかして私、何かしてしまったのかしら」

 正確には間違いなくやらかしてしまっているんだけど。

 誰かとお昼を食べるのに慣れていないのもあってドキドキする。

 相手の出方を窺っていると、惚谷さんは面白そうにひらひらと手を振った。

「あはは、そんなわけないじゃーん。実は日鳥さんに聞きたいことがあるんだよね」

「私に? なにかしら」

「実はアタシ、昨日貧血で倒れたみたいでねー」

 ギクッとして背筋が伸びる。

 まさか知ってるなんて言えないので続きを待つ。

「気づいたら保健室にいて、起きたらコスプレっぽい格好のイケメンがいたんだー。で、その人が去り際に日鳥さんの名前呼んでたんだけどー……」

 もしかして彼女の記憶は完全に消えていなかったの!?

「それでもしかしたらあの人と一緒に日鳥さんが助けてくれたんかなーって思ったんだけど……、合ってる?」

 嫌な予感が的中した……!


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