歌手を夢見る夢子
「歌手になりたい」
私がそう言った時、
「お前になれるわけがない!」
とあんたは、そう言ったよな?
私だって、なれるなんて思っていない。
だけど、夢見ることは、自由だよな?
夢見ることすらも、否定するのかよ。
自由の権利を奪うのかよ。
くそ。
今に見てろ。
絶対、歌手になってやる!!
「南あさみって、すごいよね。1曲1曲違った感じがして。曲調も毎回違うし、歌声も、可愛かったり、綺麗だったり、カッコ良かったり。いろんな顔を持ってるというか…」
みほが私に話しかける。
そうか…南あさみって、すごいのか。聞いていて飽きない感じか。なるほど。
「ねぇ!あゆみ、私の話、聞いてる?」
はっ、と我にかえる。
「ごめん、ごめん!そうだよね、南あさみって、すごいよね」
私は、深く考え込む傾向にある。
しかも、誰かと会話をしている時に。
自分の世界観を持っているのか。
それとも、ただ単に人の話を聞いていないだけか。
よし、私は、南あさみみたいな歌手になろう。
人のことをあまり褒めないみほが褒めるほどの、実力者。
よし、家に帰って、南あさみについて調べよう。
あの透き通った白い肌になれる方法も…
「ねぇ!!あゆみ、今の私の話、聞いてた?」
はっ、と我にかえる。
「あぁ…ごめん。聞いてなかった…なんだっけ?」
「もういいよ!もう!あゆみはいつも、そうやって何か考え込むんだから」
空想したり、思考に耽ったりすることは、悪いことではないと思う。
ただ、ここまで人の話を聞けないのは、私の悪いところだ。
人間には、いいところも悪いところもある。
多分、人はみな、いいところと悪いところの割合は、五分五分だ。
私にも、いいところと悪いところが、五分五分であるはずだ。
悪いところは、サッと思い浮かぶが、いいところは…
「ねぇ!!!あゆみ!!!いい加減、怒るよ!?」
はっ、と我にかえる。
「ええっ?どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよ!!また私の話聞いてなかったでしょ?もう、いい加減にしてよ!!」
よし、家に帰ってから、いろいろと思考に耽ろう。空想もいっぱいしよう。今は、みほとの会話が大切だ。
「お腹すいたね」
私がそう発すると、みほが苦笑いしながら言った。
「小学生かっ!もっと大人な発言できないの?(笑)」
私はカッとした。私が大人でない?んなわけ無いでしょ!みほだって、子供っぽいし。あんたに言われたくない!!
私は黙り込んだ。
「もしかして、怒った?」
みほが言った。
なんだか、みほには、心の中を見透かされるような気がすることが多々ある。正直、怖い。