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進まない話、落ちる投稿頻度、誠にごめんなさい(..)


 私は今、巨大な平地を中心に、周囲を厚い段差状の壁で覆い尽くす広場――円形闘技場のような場所――に連れて来られていた。そしてきょろきょろと祖父の邪魔にならない程度に周囲を観察することしばし。


「――さあ、好きなのを選べ」

「…………」


 ……えーっと、死に方を?


 眼下に見える鎧の大軍と、周囲の段差――まあ、現代風に言えばサッカースタジアムの座席ね――にぞろぞろ集まって座り始める見覚えのあるカラフルな群れを確認し、戦々恐々と祖父を伺う。


「……どうした?」


 しかして謁見した際とは打って変わり、無表情ではあるもののどこか気の抜ける無表情で祖父がこてん、と可愛らしく小首を傾げて問いかけてきた。

 先程までの迫力美形はどこへ消えたのか、目の前のほんわか美形に思わず私も小首を傾げる。


「ぷっ……!」


 私の見えない祖父の背後から押し殺したような笑いが聞こえてきた。……どうやら、雰囲気的に思ったより物騒なことになりそうではないようだ。

 ちらっと見た周囲に処刑定番の断頭台が見当たらないのもあってひとまず安全と判断する。

 ……まぁ、今は無いだけで処刑準備中という可能性も無きにしも非ずではあるので油断は大敵。


「……好きなのを選べばいい」


 催促するように言って祖父が眉根を寄せる。しかし、好きなのを選べと言われても何を選べばいいのか、具体性が無さ過ぎて謎過ぎる。

 私も祖父同様に眉根を寄せていると、回り込んできた宰相が「ブフゥッ……!」と小首を傾げたまま小難しい顔でお互い見つめ合う私と祖父を見て噴き出した。

 いったい私は何を求められているのか……。薄々思っていたけど、祖父は口数が足らなさすぎると思うんだ……。


「……お、恐れながら、陛下。皇女様はまだ幼い身ゆえ……こ、こちらで選抜致したほうがよ、よろしいかと……」


 小刻みに震える声を絞り出して告げる宰相の声ではない声に、身体がビクッ! と跳ね上がる。後ろに誰か居たんだ……祖父の腕にすっぽり抱え込まれてて回り込んだ宰相以外全く気付かなかった。

 それと、選抜……? 人気投票とかありそう。……と、冗談はさておき。なるほど……目の前の騎士らしき集団と誰か知らない人の選抜と言う単語で大体分かった。

 確か祖父と会うこと含め、その後についても先に宰相の説明があったけど、あれか。専属の護衛騎士を選ぶのか。


 ……なーんだ。処刑見学のための観客じゃなかったのね。


 ここにきて不可解な現状の理由が分かり、ホッと心の中で一息つく。今まで緊張でバクバクしていた心臓が徐々に落ち着いてくのが分かる。色々納得いったせいか、ふてぶてしくも興味津々に眼下の大軍を大胆に見下ろす。


 ――ほえー、改めて見ても凄い数……。


 というよりそもそもからして何も知らない私が選ぶより、選んでくれるというならそのほうが確実よね。宰相もそのつもりで先に説明してくれていたんだし……ハッ!

 ということは、万事解決!? もしやこれでやっと部屋に帰れるの、か……!? ほっ……よかっ――


「――そんなことはない。選ばせてやれ」


 そんなことあるぅぅぅっっ……!!


 先程までの気の抜けた無表情から一転、キラキラと星をばら撒くような自信に満ち満ちた無表情に雰囲気が変わったかと思うと、祖父がいかにも優しさのように周囲に告げて、ニヤッとドヤる。


 ――いやいやっ、なんで当事者より自信満々なの!? そして何故最後だけ若干決め顔なのっ!? そこは最後まで無表情貫けよっ!


 祖父の断固とした態度に周囲の焦りが伝わってくる。私はと言えば、なんだかバカらしくなってきて、祖父を三歳児にあるまじき死んだような胡乱気な目で見ていた。

 死刑宣告ではないと知り、気を抜いたのも束の間、なに故に祖父が自信満々に二回しか会ったことの無い孫娘のため、要らない擁護をするのか。

 散々周囲に対して任せるの一辺倒でしかなかったというのに……これだから気まぐれなお偉いさんはっ……!


「しかし……」


 余計な事言いやがって……と思ったのは私だけではなかったようで、祖父越しで顔は見えないけど、宰相その他が凄い不本意そうな声で渋る。

 いいぞ! もっと粘れ!


「――くどい」

「しっ、失礼いたしました……!」


 しかしそれも祖父の一声により速攻で意見を鞍替えしてしまった……。ほんとーに役に立たないじじいだな。もっと老けろ! ハゲロ!


「仰せのままに……!」


 諦めはーやーいー……! この、裏切り者ー……! 意気地なしーっ!


 可能な限り脳内で罵詈雑言を浴びせるものの、聞こえていない宰相らは沈黙してしまった。とりあえず禿げ上がる呪いでも念じておこうかな。


「――好きなのを選べ」


 邪魔者はいなくなった、さあ選べ――と如実に告げてくる祖父の目を読み取ってしまった私は、ひとまずもう一度適当に眼下を見下ろしてみた。

 上からでは案の定小粒のようにしか見えないので、適当に選ぶにしても見分けもつかない。どうしたものか。むむむっ……。


「見えない……」

「そうか」

「…………!」


 しまった! 思わず心の声が!


 色々あって気が緩んでしまったが、祖父が選べと言ってるのに見えないとはさすがに大胆過ぎた。色々聞こえてきた暴君もかくやな噂が脳裏を()ぎる。


「……行ってくる」

「「「はっ!」」」


 祖父の顔を見るのが怖くて明後日の方向を見ながらダラダラ冷や汗を流していると、祖父と宰相たちが何やらやり取りしたかと思うと、急に祖父が前へ歩き出す。


 ――ん? 前……?


 状況を理解するとともに全身から血の気が引き、見なくとも顔面蒼白なのが感覚で分かる。そして先程の比ではない冷や汗がダラダラと全身を伝った。

 つい先程まで見下ろしていた場所は私たちの手前、祖父に抱えられている私が下の人を小粒と見下ろせるような立ち位置に私たちは立って居たのだ。

 ――そう、前に進めばどうなるかなど、明白である。


「おっ……ぃ!」


 ――ひぃぃぃぃぃぃぃ……ッッッ!!


 祖父が私を抱えたまま平然と一歩を踏み出すと、自由落下の浮遊感が一気に不安定な私の全身を襲う。舞い上がりなびく髪を置き去りに目視体感50メートルはありそうな高さから何の命綱も無く落ち続け、地面がぐんぐん近付いて――


「――何をしている?」


 焼死とギロチン、落下死、どちらがマシであろうか。息苦しく焼かれて昇天と一瞬の痛みに伴う直前までの恐怖、当たり所による全身の激痛による継続的な死の恐怖、どれがマシかと言われるとどれも御免被りたいのが本音だ。


「目を開けろ」


 ――ああ、せめて一瞬であの世に……え?


 ぎゅっと閉じていた瞼をぱちぱちと、祖父の声に導かれ、まるで光に慣らすように祖父の顔をガン見した。先程までの浮遊感はもうない。

 あれ? これ死んだのでは?


「見えるか?」


 そう問いかけてきたかと思うと、おもむろに脇下に手を差し込まれて持ち上げられた。そして、されるがままで周囲を見渡したが――


 ――はくーなまたーたぁ……


 既視感と現実逃避に身を任せ心で呟いたが、現状が変わるわけでもなかった。心労で飛びかけた意識を手繰り寄せ、冷静に判断する。

 どうやら無事? 着地出来たようで、持ち上げられた視線の高さから祖父の頭越しすぐ下に、小粒だった騎士たちがズラリと静かに並んでいた。

 

「――見えたか? 好きなのを選ぶといい」


 三歳児にあるまじく修行僧のように悟りを開いた目で、達観し始めた私の表情をよそに、祖父は持ちあげた私が騎士たちを見えやすいようにと「ここらへんか?」とかなんとかブツブツ呟きながら位置の微調整までし始めた。


 頼む、もう晒し物はやめてくれ……。


 近くで見ると迫力のある騎士たちに、じーっと見つめられてこのまま穴が空きそう。目線は合わせられない。

 だってなんか、変な気迫というか、熱気というか、とにかくとてつもない大きな波というか、まあつまり期待に満ちた視線、空気が重いのだ。

 確かに、三歳児とはいえ唯一の後継者である私の護衛ともなれば将来は安泰に違いない。しかも本人のご指名ともあらば尚更名誉とか凄いんだろう。


 ――ギラギラ、じーー、きらきら、うっとり、ちらちらと視線が届く。


 謁見前に付け焼刃で宰相にちょこっと聞いてただけで「こちらで選抜しますのでご心配なく……」などと宰相も言っていたし、その時は「へー、そうなんだー」くらいの軽い受け身の気持ちだったのでまさか自分で選ぶことになるとは夢にも思っていなかった。

 あいつやっぱり肝心なところで使えないやつだな。改めて宰相の株を下げていっそう禿げる様に心の中で唱えた。


「――どうした。好きなのを選んでいいぞ」


 ――はっ! しまった!


「う、うーん」


 宰相に呪いをかけることで心の安寧を保っている場合ではなかった!


「わ、わかんない……」


 祖父の言葉に返事をするべく咄嗟に出た言葉は、我ながら曖昧な表現だった。とはいえ、言ってからはたと、もしかしてこのまま秘儀「わたしむずかしいことわかんなーい、こわーい」とかなんとか言っとけば最終的にうやむやに出来るのでは――!?


 ――と思っていた瞬間もありました。


「分からない? なにがだ?」


 太陽の眩しさに目を細めるように、それはもうど直球に祖父が聞く。いやまあ、なにがと言われましても……。

 言ってる意味は分かってるけど分かりたくないというか……結局のところ、ワカラナイと嘘をついてしまった身としては何も言えない。


「う、うーん?」


 とりあえずどうにかごまかせないだろうかと首を捻っていると、何を勘違いしたのか、「そうか……」と一言。「ん?」と祖父の異変に気付いたのも束の間、次の瞬間、信じられないことをのたまった。


「――全員、馘首(かくしゅ)だ」


 祖父の声に反応して背筋が伸び、さらにはひぃぃっとか細い悲鳴が勝手に漏れた。と同時に、聞きなれない語感に「かくしゅ?」と声が漏れた。

 祖父の言葉が、何か居並ぶ騎士たちにとって嬉しくないことだけは、急激に蒼白になりガクガク震えている様子から分かるけど……。

 そして運の悪いことに、というか必然とも言えるかもしれないけど、抱っこされている私の呟きはしっかりと聞こえていたらしい。


「ああ、馘首(くび)を切る」


 と、平然と言ってのけた。「――え?」と言葉の意味を理解するまで、しばらく固まる。そして理解したと同時にあまりな急展開に頭がパニック状態になった。


 ……だって、くびをきるって、そんな、……そんなあっさり言われるとは思ってなかった……!


 何が祖父の(しゃく)(さわ)ったのか、状況的に私の曖昧な態度のせいだと思うけれど、その場合だと騎士たちは完全なとばっちりである。

 いくら暴君であると噂で聞いていても実際に私が目にしたのは()()()()()()だけだ。

 まさか文字通り、何の罪も無い人たちを相手にそのような発言をするとは思わなかった。どうすればいいのか、どうしようもないのか。頭が混乱する。


 ――『――役立たずにも程がある』

 ――『――使えない奴らだ』


 混乱する脳がキャパオーバーしたのか在りし日の記憶がここぞとばかりに脳裏を過ぎる。忘れようとしても、脳裏に(うみ)が溜まったようにこびりついてしまった記憶。

 幼児にとって大昔とは言え、数年前なんて本当はごく最近の出来事だ。あの日の記憶は今なお鮮明。悪夢に(うな)されるように一語一句とて忘れられたことは無い。


 ――『――皇帝陛下は逆らう者や反逆者を、一族郎党、一人残らず皆殺しになさるそうですわ』


 さらに、噂をする(かしま)しい女たちの声までが記憶の中で反響する。


 ――『――まあ! わたくし、粗相をした王族のせいで国家を一夜にして滅ぼしたことがあるとお伺いしたことがありますのよ』


 そうだ。祖父は一国の王族でさえも躊躇なく滅ぼしてしまう暴君だと有名なのだ。高貴な存在でさえそのありさまなのに、目の前に並ぶただの騎士たちが何かできるわけもない。


 ――なぜ、忘れていたんだろう……?


 最初は警戒していたのに、少し何もされなかったというだけで安心してしまった自分が恐ろしい。何もされなかったのではない――


 ――今まで私に()()()()()()()だけだ。


 ――『――楽になりたいか』


 ふいに想い出したあの日あの時の無感情な言葉と同様、いや、それ以上に感情のこもらない声と表情で平然とそう言いのけた祖父は、やはり心底恐ろしかった――

 幼いころのショックな出来事は残りやすいそうです。

 まあ幼児の数年と大人の数年は価値が違いますよね。


 ……かくいう作者も幼児時代、例年より波の高い海へ遊びに行ったとき、身長の何倍もの波にビビって怖いからと拒否したのに、面白がった従妹に手ずから引きずられて波にさらわれて溺れたことがあります。

 いやあ、するりと波に命綱の手も離されてしまって息も出来ず動けずにゆっくりと沈んでいったときは私死んだ! と幼心に悟りましたよ。

 当時さりげなく私たち子どもを監視してくれていた救助のお兄さんが居なかったらとっくの昔に死んでましたね、ええ(遠い目


 それでは次回お楽しみに~(急展開

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