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友達料金

 エルメスが扇を大きく開いて見下しながらそう言った。

 プリシラはエルメスの嫌味を意に介さず、アムネジアをかばうように前に出る。



「あたしはマイン男爵家の娘です。元は平民ですが今は貴族である以上、ここに入る資格はあります」


「笑わせないでちょうだい。男爵家なんて身分の低い家柄、私にとっては平民と同じです」


「貴女にとってはそうかも知れないけれど、会場内に入れた以上、あたしは周りには貴族として見られているということです。現実を見てくださいね、世間知らずのお嬢様」



 一歩も引かないプリシラの態度にエルメスがいらだたしげに顔をゆがめる。

 エルメスの取り巻きはそんなプリシラの物言いに色めきだった。



「エルメス様に対してなんて口の聞き方をするの! 卑しい平民出の女め!」


「アムネジアの前にアンタを処刑してやろうか!」



 そんな脅しの言葉に対してもプリシラは顔色一つ変えることはなかった。

 むしろより眼光を鋭くして、取り巻き達をにらみつける。



「な、なによ……!」


「やるっていうの!?」



 たじろぐ取り巻き達を一瞥した後、プリシラは自分達に好奇の視線を浴びせながら取り囲んでいる周囲の者達に振り返った。

 そして、両手を広げて大きな声で叫ぶ。



「みなさん! どうかみなさんにお慈悲の心があるのなら、あたしの願いをお聞き届けください!」



 エルメスがチッ、と誰にも気づかれないように舌打ちをした。

 プリシラは両手を祈るように胸の前で組んで、哀れみを誘うような悲しげな顔で子息達に流し目を送る。

 プリシラと視線があった子息は皆、頬を赤らめ、心臓を高鳴らせた。



「……アムネジア様が一体、何をしたというのでしょうか? このような仕打ちを受けるような行いを、いつしたというのでしょうか? どうか皆様にお慈悲の心があるのでしたら、彼女に対する非道な仕打ちを辞めさせるように私と一緒に言って下さい。お願いします」



 その声に、表情に、仕草に。

 子息達は皆、プリシラに心奪われる。

 この場に少しでもプリシラを疑わしく思う者がいれば、それは完璧に計算されつくした振る舞いであることに気づけたかもしれない。


 だが、残念なことに今宵この場に集まった子息達の中にそのような賢い者は誰一人としていなかった。



「……そうだな。もうそこら辺で良いのではないか?」


「ああ。アムネジアも痛めつけられて十分に自分の立場を弁えただろう」


「処刑はさすがにやりすぎだよな」



 子息達から次々にアムネジアを擁護する声が上がる。

 すると周囲で散々罵倒を飛ばし、野次を放っていた令嬢達は渋々といった顔で黙り込んだ。



「え、エルメス様……ど、どうしましょう」



 取り巻き達が焦った顔でエルメスの方に後ずさる。

 エルメスは小さくため息をついて目を閉じた。

 そしておもむろにプリシラの側に歩み寄る。

 身構えるプリシラの横でエルメスは立ち止まると、耳元でささやいた。



「……男共に守られているからといってあまり調子に乗らないことね。ネーロ家の力を持ってすれば、男爵家の小娘一人捻り潰すことなんて造作もないことよ。肝に銘じておきなさい」


「……家の力に守られている貴女に言われたくないですね。さようなら、エルメス様」



 パン、と扇を閉じると、エルメスは肩をいからせて振り向きもせずに会場の入口に歩いていく。

 取り巻き達もその後を慌てて追いかけていった。

 彼女達がいなくなると、アムネジアをいじめようと集まっていた令嬢達は不満そうな顔をしながらも、方々に散っていく。

 逆に子息達は、蜜に集まる虫のように我先にとプリシラの元に駆け寄っていった。



「プリシラ! 私の可愛い天使(マイエンジェル)よ! 今宵は一緒に踊ってくれるのであろうな?」


「お前の慈悲深き心、感服したぞ。さあ向こうのテーブルでこの国と二人の未来について語らおうではないか」


「他の男など見なくてよい。俺の手を取れ。共に踊ろうではないか、俺の可愛い果実(マイピーチ)よ」



 次々に求愛の言葉をささやく子息達に、プリシラは花開くような笑顔を向けて言った



「皆さん、先程はお口添えいただきありがとうございます。やはりいざという時、殿方は頼りになりますね」


「プリシラ……私で良ければいつでも頼ってくれ」


「今宵、俺は君だけの騎士(ナイト)になろう……愛しい人(マイレディ)よ」



 デレデレと鼻の下を伸ばす子息達としばらく会話したプリシラは、言葉巧みに彼らの求愛を交わすと、輪の外でたたずんでいたアムネジアに歩み寄る。

 アムネジアは向かってきたプリシラにスカートの裾をつまんで会釈すると、笑顔で礼を述べた。



「お手数をおかけしてしまい申し訳ございません。ありがとうございました、プリシラ様」


「いいえ、人として当たり前のことをしただけです。そんなことよりもアムネジア様」



 にっこりと笑ってプリシラが首を傾げた。



「なにかあたしに言うべきことがあるんじゃないですか?」


「はい。ですからありがとうございましたと――」



 最後まで言わせずにプリシラはアムネジアの手を掴むと、人気のない会場の壁際まで連れて行く。

 それから周囲を見渡し、誰も自分達に注目していないことを確認すると顔を寄せて言った。



「……なに寝ぼけたこと言ってんですか? あたし前に言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」

面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、

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