#4 瞳を綴じた青年
扉の前には、部屋にいる少年少女達とは違う洋服──東洋の国にある着物を着ている青年が立っており、彼は目蓋を綴じていた。
「────009」
ルシエは扉の前に立っている青年の番号を呼び、"009" と呼ばれた彼は声が聞こえた方を向くと柔らかな笑みを浮かべた。
その際、青年の頭の上では髪の色と同じ銀の狐の様な耳が揺れ、着物から見える耳と同じ色の大きな尻尾はゆらりと揺れる。
まるで青空の様な蒼の着物を着ている青年の名は、実験番号009。
コードネームはヴォルペであり、彼は滅多な事がない限り、普段は瞳を綴じているのであった。
『また喧嘩をしていたんだろう。そんなにしていると、また博士に怒られてしまうよ』
自身に近付き手を差し伸べてくるドゥンケルハイトの手を取りながら、彼はユウとブランカが居るであろう方向に顔を向け、そう声をかけた。
彼は2人が喧嘩をしている際には、この部屋に居なかったはずなのに、だ。
それについての疑問は無いのか、その言葉で2人は罰が悪そうな顔をし、ヴォルペはルシエの近くまで歩き、壁に寄りかかる様にして座り込むと、優しげな笑みをドゥンケルハイトに向ける。
『……本当、その場に居ないのに良く分かるよなぁ…………』
『この耳のお陰で、遠くからでも聞こえるからね。ドゥンケルハイト、手を貸してくれてありがとう。何時も助かるよ』
『別に礼はいらないよ、私の好きでやってるんだからさ』
ドゥンケルハイトは彼の手をそっと離すと、先程の言葉を思い出し呟いたのだが、ヴォルペはそれが聞こえたらしく自分の頭にある大きな狐の耳を指差しながら述べる。
──先程の2人の喧嘩の声を、その狐の耳が捉えたのだろう。
改めてドゥンケルハイトは心の中で感嘆し、礼を言ってきたヴォルペにそう返すと元の位置に戻っていったのだった。
『──────人が集まってきたね』
段々と部屋に人が集まりだし、各々違う事をし、賑やかになっていく声を聞きながら、彼は近くにいるルシエにそう声を掛ける。
「えぇ、そうですね」
ルシエも各々違う事をしている彼女達を見つめながら、ヴォルペの声掛けにそう答える。
『相も変わらず、ルシエは淡々としているね。……それより、着替えなくていいのかい?血の匂いがする。君が任務で怪我なんてした事は滅多に無いから、大方相手の返り血だろう?』
「………あぁ。忘れていました」
『君が忘れるなんて珍しい事だね。今回の相手は大変だったのかい?聞かせておくれよ』
「あ、それ私も聞きたいにゃあ! アリスも行こうにゃあ!」「う、うん……!」
淡々と答えるルシエに、僅かに微笑みを浮かべながら、彼は先程からルシエが纏っている血の匂いから判断すると首を傾げる。
ルシエは自身の真っ白なドレスに視線を落とし、新しいドレスに着替えていない事に気付くと機械の様に淡々と答えた。
普段は忘れていないというのに、今回は着替えるのを忘れてたと述べるルシエを少し驚いた顔で見つめたのだが、任務が手強かったのかと推測し、今回の任務の話を聞こうとする。
だが、ルシエが話す前に2人の会話が聞こえていたらしくブランカが目を輝かせ、アリスの手を引き、2人の近くまで近寄るとその場に座り込む。
ブランカは早く聞きたいのか尻尾を動かし、目を輝かせ、半ば強引に連れて来られたアリスも満更ではないのかスカートから見える大きな灰色の尻尾を僅かに揺らしルシエが話しだすのを待っていた。
早く話し出した方が良いだろうと感じたルシエは、口を開き話し出そうとするのだが────
「ただいまー!!」
突如として耳に入った明るい声に、その声はかき消されてしまうのだった。