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ホームコメディと言いつつ最初期は割とシリアス多めでした……

(早速詐欺みたいな嘘をついてしまってごめんなさい)

後々コメディ! ……出来るといいなぁ……。


 エルターデリア帝国歴667年。帝国建国より長らく続いていた世界大戦は、世界の覇権を帝国が握ることにより終結。

 そして時の皇帝陛下、アダム・カルロス=エルターデリアの手によって終結した大戦より、30年の月日が流れた帝国歴697年。

 大戦の後、その傷跡を残しつつも栄華を極め、平和を享受する帝国にて世界に祝福されし貴き幼子が誕生した。

 ――その3年後。帝国に不和をもたらさんとした不穏分子に巻き込まれる形で犠牲となり、幼子の家族が落名。他に寄る辺の無い幼子は唯一直系の血縁である祖父、冷酷無比と名高い皇帝に、正式な皇位後継者として引き取られることとなった。


 ――これは帝国民に限らず、帝国が覇を唱えるこの世界ではとても有名な表の話であった。


 ……そう。表の話である。何故そう言い切れるのかと言えば、何を隠そう、私ことダリア・ローラ=エルターデリア御年3歳こそが(くだん)の幼子であり、裏の真実を知る数少ない者であるからだ。


「――ひめちゃま~、こちらのお召し物はいかがでちゅか~」

「うん!」


 現在、私専属侍女の長を務めており、周囲から堅物と評判のはずなのに、これでもかと相好を崩すマルグリットによって可愛らしい着せ替え人形と化していた。

 なに故このような状況になったかというと近々、現皇帝陛下であり、魔王と世界に恐れられる我が祖父、アダム・カルロス=エルターデリア現皇帝陛下と正式に初のご対面をするため、正装が必要だからである。


「――まあ! なんとお可愛らしいこと! これならばあの陛下でさえ間違いなく形無しですわ!」


 ――それはない。


 いつの間にか飾られていた自身を移す姿見に目を向ける。肩上まで伸びた暗い赤紫色――確か、葡萄(ワインレッド)色だったか――の髪は、グラデーションのように毛先が薄く美しい紅色に変わり、その瞳は宇宙(そら)に散らばる星の輝きを映したような金色に輝く。

 幼くも整ったパーツ配置と鼻梁の面を持つ幼女を着飾るのは、高貴な者にのみ許される色。黒を基調としており、ほぼ一色のみにも関わらずフリルやリボン、繊細な刺繍がふんだんに施された見事なドレスとなって負けず劣らず幼い美貌を美しくも可憐に惹きたてていた。

 見事に着飾った自身の姿を前に、私は幼女にあるまじき達観した目で遠くを眺めながら小さく嘆息した。


 ……断言しよう。あの男、祖父はいくら孫娘が絶世の美幼女だろうと、世紀末な不細工だろうと関係ない。


 そもそもの話、ここに至るまでの経緯を思い返せばさもありなんと言わざるを得ないふっかーい事情が存在している。それこそが表に出せない最重要な裏の真実である。

 後ろで大げさに褒め称えるマルグリットの言葉をいつものことと、右から左に聞き流しながら事の発端を思い出す。


 ――約2年前。


 この世に生を受けた私こと、ダリア・ローラ=エルターデリアは当時、1歳の誕生日を迎える直前であった。優しくも穏やかな両親の元、すくすくと健やかに育っていた私は当時から美しい赤子としてそこそこ評判であった。

 ……ばぶーとかあうあうとしか声を出せない赤ん坊相手に美しいとか意味が分からないけど、なんといっても、高貴な身の上の両親の美貌をそのまま遺伝させていたから、と言われればまあ無理やりだけど納得出来た。

 そのくらい、とにかく周囲には大層可愛がられていたともいえる。……マルグリットの過保護と甘やかしの前では今も大差はないけど。

 そしてそんな優しくも穏やか、甘え放題の育ち盛りである私の誕生日を、翌日に控えた前日の夜にかくして事件は起こった。


 ――クーデターである。


 当時の政治的な背景、そこに至るまでの詳しい状況、クーデターを企てた首謀者などなど……正直言うとはっきり覚えていないけど、対照的にひとつだけ、脳裏に焼け付くように、こびりつくようにトラウマとなってはっきりと覚えていることがある。


 ――『――生き残ったのはお前だけか』


 息を潜める私を見つけ、そう言うと、血に染まった剣を()()()から引き抜き、その男は焦るでもなく緩慢にこちらへ近付き、私の傍らに伏す、私を優しくも慈しみ、大層可愛がってくれた、侍女だった亡骸を軽々と蹴り飛ばす。


 ――『――役立たずにも程がある』


 たったその一言と共に一瞥をやるだけ。次に、同じく傍らに()()()を庇うように座り込み、最後まで勇敢にも抗い、守るために立ち向かってくれた執事を邪魔だとばかりに脇へ転がす。


 ――『――使えない奴らだ』


 怜悧な美貌でもって冷めた視線を向け、私が家族同然に過ごした大好きだった二人に対しそう結論付けると、こちらとそう距離も無かったはずなのに、嫌に長く感じた道のりの最後を、やはり緩慢に歩き近付く。


 ――『――ぁッ……!!』


 私が真上を見上げるまでの位置まで来ると、私を庇うように覆いかぶさっていた母の髪を乱暴に掴み上げ、持ち上げたかと思うと前の二人同様、邪魔だと示すように私から遠くへ転がした。その際、母の声にならないか細い悲鳴を伴って。

 遠くに転がる母の姿は、いつも美しく着飾り、穏やかな表情で夜泣きする私を優しい声であやしてくれていた面影は無く、ただでさえボロボロであったというのに、男の所業により、絹のように美しく輝いていた髪を幾本も、血塗られた床へ散らした。


 ――『……ぁ……りぁ……』


 あまりの光景に目を見開き、動けず声も出ないまま母を注視していた私を、口元から尋常でない血を溢しながら母は、焦点の合わない目で必死に手を伸ばし、私の名をか細い声で呼び続けた。

 床に広がる赤い色はいつまでたってもとめどなく広がり続けており、蒼白な死人顔で弱弱しく私を探す母は、もうとっくに息絶えてもおかしくない様相で、誰が見ても助からない。


 ――『――楽になりたいか』


 息を忘れたように母を凝視する私を気にすることなく、男が無感情な瞳で尋ねる。その声に反応した私は、大きく瞳を見開いたまま男へ顔を向けていた。

 今思えば、次々と事切れる家族同然の使用人たちは勿論の事、じきに事切れるだろう母を目前にしている衝撃的な場面。それに晒される1歳に満たない赤ん坊相手にとんでもない質問だ。

 質問の意味。それすなわち、「このまま死にゆくお前の家族と一緒にあの世へ送ってやろうか」と聞いているも同然であった。ただの親切なのか、単に後処理を厭うて聞いただけだったのか、とにかく1歳児未満への問いではないのは明らかであった。

 当時の私が額面通りの言葉の意味も、実際に問われたその裏の意味も、何もかも理解できるはずもないというのに、静かに問いの答えを待つ男は異様の一言に尽きた。

 そもそもそれに答えるための言葉を私は発することさえ出来ないというのに、その男はいつの間にか事切れてしまっていた母には一瞥もくれず、ただただ私を真っ直ぐ見つめ答えを待っていた。

 ……もし、このまま何も反応しないまま茫然自失としていれば、きっとその言葉通り男は私を安らかな眠りへと旅立たせてくれるだろう。言葉を発せずとも、本能で理解した。と同時に視界の端で男が剣を構えたのがぼんやりと見えた。


 ……ああ、あれで終わらせるのか。


 全てがぼんやりと進み、周囲は未だに赤の海が広がり続けていた。さらにいつの間にか轟々と周囲は業火に包まれ始めており、たとえ男の剣の錆にならずとも、このままここに置いて行かれれば当時1歳児未満の私が助からないのは明らか。


 ――『――楽に、なりたいか』


 静かに問う男の凪いだ金の瞳は、いつか鏡で見た自身の瞳と同じであったが、同じはずなのに、輝かしくも幸せに満ちた優しくも穏やかな色ではなく、どこか硬質な冷たさを感じさせるもので、それがたまらなく恐ろしく怖くて――


 ――可哀想な色だ、と思った。


 男の再度の問いかけに、首が疲れたせいか、生を諦め始めていたせいか、それとも両方か。理由は定かでないものの徐々に視線は下がり、男の足と濃い赤に染まる床を凝視する。


 ――ただ、このまま死ねたのなら。


 すぐに大好きな家族に会えるのだろうか。それとも、酷い悪夢だったと、夢から覚めて安心するのだろうかと。赤ん坊だてらに、本能で全ての生を諦め始めていた。

 動かなくなった家族を見てかなりのショックを受けており、嘘だと思いたかったのかもしれない。意味のある言葉を発せない分、家族に会いたいと願う欲求だけは直球であった。


 ――これが最後通告だ。


 雰囲気からそう、感じ取っていた私は、しかし最期を望んでいたはずの欲求とは裏腹に、いざ男が動こうとしたのを捉えた瞬間、反射的に何色であったかもはや面影のない、男の血に濡れたマントの端を、なけなしの握力でぎゅっと掴んでいた。

 優しい侍女が倒れピクリとも動かなくなっても、執事が私たちを背に庇い二度と振り返ることがなくなっても、母がボロ雑巾のように捨て置かれたまま事切れても、茫然自失としていた先程までついぞ落ちるのことの無かった薄情な滴が、頬を濡らしていた。

 薄情にも自分が死ぬという間際、今更になってはらはらと零れ落ちる涙はそのままに、私は男の怜悧な美貌をしっかりと見上げていた。


 ――生きたいと、全身全霊で示すように。


 ――『――……そうか』


 男はそれだけを言葉にすると、弱弱しくマントを掴む私をそのままに抱き上げ、まるでその場で何事も無かったかのように業火の中を優雅に歩き出した。

 道中に倒れ伏す、大好きだった家族たちを躊躇なく踏み越えていく景色を、私はただただ頬を濡らしながら、忘れぬようにと目を限界まで開いて見ていた。

 燃え盛る中を堂々と抜けると、夜に映える月明かりが血まみれになった私たちを照らしていた。炎で崩れ落ち始めた豪邸を後に、私たちは皇帝の住まう城へと帰還した。

 最後に見たのは、弓と剣に串刺しにされ焼け爛れた崩れかけの遺体。その遺体の手には、脳裏に焼き付いて離れない、母の最期に伸ばされた手にもあった――


 ――揃いの指輪を嵌めていた。


 ……そんなこんなでクーデターは鎮圧。私は命拾いしたけれど、今となっては生き残ったのは奇跡に等しいと思う。――何故ならクーデターの旗印、張本人の娘であったのだから。

 そう。なんのことはない。ここまで言えば分かると思うけど……2年前、愚かにも旗印とされてしまった両親を皇帝陛下自ら粛清されただけ。私たちは被害者ではなく加害者側であったという簡単な話である。大人の事情とやらで、どうやら公表されてないようだけど。

 ……私がついでに生き残ったのは陛下の気まぐれでしかない。当時、慈悲も無く私の家族をあっさり切り捨てていたのだから。それに、当時すぐに保護するでもなく今までの数年間放置していたというのに、今更祖父の意思で保護されるに至ったのではないことは明白。

 それを示すかのように2年前のあの日は城へ帰還後、私をそこらで通りがかった若い新人侍女――当時城に奉公に来たばかりであったマルグリットのことだけど――に放り投げるように渡すと『――後は任せた』と言葉を残して、そのままスタスタと何の事情説明も無く豪奢な廊下の奥へ消えてしまったのだから。


 ――どうすればいいのか。


 ありありと分かる当時のマルグリットの困った表情は致し方ないものだったし、むしろ困ったわと言うだけで私を抱え直し落ち着いて悩むマルグリットの反応はちょっとズレていたと思うほど。

 普通は奉公に来たばかりの右も左も知らない未婚の子女に対し、ただの赤ん坊を渡すならまだしも、――ってそれもおかしいけど――当時の私は返り血をこれでもかと浴びていた上、時間が経っていたせいか、血が冷えたせいか、赤が全身をこびりつき凄い匂いをしていただろうから。

 結局、またしてもたまたま通りがかった別の侍女が立ち尽くす私たちを発見し、大騒ぎとなったもののその後も色々あって私は無事、保護されるに至った。


 ――ああ、そういえばあの後、安心したせいか後になって怖くて泣けなかった分、夜通し泣き続けた私をマルグリットが朝まで傍にいてあやしてくれたんだっけか。


 現在、遠い目で過去の記憶を掘り起こす私をよそに、鏡越しでどうしてこうなったと小一時間は問い質したいくらい、当時とは変貌しているマルグリットを背に切に思う。


「――姫様の艶やかに波打つ御髪は夜の帳が下りる寸前を切り取ったかのように淑やかに輝きを放ち、まるで落ちゆく日の光を優しく包み込むように慎み深くも力強い安心感を放っており、神々に許されぬと持てぬ瞳の色は数多の金銀財宝といった黄金の輝きさえも霞むほどの煌めきを秘めており――」


 ……どうしてこうなったんだっけか。


見切り発車もいいところですが、他の作品と合わせてちょこちょこ投稿出来たらいいなと思ってます!

(※注※思ってるだけです)

が、頑張ります! ……色々。

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