デートの誘い
初めて見つめ合った時以来、彼は私に興味
を持ったみたいで、時々話しかけて来る。
だけど、私はなるべく取り合わないように
してる。
て言うか、成樹君の前では、妙に緊張して
上手く自分が出せない。
それに『女ったらし』とか『男娼』とか、
彼の悪い噂を色々と耳にしてたから怖いの
もある・・・。
ハッキリ言って私、成樹君のことが好き。
好き過ぎて頭がおかしくなりそうなほど。
だけど容姿もいたって平凡なこんな私と、
成樹君とじゃ釣り合わないと思う。
だから去年、成樹君から初めてデートに誘
われた時も断った。
私たちはその頃、高校生活にもだいぶ慣れ
て来てた。
学校や通学路で会った時なんか、成樹君と
挨拶くらいはするようになってた。
クラスでも必要な時は話してた。
だけど個人的に会話したのは、あの時が初
めて。
◇◇
あれは五月のゴールデンウィーク前、新緑
が眩しい季節だった。
お昼休み。
校舎の三階の渡り廊下ですれ違う時、彼が
いきなり話しかけて来た。
「絵子さん、今度の連休、良かったら俺と
ディズニーシーに行かない? バイト代出
たし、俺が奢るからさあ」
って、成樹君が声をかけて来たの。
私は嬉しくて気絶しそうだった。
でも何て答えれば良いのか分からなくて、
私は成樹君を見上げ、ただ押し黙ってた。
頭の中に色んな考えが渦巻いてた。
「どうした?」
って、成樹君が怪訝そうな顔をしたの。
だから、私は慌てて答えた。
「悪いけど、無理」
自分でもビックリするくらい、キッパリと
した冷たい声だった。
あの時の成樹君の表情が、今でも目に焼き
ついてる。
彼の形の良い眉毛がピクピク動いてた。
痛くフライドを傷つけられたような顔。
「そっかー都合が悪いのかあ。だけどお前
なあ、そんなにツンケンすんなよ。まあ良
いや、またそのうち誘うからな、今度は断
んなよ!」
って言いながら、成樹君は肩を落として、
去って行った。
「ごめんね、成樹君」
って、私は小さく呟いたの。




