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成樹くん
もう直ぐこの道を、成樹君がサイクリング
自転車で、サーッと通り抜けるはず。
豊かな頭髪をなびかせて。
私はドキドキしながら歩を進める。
運が良ければ、今日も彼に会えるはずだ。
私は家が近いから徒歩通学だけど、
成樹君は自転車通学。
彼はギリギリで登校して来るから、朝は会え
ないけど、帰りは時々一緒になる。
この通学路は住宅街の中にあって、道幅は広
いけど、人通りが少ない。
成樹君は私を追い越す時、いつも一声かけて
くる。
大体はからかって来る場合が多い。
さっそく背後に成樹君の気配を感じ、
私は全身を緊張させた。
軽快な車輪とチェーンの音が聞こえる。
「おい絵子、背中に何か付いてるぞ。それ
鳩のフンじゃねえか?」
彼は笑いながら、シャーッと私の横を自転車で通り過ぎて行った。
「えっ?」
私は動揺しながらセーラー服の背中を見ようとする。でも鏡がないと見れる訳ない。
どうせ嘘に決まってる。
私は動揺した自分が許せない。
通りの角を曲がる時、彼はウィンクしながら私に軽く手を振った。