はじまりのおわり
授業中夢の中でも僕は僕自身で日常となんら変わりない生活をしている、よくそんな夢をみる
せめてロックスターだの総理大臣だのそういう非日常的な追体験したいものだ
「田中起きろ」
「はいよ」
どうやら白羽の矢がたったようだ、いつものことだ
僕が犠牲者として決まって注意を受けるのだ、なぜだろう?
そうして一部の同罪のクラスメイトも目を覚ますわけだ
「よ、は余計だ」
「先生それは冗談ですか、冗談はよしてくださいよ」教室からどよめきが起こる
「よ、は余計だ。授業後先生のとこにきなさい」平坦な口調
「はい」
どうやら冗談が通じないらしい、なんてことはないさ
僕の席は窓側で前から3番目、自分としては最高のリッチ条件
黒板のチョークの文字よりよっぽど3階の校舎からみえる、とどまりの、いやとりとめのない風景のほうがよい。退屈しのぎにいい。
海から丘陵へ急斜面に沿いにはうように建物がひしめきあっているので、
見晴らしいはいい、海が見える。人工物がこの山を埋め尽くす一歩手前まで押し寄せている、民主主義の恩恵か弊害か。山の稜線が滑稽な建物の輪郭なんてことになったら山は山でなくなってしまうのだろうか?いつもそんなことを思う
この山、山の名前なんて気にもとめなかったけどこの山にも名前があるはずだ、
あとで佐藤にでも聞いてやろう
隣接する小学校では登校ラッシュで校門で生徒を迎える先生がひっきりなしにおはようの朝の挨拶をやっている、いつものこと。
毎朝いる上下が白と紺のジャージのいでたち、体育の女教師と日に変わる先生の
二人組みだ。職員会議でそのローテーションを決めたのかもしれない
教壇の藤村が黒板けしを手に取ってきれいにふきさる
この先生は律儀というか潔癖というか神経質な感じがする、それでいて朴訥。そうしてとってつけたようにチャイムが鳴る。藤村の授業中に日直はなにかしらとくをした気分なのかもしれない。先生という愛称をつけて呼ぶべきかもしれないが、悪気があるわけではない、わざわざ内心で先生をつけるほど純ではないということ
藤村の退室に随伴するように廊下へでる
「田中、先生にむかってあの態度はなんだ」いつもの常套句
なんだとはなんだ、君(内心の声)
「はい、すいません、ただ先生を笑わせたかっただけなんですよ、別に悪気はなかったんです。先生にはちょっと不遜な態度に見えたかもしれません、すいません」
反省はしていますでも後悔はしていません
反省のいろを見せるために下にうつむく、実際のところ笑みがこぼれそうだから、
なんていやなやつなのだろう
「先生を笑わせてなんになる。そうだろ?センターに向けて大事な時期だ。
身を入れなさい、田中いつも寝ているだろ。夜遅くまで勉強している成果なのかい?」
ちゃかすというより皮肉交じりでなじってくる
「はいその通りなんです。以後気をつけます」
以後なにを気をつけるのだ?勉強と生活を両立するって意味なのか、それともなんだ?
「まぁわかればいいんだ、行きなさい」
わかってますよ、先生みたいな人にはなりたくないってことはね
あそこで、「こりゃ一本とられたよ」って冗談交じりに返せる人になれたらいいだろうよ
そうしてねぼすけさんはみんな起きるのにな
教室へ戻るとクラスメイトが何をいわれたのだって興味ありげな顔で僕をみている、
ああいつものことだ。一同注目
僕は黒板けしを手に持ち例の藤村の几帳面な黒板の消し方をまねてみる。
黒板消しを横にして上から下に念入りに振り下ろす。一同失笑
そうして席につくと前の工藤君が声をかけてきた
「おまえ最高だよ、でも災難だな」
「ああ」ああ最高だ
そうしてホームルーム、授業、授業、授業中
小学校では20分休みらしく、こどもたちがそれぞれおもうままに遊んでいる
僕はこのひと時を眺めていることが無性に好きだ
思う存分遊びなさい、回転ジャングルジムで思う存分回りなさい、のぼり棒で登りたいとこまでのぼりなさい、ボールを・・・・
20分もあれば外にでて遊べるのに、そんなこと、考えなしに外に出て遊んでいたことを思う。20分もあるとかないとか損得勘定なしに動きだしたい
今となれば20分あればなにをするだろう?快活とはそういうことだと思う
お昼休みチャイムと同時に弁当を持って教室を出る
みんなクラスメイトとぺちゃくちゃしながら昼食を済ませる、だが僕は例外だ
ちょっとしたクラスのアウトローそんな感じもまんざら嫌いじゃない
今日もいつも通り、貸切の屋上でランチタイムと気取るのだ
踊り場だけの4階に登り、屋上の門扉を開ける
「今日もやけに暑いな」そうぼやくのはいつもお先の佐藤である
この学校生活をいくぬくための戦友であり親友だ
国文部の同級で下の名前は隆という。まったくもってつまらない名前だと佐藤は言うが、僕は分相応だと思っている。縄文人と弥生人を足して2で割った、これといって特徴がない平均的な顔とでも言っておこう。ちなみに勉強のほうもどの教科をとっても過不足のない平均的な点数だ。非の打ち所がないと言えば聞こえはいいが、ようするにつまらない男
かもしれない。その判断はえてして読者のかたに委ねよう
まぁ僕のほうは勉強も運動もからっきしのアンチ文武両道の落第生なわけだが
「そうだな」愛想のない返事をすると、佐藤は制服のポケットからおもむろに煙草をとりだし火をつける
「これ」
「おう」そうして手渡された煙草と銀光するジッポライトターで火をつける
シュッシュッシュッ無機質な音が3回響く、一日一本のニコ中にならない程度の気分転換だ
「前々から言おうと思ったんだが、なんでジッポなんだ、普通に100円ライターでいいじゃないか、つけにくいし」
「そっちのほうが青春だろうが」
「普遍的な青春だ、まぁいいさ」
夏を制するものが受験を制する。そんな世話しない夏のつかのまの休み時間
雲ひとつない快晴の空に紫煙を吐く
「おまえ雲があったほうがいいと思わないか?流れる雲が。雲ひとつない風景なんて
キャンパスの中の風景画と変わりない。なんかいけ好かない大げさだけど生きてる心地が
しねえよ」佐藤とふたりの時はたいてい僕のほうから口を開く
「ああそれもそうだ、それじゃあ雲をさしあげよう」
「やめろよ、やめてくれ、副流煙でガンになるだろ、おかえしだ、ともに死んでくれ!」
「おまえと死ねるなら本望さ」
「なぁあに気障なこといってやがる、きもちわるだろ」
そうして一服を終え、たばこを落とし足底で消火する、おもむろに吸殻を佐藤に渡す
それを携帯灰皿にしまいこんだ。こういうとこは紳士的な青春なのだ
たぶん僕たちが煙草を吸うのは思春期特有の、かっこいいとか、悪に見えるとか、もてたいだとか、そういうことじゃない
やってられないのにも一利あるけれども、きっと大人になって懐古するネタがほしいのだ
、いわば思い出作り、たぶんそれが僕らの共通認識ってやつだ
青春は十代で終わるなんてすりこまれて、躍起になっているのかもしれない、たぶんまとはずれな青春だ、大人になる前にやることはやるんだ
大人になる前に
正午の真夏の強い日差しをさけるように給水等のわずかな陰に退避してランチタイムとなる
「ところで、ここの山の名前ってなんだったっけ?」おかずのせいで口ごもりながら問う
「おまえここにきて6年にもなるだろ?そんなことも知らないで、よくぞまぁ生きてこれたな。おまえにもあるように名前はあるよ、そこにある石にだって石っていう名前がある」
「ちゃかすなよ」
「小沢山っていうんだ、標高は102mだったはずだ。あとで佐々木のやつに言いつけてやろう」
「小沢さんか、人名みたいだな、小沢さんはきっと内気でちょっとおしゃれな娘さんだろうな、そうして転校してきて後ろの席で私のほうもみてよって、あなたいつも海ばかりって」
「おまえのその擬人化癖にはついていけないよ、しかしだな春には桜で頬を赤らめるよな」
「てっぺんのほうだから額だろ、季節の変わり目できっとお風邪を引くんだろ、そうしてくしゃみで花と散る」
「変なとこで細かいよな、もう小沢さんにご執心だ」
「好きな子さえできれば学校も楽しくなるのにな、小沢さんまだかな」
「現実を見ろさすれば、小沢山が見えるだろう」
立ち上がり、組んだ両腕を柵のうえにそえた
「なんてモダンな山だろう、前衛的なファッションセンスにげんなりだ。だけど
そんな君が好きだぁああああ」ちょっと叫んでみる
佐藤も立ち上がり横にかける
僕のこの奇天烈な行動に慣れっこの佐藤は冷静にことを運ぶのだが
「やまびこはかえってこないな、こりゃフラれたな、山にフラれた第一号がここにいる
前代未聞、空前絶後、いや、おれも好きだぁああああああ」
僕以上の大声だった、町全体が口をつぐんだかのような静けさがちらりとかいまみえた
普段、鷹揚な佐藤だけに僕もきょとんとしていた
やまびこはかえってこなかった、そういう立地条件があるのだろう
「どうしたんだ、ついに好きな子でもできたのか?」
「うん」お茶を濁すことなく、殊勝にそう肯いた
「おまえらしくもない」
「らしいとは、なんだよ、好きな子ができちゃ悪いかよ」ちょっととげを含んでいる
「悪くはないさ、ただ幸先を越されたのが、ふにおちないわけさ」
「幸先か、よいきざしなんてこれっぽっちもないがな」
「俺は小沢さんいがい、これっぽっちもない」
「悲しい男だな」
「おう」
小学校からの予鈴が聞こえる、僕たちには予鈴なんてない
ありがたくその予鈴を聞き流しそそくさと弁当をたいらげて教室に引き返した
感想、指摘そのたもろもろあれば気兼ねなくどしどし
くださいな
それが言動力ですので・・・・
僕も大人になりたああああい