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自業自得

 アムネジアが声をかけると国王夫妻は振り返り、申し訳なさそうに言った。



「おおアムネジアよ。痛かっただろう? 愚息がいたらなかったばかりに、そなたにはまた辛い思いをさせてしまったな。なんと詫びれば良いか」


「貴女のドレスをそのような目に合わせた者に必ず責任を取らせます。それがどのような家の者であってもです。もちろんフィレンツィオにも相応の罰を与えます。ですからどうか、婚約はこのままで――」


「辞めないか、ラドネイア。このようなことがあった以上、こちらから婚約を続けたいなどと、一体どの口が言える?」


「貴方……」



 ため息をつきながら肩を落とす国王を見て、王妃が両手で顔を覆った。

 状況がまるで分かっていないフィレンツィオは、呆然とした顔でへたりこんでいる。そんな彼を見て国王は首を横に振ると、アムネジアに向き直って言った。



「……アムネジア。この責任はすべて息子の教育を間違えた余とラドネイアにある。そなたがもし婚約破棄を望むのであれば、王家はそれを認めよう。もちろんツェペル家には相応の賠償もさせてもらう」


「本当ですか! 父上!」



 うずくまっていたフィレンツィオが勢いよく立ち上がる。

 フィレンツィオはプリシラの手を取ると、満面の笑顔で言った。



「やったな、プリシラ! これでなんの気兼ねもなく俺達は一緒になれるぞ!」


「え、ええ……」



 プリシラは曖昧な笑顔で答えた。

 彼女としては国王夫妻を婚約破棄に同意させるのが一番の難所と考えていただけに、この結果は喜ばしいものである。

 だがアムネジアは先程、婚約破棄には同意しないと言い切っていた。


 さらに話の流れからいって、国王夫妻が何の言いがかりもなく、二人の婚約破棄を認めるとは到底思えない。

 そしてそのプリシラの杞憂はまさに現実のものとなった。



「何を勘違いしておる。婚約破棄がなされた時点で貴様は廃嫡だ」


「……は?」



 呆然とした顔でフィレンツィオが固まった。

 さらに国王は厳しい表情でフィレンツィオに告げる。



「そのうえ平民に身分を落とし、国外に追放する。この国に足を踏み入れることは二度と許さん」


「な、なぜですか!? たかだか婚約を破棄する程度で、そんなに厳しい罰を受けるいわれはない! 父上と母上は俺のことが嫌いなのか!?」



 子供のような反論をするフィレンツィオに、国王夫妻が呆れた表情で言った。



「好き嫌いの問題ではありません。これはお前が今までアムネジアにしてきたことに対する相応の罰です。それが散々無礼を働いたツェペル家への、我々王家ができるせめてもの償いというもの。黙して受け入れなさい」


「貴様は先程、アムネジアにこう言っていたな。こうなったのは自業自得だと。その言葉をそっくりそのまま貴様にくれてやろう。これは自業自得だ。諦めよ」


「ば、馬鹿な……こんな、こんなの何かの間違いだ……俺が廃嫡だと……嘘だ、嘘だ……」



 がくり膝から崩れ落ちるフィレンツィオ。

 この時点でプリシラはフィレンツィオを切り捨てることを心に決めた。

 いくらプリシラが頑張って二人の婚約を破棄させても、その結果としてフィレンツィオが廃嫡になるのであればなんの意味もない。


 もとより王族であるというただその一点だけが取り柄だったのに、平民にさせられた上に国外追放されるフィレンツィオと共倒れになるつもりは、プリシラにはさらさらなかった。

 そんな冷徹な計算をプリシラがしている中、アムネジアが国王夫妻に向かっておもむろに口を開く。



「私は婚約破棄など望んでいません。むしろ末永く、王家とは良い関係を続けていきたいと考えております」



 そう言って笑顔を浮かべるアムネジアに、この場の全員が困惑した。

 散々フィレンツィオに虐待されていたのに、なぜ笑顔でそんなことが言えるんだ、と。

 国王夫妻は互いに顔を見合わせた後、怪訝な表情を浮かべてアムネジアに言った。



「こちらとしてはありがたい申し出だが、本当に良いのかそれで」


「ツェペル家や王家に気を使って無理に言っているのではなくて?」


「いえ、これはまごうことなき私自身の本心でございます。それに――」



 アムネジアがフィレンツィオの方に視線を向ける。

 顔をしかめるフィレンツィオに、アムネジアは含みのある笑みを浮かべて言った。



「……フィレンツィオ様が婚約破棄をしたいと言っているのは本心ではないと、私は考えております」

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