#2 実験番号001
扉を開けると、そこには広い部屋の真ん中に黒の簡素なローテーブルが置かれ、その周りに数人の少年少女達が寛いでいた。
けれど、扉を開けたのが誰なのかを皆一斉に扉の方を向き、少女を見る。
『お、おかえりルシエ！ 今日も早かったな！』
そして少女を見た途端、1人の少女──扉の前にいる彼女とそっくりな少女がそう声をかける。
その少女は彼女──ルシエと呼ばれた少女と瓜二つで、一目で彼女達が双子だと理解出来る程だった。
そんな彼女は、声を掛けた少女をちらと横目で見た後、何も言わず通り過ぎ室内に入る。
それは何時もの事らしく、少女は困った様に微笑むと閉まりきっていない扉を閉め、近くの床に腰掛けた。
ルシエと呼ばれた少女の名は、実験番号001。
彼女のコードネームがルシエなのだが、ここでは誰もが本名ではなく、コードネームを名乗る様になっている。
そして、001から010まである実験番号は彼女達の強さを表し、001が実験番号の中で1番強いのだ。
そして、ルシエとそっくりな少女の名も実験番号001。
コードネームはドゥンケルハイト。
彼女の見た目はルシエそっくりなのだが、ドゥンケルハイトはルシエと違い、闇の様に真っ黒なドレスを身に纏っていた。
────そして良く見れば、彼女の金の髪はルシエよりも色が暗く。その蒼の瞳はルシエよりも明るく、例えるのなら月の出ている夜空の様な蒼色なのであった。
『──さ、これで今日の賭けは決まったな？ 今日は私とアリスの勝ちだ！』
扉を閉めた音が部屋に響くが、その音をかき消すかの様にドゥンケルハイトは明るい笑みを浮かべ、そう言葉を紡ぐ。
ローテーブルの上には、チョコレートや飴といった様々なお菓子が置かれていて。彼女の声と共にそのテーブルの近くに座り込んでいた少女が寝転び、その少女の隣に座っていた女性はお菓子を手に取ると立ち上がり、ドゥンケルハイトに近付くとその数個を手渡す。
「うにゃあぁ！ また負けたにゃあぁ！！ ルシエ、次は遅く帰ってきてにゃあ！！」
床に寝転んだ少女は、見た目は14歳程度なのだが、まるで幼い子供が駄々をこねる様に手をじたばたと動かしながら叫び、ふいに身体を起こすとドゥンケルハイトから離れた場所に腰掛けるルシエに向かってそう言葉を発する。
「……また、賭けをやっていたのですね」『だって任務がなきゃ暇だにゃあ！！』
ルシエはその声に臆せず、機械の様に淡々とした口調で呟くが、その声を聞き取れたらしく、また少女は叫び今度は足をばたつかせる。
寝転んだ為に、床の白さと同化しそうな程の白い髪が広がり、頭の上では動物の──猫の耳がぴょこぴょこと揺れていた。
まるで猫の鳴き声の様に語尾に、にゃあを付け、日の出ている空の様に明るい水色と、それとは正反対の夜空の様な青のオッドアイの瞳を持つ少女の名は、実験番号004。
コードネームはブランカ。
彼女の見た目はごく普通の少女なのだが、頭についている髪と同じ色の白い猫の耳と、長い尻尾がブランカの動きに合わせてゆらりと揺れ動いており、その事から彼女は人間ではなく妖怪の類である事が理解出来た。
「ちなみに今日はどんな賭けを？」
『どっちが任務から先に帰ってくるかにゃあ……私のお菓子…………』
どうやら先程、女性がドゥンケルハイトにテーブルのお菓子を渡していた事から、そのお菓子が賭け物だったらしく、ルシエはブランカに賭けの内容を尋ねる。
ブランカは頬を膨らませ、不貞腐れた顔になりながらも内容を答え、賭けに負けた事によって自身の元から無くなってしまったお菓子を思い出し、また足をバタつかせたのであった。
