#6 賑やかになる部屋
開かれた扉の前には、柔らかなウェーブがかかった薄紫色の髪を腰辺りまで伸ばしている女性と、顔を大きな紙で隠した少年────否、少女とも言える子がいた。
その大きな紙の真ん中には、何か顔文字の様な物が描かれていた。
『……はあ、全く大変でしたわ………』
薄紫色の髪の女性は深々とため息をつきながら呟くと部屋に入り、顔を紙で隠している少年も後に続く。
薄紫色の髪に良く映える、赤い双眸を持つ女性の名は、実験番号010。
コードネームはイザベラ。
そして顔を真っ白な布で隠している少女の名は、実験番号005。
コードネームはライア。
ライアはイザベラのため息を気にも止めず、ミロワールの隣に腰掛け、ルシエはどうしたのかと首を傾げたのだった。
『私は死体を処理しようとしたのですけれど……ライアがそのまま帰ろうとしたのですわ……』
「……別に、死体の処理はしなくてもよろしいのでは」
『私の気が収まりませんわ?』「イザベラは妙にゃ所で細かいにゃあ……」
ルシエが首を傾げている事に気付いたイザベラは、ため息をついた理由を述べる。けれど、死体の処理に関しては特に指定されていない為、ルシエはそう答えた。
だが、几帳面な方であるイザベラにとってそれは嫌らしく、そう言葉を返し、2人の会話を聞いていたのかブランカは小さく呟くのであった。
「………なんで、そんな事にこだわるのか分かんないって、ライアが言ってるよ?」『………………』
会話をライアとミロワールも聞いていたらしく、ミロワールがライアの代わりと言わんばかりにそう答える。
何も話していないライアの顔は、布で覆われていて何も見えないが──その布には先程の顔文字と違い、クエスチョンマークを浮かべる顔文字が浮かんでいた。
どうやらその顔文字からライアの考えている事が分かったらしい。
ミロワールの言葉を聞き、ライアはその通りだと表すかの様に頷いていた。
「淑女として当然の事ですわ?」『淑女はまず、人を殺さないと僕は思うなあ……』
「し、仕方ないでしょう? 私達は普通の人とは違いますもの」
イザベラは代弁したライアの言葉に答えるのだが、苦笑しながら呟くヴォルペの言葉に顔を赤らめる。
そんな会話や自身の武器の手入れをしたりと、人が増えた部屋は騒がしい事になってゆく。
────だが、数刻が経ち、突如として開かれた扉の向こうを見、皆一斉に口を閉ざしたのであった。
扉の前に佇むのは、白衣を着た男性。
そして、彼の近くには白と桃色を基調としたドレスを着ている幼い少女の姿があった。
『──────アイ!』
ユウは少女の姿が目に入った途端、彼女の──妹の名を呼び、立ち上がると直ぐに彼女に近付く。
「おにーちゃん……!」
少女もユウに近付くと、彼を兄と呼び、彼に抱きつく。
彼女の名前は実験番号007。
コードネームはアイ。そして、ユウの妹である。
「おにーちゃん。ブランカちゃんと、けんかしなかった……?」
『…………したな』「もーっ……! おにーちゃんあやまって……!」
アイは顔を見上げ首を傾げながら問いかけるが、ユウが答える前にドゥンケルハイトが呟く様に答え、彼は舌打ちをする。
その舌打ちが聞こえたのか、アイはユウの腕を軽く叩き頬を膨らますと、そう述べるのであった。
『……………わりぃ』「………わ、私も……その……わるかった………にゃ……」
しぱしの沈黙があった後、ユウはぼそりと聞こえるか聞こえないかの声量で謝り、ブランカも渋々とだが謝罪の言葉を返す。
そして、それが終わると白衣を着た男性が1度手を叩くと辺りは一斉に静かになり皆、男性の方に視線を移す。
「────さ、今日の任務の結果と、これからの事を話そうか」
男性は皆がこちらを向いている事を確認し、控えめな笑みを浮かべながらそう述べた。